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124話

 ケラヴとロッカが飛び出すのは同時だった。一瞬で双方の距離は零となり、激突する鉄の拳同士が轟音を響かせ衝撃波を巻き起こす。普段ならその時点で相手を圧殺しているロッカだけど、ぶつかり合った拳は一向に動かず、ケラヴはそれを見て笑みを浮かべた。


「!!」

「ほう、私と真っ向から力比べをするか」


 二人の間では激しい拳の応戦が始まる。次々と打ち込まれる拳が激突し、地面を揺らしていた。そして、黒衣の男たちはそれを避けるようにこちらに向かってくるのに対し、僕は赤い光を纏わせた右手を振るう。


「顕現せよ!ロアの権能!」


 巨大な炎の波が放たれ、黒衣の男たちに迫る。しかし、次の瞬間に男たちの姿は霧となって消える。僕が『空の目』を起動するのと、上空から短剣が放たれるのは同時だった。


「リードの権能!!」


 僕の周囲を竜巻が包み込み、短剣を弾く。そのまま竜巻を上空へと発射すると黒衣の男は再び霧となって地面へと降下する。数は一人。

 僕の周囲で武器がぶつかる音が聞こえだした。まぁ、僕一人を五人で抑え込むのは非効率だしね。手分けするのは自然な事だ。ならば。


「顕現せよ!ハウラの権能!」

「影身」


 僕の周囲に三つの水球が浮かび。僕が右手を振るうと同時にそれらからは圧縮された水流が放たれる。黒衣の男は恐ろしく低い声で何かを呟いて一瞬だけ霧を纏い、そこから二手に分かれるようにして飛び出してきた二人の男。間違いない。あの日の分身だ。


「メイアの権能!」


 右手を上に掲げる。それと同時に周囲の地面に黄金の罅が入り、突きだしてくるのは無数の巨大な棘だった。二人は驚くべき身のこなしでそれを躱しながら短剣を投擲する。惜しげもなく武器を投げているのなら、恐らくは僕と同じ生成物か。

 投擲された二本の短剣を剣で弾く。そのまま右手に赤い光を纏わせて地面に添える。


「ロアの権能!」


 地面に突きだしていた棘が赤熱して溶け出す。当然、溶けだした高熱のそれは棘の間を潜り抜けていた二人に降りかかる。


「ふん」


 左の男が全身に赤いオーラを纏わせる。そして融解して降りかかろうとするそれら短剣を振るうと、赤い閃光と共に一気に弾け飛ぶ。流石に邪神の力を継いでる訳か。


「死ね」

「面倒だねっ!」


 右から接近していた男が僕に接近し短剣を振るう。それを剣で受け止めると、間違いない手ごたえがあった。やっぱりただの幻影ではないようだね。実体を持っているのはこれではっきりした。だが、それはロッカを含めても九人である僕らよりも数が多いと言う事だ。

 そして、幻影は恐らく何度でも復活する。本体を叩かない事には相手の戦力を削れないという、かなり厄介な能力だろうね。泣き言を言っている場合じゃないけれど。

 僕は剣で受け止めていた彼を力任せに振り払い吹き飛ばす。流石に力まではケラヴに及ばないみたいだけど。次に放たれた左の男からの短剣の投擲を、右手を少し上げると共に突き出した石の柱で防ぐ。


「………一筋縄では行かんな。『権能』」

「あぁ、お互いさまにね。ただ、君達だけに構っていられる訳じゃない。そろそろ………」


 その時だ。明確な殺意を背後から感じたのは。驚いて背後に巨大な土壁を作り出すのと肉がぶつかったような音が鳴り響くのは同時だった。まさかと思って背後を振り返って巨人を見上げると、その口元の触手が僕に伸びていた。


「ちっ………!」


 生まれて初めて舌打ちをしたかもしれない。それくらい厄介な状況だった。背後から迫る男たちの足音。僕が右手に薄緑の光を纏わせて振るうと、僕の周囲には風が発生する。

 駆ける。風を切り裂く僕は人外的な筋力もあって、彼らの速度以上でその場から移動し、一瞬で左の男の懐に潜り込む。先ほどあの赤い光を使ったのは彼だ。本体を判断するのなら、間違いなくこちらだった。


「ふっ!」

「ぐっ………」


 僕が振るった剣は男の横腹を切り裂くが、そのまま男の姿は霧となって消える。ただ、予想が外れたからと言って驚くことは無い。予想は予想でしかないし、これであの赤いオーラが判断基準ではない事が証明されただけだ。

 背後で地面を蹴る音が聞こえた。


「空の一太刀」


 瞬間、鮮血が宙を舞う。ただし、驚くのは僕の方だった。


「なっ………!?」

「残念だったな」


 僕の剣が切り込まれた一本の触手。その間を潜り抜けるようにして、男が一瞬で僕の懐に潜り込む。僕は目を見開くも、すぐに右手に赤い光を纏わせた。


「ロアの権能!!」


 僕が叫ぶと同時に周辺で巨大な爆発が起こる。爆炎は男の短剣が僕の首に到達するよりも早く彼を呑み込み、触手までも燃やし尽くした。すると、爆炎を突き破って男が大きく距離を取る。まだ生きていたか。

