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128話

「全く。数が多いのは面倒だよ」

「シオンさん達を倒した相手がいないだけまだマシでしょ!!」


 リンがそう言って剣を振るい、切りかかって来た兵士の剣を吹き飛ばす。相変わらず華奢な見た目からは考えられない力だね。

 まぁ、確かに『権能』を倒す相手と戦わなくていいのはマシなんだろうけど。


「少し興味もあったけどね」


 僕は大きく跳び、シオンが作った土壁を蹴って空中から矢を放つ。不安定な射撃だろうと、狙いは外さない。そのまま彼女に切りかかろうとした兵士の足を撃ち抜き、今度は反対側の壁を蹴って再び空中から矢を放つ。

 閉所的な空間で弓矢はあまり有効じゃない。けど、それは僕にとって当てはまる物じゃない。相手が地上から矢を放つけど、空中を縦横無尽に跳びまわる僕に当てれるはずが無かった。


「ははっ。ほら、どうしたんだい?そんな遅い矢じゃ、僕には当たらないよ」


 三本の矢をつがえ、同時に三人の胸を貫く。まだ人数もいるようだしね。少しくらい死人が出ても仕方のない事だろう。


「リン。まだ余裕かい?」

「全然余裕!」

「なら、もうひと踏ん張りだ!」


 リンの方も蹂躙といった様子だ。まぁ、Aランク冒険者である彼女が有象無象に苦戦するとは思えなかったけど。さっさと彼らを片付けて、彼らの援護に向かった方が良いだろう。















「………追わないんですか」

「刃を向けられれば、それは決闘の申し込み。戦士として受けないわけにはいかんだろう」


 私の問いに当然のように返したケラヴ。普通に考えれば、私一人をわざわざ相手になどせずに主様の方を止めた方が良いのは当然だった。それを気にした様子もない彼の態度に困惑してしまう。


「私は邪魔者を止めると彼には言った。だが、その人数を言ったつもりは無い」

「………何が言いたいんですか?」

「私にとって、大君の再誕などどうでも良いと言う事だ」


 はっきりと返された言葉。正直、理解できなかった。確かに、彼の態度からは邪神への忠誠を感じられない。ただ、そんなことがあり得るのか………いや、寧ろ何故邪神の復活を阻止しようとするのかが分からなかった。


「疑問に思うのも当然だ。だが、貴様も私も似たような者だと思えば良いだろう」

「………裏切れない、と?」

「残念な事にな。故に、貴様を殺した後は奴らの後を追うことになるだろう」


 本当に残念そうに首を振るケラヴ。自分が負けるなどとは微塵も思っていないようだった。確かに、私は彼との戦いで負けているし、碌に傷すら与えられていなかった。

 けど、今度は違う。彼の戦い方は覚えた。次こそ見切れると確信していた。


「いいえ。私があなたを倒します」

「ふっ………それは楽しみだな。ならばそれを………」


 彼が強く拳を握り、赤いオーラを纏う。それと同時に姿が消え、私はその場から飛び退いた瞬間、先ほど私がいた場所が彼の強打によって砕けていた。


「戦いで示すがいい!」

「………!」


 着地すると同時に紫電を纏い、彼の懐に飛び込む。


「単調なのは変わらんな」

「っ………!」


 私の全力の踏み込みも見切られ、振るわれた右腕を体を捻って回避する。その突き出された右腕に剣を振るうが、すぐに引き戻されて剣を弾かれる。そして、次は左腕が拳を握っていた。

 どう足掻こうと、私では彼の攻撃を弾くことは出来ない。魔導鋼で出来ているロッカさんすらも打ち貫く殴打など、一撃でも貰えば私は立つ事が出来ないだろう。でも、一つだけ彼よりも勝っていることがあった。


「シッ………!」

「ほう………!」


 彼が拳を振るうより先に、私は詩伝を纏った剣を振るう。ケラヴは握っていた左腕でそれを弾くが、彼が攻撃の構えに入るより先に次の一撃を振るう。確かに彼が人並み外れた怪力の持ち主であることは事実だが、剣で切られて平気であるはずが無い。

 甲高い金属音が周囲に何度も響き渡る。しかし、攻勢を封じられているはずのケラヴに焦りの様子は無く、真剣な目で私の剣を目で追っている。


「なるほど。経験は浅いが、知識と才能はあるようだな………だが、地力が違いすぎる」

「なっ………!?」


 彼は私の振るった剣を右腕で掴む。そのまま動揺した私に向けて左腕を振るった。


「雷霆!」


 私の叫びと共に、剣に纏う雷が大きな爆発を起こす。それによって私もケラヴも吹き飛び、大きく距離が離れる。それだけの威力を誇った爆発なのだから、私だって無傷ではない。けど、彼の拳を食らうよりは数倍もマシだった。

 ただ、もう先ほどの戦い方は通じない事を理解した。私が彼の戦い方を理解したように、彼も幾千もの戦いのうちで相手の戦い方を理解することに長けていたのだろう。


「ふむ。なかなかの魔法だな」

「………あなたに言われても、皮肉にしかなりません」

「素直に褒めているのだ。そう卑屈になるな」


 先ほどの爆発に巻き込まれようとも、表情一つ崩さず………寧ろ、笑みを浮かべながら立つ彼にそんなことを言われても、素直に喜べるはずが無かった。

 ただ、私が考えるべきは次の戦法だ。速度で押す戦いが通じないのであれば。


「どうした?敵前で武器を収めるとは」

「………」


 鞘に剣を収め、瞳を閉じる。耳の神経を研ぎ澄まし、風の音すらも逃さぬように意識を集中する。彼の立っている位置は分かる。

 大きく息を吸う。そして姿勢を低く構えた瞬間、私は紫電と共に駆けた。


「なにっ!?」


 一瞬だけ感じた、確かに肉を裂いた感触。でも、相手はまだ倒れていない。攻撃の手を止めてはいけない。鞘を納めた状態で彼を通り過ぎた先で、再び地面を蹴って彼に迫る。


「ふんっ………!」


 しかし、次の攻撃は止められた。それでも私は立ち止まることなく、彼を通り過ぎて再び切りかかる。次は更に早く。それでも弾かれる。ならば更に速く。それでも駄目ならもっと捷く………!


