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139話

 焼けた野原に、燃え盛る髪をなびかせる男が大剣を大地に突き立てている。過剰な破壊活動にも見えるが、森の中と言う燃えやすい環境で戦場となった場所以外に一切火の手が回っていない事を考えると、流石炎を司る神であると言うべきか。


「………何の用だ」


 フラマガルドがふとドスの利いた声で何かに問いかける。そんな彼の背後に、一人の少女が空から降り立つ。蒼い髪と翼を持った少女だった。


「………トネールがそろそろ戻って連絡を寄越せって相当ご立腹だよ」

「ちっ………あの老いぼれめ。今まで何をしていた」

「あなたも決して若くは無いと思うけど」

「何か言ったか?」

「なにも」


 赤い瞳に睨まれ、首を振って白を切るフェイリシア。そんな彼女の様子を見て、フラマガルドはため息を付く。とは言え、互いに無益な言い争いはしたくないと思っているため、これ以上食い下がることもないが。


「今更神界に向かって何をしろと?奴らと話すことは無い。失せろ」


 とは言え、わざわざ出向く理由もないのだが。彼女に背を向け、その場を後にしようとするフラマガルド。現状、フラマガルドからしてみれば神界にいる神々は何もせずに傍観を決め込んでいるだけで何もしていない。今更戻って話すなど、あまりにも悠長な事だと切って捨てることができる物だった。

 そんな事を考えるのも、あちらの考えを知らないが故だったのだが。


「………別に私は帰ってもいいけど、トネールは状況次第では『扉』を開くつもりだよ」

「………なに?」


 フェイリシアの言葉に、元より鋭い目付きを更に厳しくして彼女の方を振り向く。フェイリシアはそんな彼の態度を予想していたと言わんばかりにため息を付く。


「先に言っておくけど、私だって賛同は出来ないよ。でも、知ってるでしょ?星命樹が浸食を受けたのは。私達じゃ、それをどうする事も出来ない」

「だからあの『扉』を開くと言うのか。奴は、それがどのような意味を持つか分かっているのだろうな」

「分かってる。けど、禁忌に縛られた私達が出来る事は少ない。苦肉の策………って言うには、少し短略的だけど。トネール達も悩んでるみたい」

「………愚かな。あれも禁忌にするべきだったのだ」


 吐き捨てるように言うフラマガルド。そしてしばらく彼は彼女を睨んだまま言葉を続ける。


「………奴がどうしようと、俺は知らん。しかし、神の過ちの負債を負うのは我らではなく、この星に住まう者達だったと言う事を、忘れたとは言わせんぞ」

「それが神の本質だから。無駄だと思うけど、一応伝えておく」

「話はそれだけか?」

「………こんなことを、いつまで続けるつもり?」


 フェイリシアは焼き野原となった周囲を見渡しながら言う。それに対し、フラマガルドは鼻を鳴らす。


「状況が変わるまでだ」


 フラマガルドはそう言い残し、炎に包まれてその場から消える。彼の気配が完全に察知できなくなったのを確認し、フェイリシアは小さくため息を付いた。平然とした態度を取っていたとはいえ、古の神々の中では現状最も余力のある戦神であるフラマガルドを前にして、一切緊張をしていなかったと言えば嘘になる。彼の機嫌を損ねるような話題を持ってきていたのであれば尚更だ。

 若い頃のフラマガルドは血気盛んであり、気に入らないことがあればすぐに実力行使で打開すると言う暴君にも近い存在だったが故に、その頃を知っている彼女からすれば気が気でなかったのだ。

 そんな彼も、一人娘である太陽神ソルガルドが生まれてからは威厳と落ち着きを持ち始めていたのだが。


「………まだ、あの子の事を悔やんでるんだね」


 彼が持っていたはずのネックレスが無い事に気付いても、それを指摘しなかったのは彼がそれをどうしたのかを薄々気付いていたからだろうか。しばらくフェイリシアはその場に立っていたが、やがて翼をはためかせ、その場から瞬く間に姿を消すのだった。











 僕たちが森で調査を始めてから五日目の早朝。え?予定では三日だった?まぁ、そんなこともあるよ。エコーだけじゃなく、フラウやステラも彼らとの別れを惜しむ物だから、中々帰ろうと言い出しづらかったんだ。

 とは言え流石に長居しすぎたし、ここの調査も殆ど終わってしまったからそろそろ頃合いだろう。面白いものは多く見つかったけれど、やはり未知の発見となればそう簡単にはいかない。やるべきことも多く残っているからね。

 僕は荷支度をしながら、別れの挨拶をしているエコーとカーバンクルを横目で見る。


「………元気でね」

「クルルゥ………」


 互いに寂しそうな声を上げる。それを見て胸が痛まない訳ではないけれど、仕方のない事であることも分かっているんだろう。一応、二日前にやっぱり僕達とは別れて自由に生きるかどうか尋ねてみたけれど、その時もはっきりと僕の下で助手として生きると答えは貰っている。