「面白い………!私の速度を上回るか………!」

「っ………!」


 私の動きを予想して振るわれた一撃を寸前で躱して彼の背後に回り込む。そして、彼の無防備な背中に雷を纏わせた一太刀を振るう。切り裂かれた背中からどす黒い血が舞った。


「ぐぅ………っ!ふ………ははははっ!!」


 しかし、彼は怒ったり呻いたりするどころか、高笑いを上げる。それと同時に彼は全身に赤いオーラを纏う。そのまま彼は拳を握り、地面へと叩きつける。

 衝撃波と共に周囲の大地が砕け、岩盤が隆起する。


「っ………!」


 地面を蹴って空中へと逃げるが、その瞬間に巨大な岩が私に飛来する。鞘から紫電を迸らせながら剣を抜き、岩に一閃する。剣から放たれた雷の斬撃が轟音と共に岩を両断し、そのまま片方の岩を蹴って地面へと着地する。


「実に良い。だが、まだ戦いは始まったばかりだ」


 笑顔を浮かべる彼だが、身に纏う闘気と威圧感は龍と見紛うほどのものだった。けど、ここで引くわけにはいかない。慄いてはいけない。

 私に多くの物を教えてくれた。私の世界に色をくれた恩を返す為に。私の全てを捧げても良いと誓った主の為に。


「エコー。参ります………!」

「来い!戦士よ!」


















 星命の樹を目指して宮殿へと入る。広い空間には一切人の気配は無く、不気味なほどの静寂に包まれていた。僕は初めてここに来たけど、ゆっくりと景観を見ている時間などない。三十分………さっきの移動を含めれば後二十五分ほどだろう。

 恐らく方向的に実りの樹へと繋がっているであろう通路を進む。ステラを救うのは当然だ。けど、出来るだけ早く決着をつけて、未だに戦っているであろうエコーの方も助けに行かないといけない。

 長い通路を進むと、やがて大きな出口が見えてくる。その先に出ると、やはりと言うべきか雄大と評するに相応しい大樹が立っていた。しかし、僕はここで初めて大きな変化に気が付いた。それはシエルも同じようで、彼女が一番に声を上げた。


「………枯れ、てる?」

「枯れてる?実りの樹が?」


 怪訝そうな声を上げたのはマリンだった。実りの樹は一見すれば青々とした葉を茂らせ、街を覆い隠しているように見える。けど、僕とシエルがそう思った理由。


「………いや、間違いなく枯れているよ。この樹からは、生命力を感じない」

「生命力を………?で、でも、こうして実りの樹は………」

「病に侵された樹は内側から腐る物なんだよ。外見がどれだけ綺麗でも、この内部がどうなっているかは………」


 僕がそう言って見たのは、実りの樹の根元にある如何にもと言ったロッカが通れるほどの巨大な空洞。不気味な雰囲気を纏っているのは外からでも確認できていた。

 セレスティア達もそれを見たのだろう。この樹の中がどうなっているか分からず、少し表情が強張っていた。けど、それでも行かなければいけない。

 僕たちはその空洞の中に歩き始めた。ここがどうなっているか分からない以上、下手に焦ると罠の可能性があったからだ。しかし、僕たちが通っている通路は到底樹の中だとは思えないような悍ましい場所だった。

 あまりの薄気味悪さにフラウは僕の袖をぎゅっと掴み、不安そうな表情を浮かべていた。奥に進むにつれて壁面は黒ずみ、浮き出た脈動する管に赤い光を通していた。


「………!」


 そうして歩いていた時、この不気味な空洞の出口が見えて来た。しかし、差し込む光は怪しい赤色であり、どう考えても良い物があるとは思えない。けど、あの先にステラがいることも間違いなかった。


「いくよ」

「………うん」


 フラウが頷いたのを見て走り出し、通路を抜ける。けど、僕たちはそこに広がっていた光景に目を疑った。

 広い空間に真っ黒な壁面、脈動する管。吊るされた眷属。そして、奥にある柱は中間で赤い光を発し、その根元にはフラウが身体を取り込まれて苦しげな声を上げていた。


「………ふん。予想よりも多かったな。やはり奴は当てにならんか」


 この広い空間の中央に立っていた黒衣の男。パハッドは僕達を見て低い声で呟く。残された時間はもう詳しくなんて分からない。とにかく、一分一秒でも早く彼女を救い出す。

 右手に薄緑の光を纏わせて前に出る。


「ここまで来た根性は認めてやろう。だが………ここは既に貴様らの土地ではない」


 その言葉と共に、地面を伝って赤い光がパハッドに収束する。それと同時に彼の魔力が増していき、彼はその魔力を二振りの剣へと変化させる。


「俺達は恐怖。貴様たちが人である限り、抗うことは出来ん」


 その言葉と共に体が霧に包まれ、次々と分身体を創り出していくパハッド。その数はおよそ十人。それに対し、僕たちは七人しかいない。けど、泣き言を言っている暇はない。


「そんなことは関係ない!さぁ、ステラを返してもらおうか!」

「やってみろ。『権能』」













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