 荷支度を終えて立ち上がると、フラウ達も集まって来た。


「エコー、行くよ」

「………はい。じゃあね」

「クルル………」


 エコーが立ち上がって僕らのほうに歩いて来る。カーバンクルは黙ってそれを見ていたけれど、僕は小さく笑みを浮かべて彼に声を掛けた。


「ありがとう。また来るよ」

「クルル?」

「あぁ、本当だ。だから、しばらくお別れだ。短い間だったけど、凄く楽しかったよ」

「クルルルゥ!」


 自分もだ。と言うように鳴き声を上げるカーバンクル。その姿を見て、暗い表情をしていたエコーが少しだけ笑みを浮かべた。


「じゃあ、またね」

「またね」

「………また会おうね」

「短い間だったけど、ありがとう。またね」

「クルルル!!」


 僕たちは別れの挨拶を告げて、森を後にした。シルバーホーク達も、わざわざ隠れていないで挨拶一つくらいしてくれれば良かったのに。まぁ、あの場はカーバンクルが代表してと言う事なんだろう。

 さて、帰ったらまずは何から終わらせていこうか。村の様子を見に行くのも当然だし、途中になったままの研究だってある。森の探索で研究材料は多く集まったし、しばらくフィールドワークに行く必要は………あぁ、でも結局ソルの所へはあれ以来行っていなかったね。土産話………って言うにはあまりにもスケールが大きいけれど、話題は出来たから向かってみても良いかな。

 あの湖にはもう龍もいなくなったし三人を連れて行っても良いんだけど、正直神との雑談と言う場面に連れて行くと言うのはあまり気が乗らない。それに、僕はまだ彼女が絶対に安全だと確信はしていないからね。


「………帰ったら、何をするの?」

「あぁ、今その話をしようと思っていたんだ。まずはそうだね………うん。まずは村の様子を見に行こうかな。エコーの紹介もしないといけないし」

「村、ですか?」

「うん。良く世話になっている所でね。君も今後は付き合いが増えるだろうから、顔合わせだけでもするべきだと思ってね」

「分かりました」


 しっかりと頷くけれど、少しだけ緊張した様子のエコー。人見知りと言うほどではないと思うけど、今まで他人との関わる事が少なかったからか、知らない相手との対話は少し苦手なんだろう。


「後は………そうだね。少し出掛けないといけないから、村への案内は二人に頼めるかな?」

「………シオンと一緒に行ったら駄目?」

「そうだね。申し訳ないけど、僕一人じゃないと色々と問題がある用事なんだ」

「………そう。危ない事じゃない?」

「あぁ、それは大丈夫だよ」

「………じゃあいいけど」


 実際は断言できるわけじゃないんだけど、嘘でもこう言っておかないとフラウは不機嫌になってしまうだろう。既に若干拗ねている気がしないでもないけど。兄離れ出来ない妹のようで可愛らしいと思うけど、本人に言うと怒るから困ったものだ。


「………本当に私も行かなくて大丈夫?」

「大丈夫だよ。ちょっと知り合いに会いに行くだけだからね」

「………そう」


 やっぱり拗ねてしまった。少しだけムスッとしたフラウに僕とステラは苦笑をして、ステラがそんな彼女の頭を慰めるように撫でていた。すると、僕の背中をロッカが小さく突く。僕が振り返ると、ロッカは自分を指差してアピールをする。


「!」

「ふむ。そうだね………君には付いて来てもらおうかな」


 もしもの事が無いとは限らないし、彼なら連れて行っても問題はないだろう。ただ、危険が無いと言ったのにロッカを連れて行くと言う僕の発言に、フラウとステラが訝しげな目を向けて来たのは気付かないふりをした。









 それから僕たちはニルヴァーナに乗って家まで帰った。後は言った通り、エコーを村への案内をステラとフラウに任せ、僕とロッカはソルのいる遺跡に向かった。

 早急な用がある訳じゃないから、僕もエコーと一緒に村に顔を出しても良かったんだけどね。今回の件で色々と分かったことがある以上、そのことを詳しく知る者に話を聞くべきだと思っただけだ。明日以降でも良いと言われれば否定は出来ないけれど、あの状態にあるソルがそもそもイレギュラーな存在だ。何かあった時を考えれば早めに赴くに越したことは無い。


「………そういえば、まだ君にも話していなかったね」

「?」


 僕はロッカにあの遺跡のことを話しながら進む。あれだけ多くの事が起こった後だから、ロッカは特別驚くこともなく話を聞いていた。とは言え、神々の過ちと言われる邪神の誕生やその尻拭いに別世界から呼んだ少女をソルの体に宿して神殿の動力源にすると言う所業に、少々疑問を持った様子ではあったけれど。


「気分の悪い話だとは、僕も思うよ」

「………」


 そして、僕もそれは同じだった。僕は当事者ではないし、色々と事情はあったのだろうけれど。やっていることがあまりに自己中心的だとは思う。


「………まぁ、人とは全く違う存在だからね。そういうものだと考えるしかないのかもしれないけれど」

「………」


 そもそもソルも詳しいことを知っているという確証はないけれどね。既に魂だけの存在となっている影響か、人格や記憶の一部が欠けていると思うような言動が見受けられた。それに、邪神関連の事を色々と知っているのなら、あの時に教えてくれていても良かったはずだし。

 とにかく、聞いてみるだけ聞いてみればいいだろう。何も知らなかった時は残念ではあるけれど、現状神々の時代を知る存在で僕が会えるのは彼女しかいないのだから。















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