 その黒衣は一部が燃え尽きており、男も苦しそうに肩で息をしていた。それを見て追撃を仕掛けようとした瞬間、伸びてきた別の触手。心の中で舌打ちをして上空へと跳ぶ。


「メイアの権能!」


 右手を振るうと、この広い空間の様々な場所から鎖が飛び出し、触手を拘束していく。いくら本物の神とは言え、そもそも弱まっていた神が僕に敵うはずが無い。

 そのまま僕は一本の鎖の上に跳び乗る。そして、黄金の光を纏ったままの右手を上に掲げる。


「落ちろ」


 右手を振り下ろす。それと同時に天井は黄金の光を発し、鋭い杭が男へと降り注ぐ。男が小さく舌打ちをしたのが聞こえたが、すぐに分身して棘を躱し始める。それと同時に鎖を破壊して僕へと伸びてくる触手。本当に面倒な相手だよ。











「っ………!」


 振るわれた短剣を剣で弾き、続けざまに飛んできた鎖鎌を雷を纏って駆ける事で躱す。そのまま地面を踏みしめて力づくで勢いを殺し、反動を使って前へと飛び出す。


「ッシ!!」


 先ほど短剣を振るった男へと剣を振るう。完全に別々の動きをしているし、どちらも実体があるのは分かっているけど、二人には明確な違いがあった。


「やはり獣人族は面倒だな………」

「面倒なのはあなたに言われたくありません!」


 実態を持つ分身を作り出す相手に言われたところで、なんとも説得力のない話だった。私の剣と短剣で鍔迫り合っているところに再び鎖鎌が投げられ、私はそれを上空に跳ぶことで躱して剣に紫電を纏わせて振るう。

 放たれた雷の斬撃が男に迫るが、男は霧となってその場から消える。これも面倒な能力だった。主様から眷属の話は聞いていたけど、ここまで厄介な相手だとは思っていなかった。けど。


「そこです!」

「ちっ………」


 地面に降りると同時に地面を蹴って男が現れた場所へと突っ込む。分身体は匂いがしないし、霧となって移動しようとも僅かな気流の音を消すことは出来ない。男は舌打ちをしながら短剣で受け止めるが、私はそれを力任せに吹き飛ばす。

 面倒な相手ではある。けど、その小細工を見抜ける私からすればそれ以上の相手じゃなかった。









「ステラさん、フラウさん。決して前に出ないようお気を付けください」

「………分かってるけど、セレスティアを守らなくていいの」

「えぇ、セレスティア様は強いですからね。私が守るまでもなく、暗殺者程度に後れを取るような方ではありませんよ」


 そう言ってセレスティア様の方をチラリと見る。セレスティア様も一人の暗殺者と交戦していますが、心配がいらないと断言できるほどに圧倒していた。有効打こそ与えられていないものの、赤い剣から放たれる炎舞に暗殺者は近付く事すらままならなかった。


「………そう」


 私は目の前に立つ一人の黒衣の男に拳を構える。彼らの狙いはステラさんだと言うことは明白であり、今私の目の前にいる相手が分身体だと言う可能性は限りなく低いでしょう。ここで彼を倒せば、どこかで戦っている彼の分身体も消滅する。


「私は碌な武器を持っていませんからね。援護は頼みましたよ………っふ!」


 一呼吸で相手の懐に飛び込む。男はすぐに短剣を私に振り下ろすが、それに対して剣を突きだすことでそれを受け止める。そのまま強打を続けていくが、男は短剣で受け流し、巧みに躱す。流石に身のこなしですね。

 彼がどれだけの年月を生きて来たのかは分かりませんが、捉えるのもやっとです。ですが………


「甘く見ないで頂きたい!」


 右手に蒼い光を纏わせ、開いた掌を突きだすと激しい衝撃波が発生し、男を遠くへと吹き飛ばす。そこに、フラウさんが瞳をぼんやりと光を灯しながら手を向ける。


「波紋。荒波よ、穿って」


 その言葉と共に放たれた激しい水流。それは男が吹き飛んだ場所に命中し、巨大な水飛沫が上がる。その威力を見れば、彼女が間違いなく上級魔法使いであることは明白ですね。シオンさんの能力ばかりに注目していましたが、フラウさんも中々に侮れない方だ。

 しかし、男は水飛沫の中から現れる。身体が濡れてはいるが、ダメージを負っているかはその素振りからは分かりませんね。


「どうしょう?ここは一度手を引くと言うのは。確かにあなたは強いですが、それは人数差を作れる能力があってこそ………三対一の状況で、勝ち目があると思いますか?」

「………ふっ」

「………?」


 男が小さく笑う。それは微かに聞こえる程度だったが、疑問を浮かべる。


「………俺が、個の力で貴様らに劣る、か」

「………」

「ならば、その過ちを正してやろう」


 直後、男から赤いオーラが噴き出す。それと同時に肌を刺す鋭い緊張感。なるほど、ここからが本番ですか。そして目の前にいる男と同じ気配がこの広い空間の至る所から放たれる。

 迂闊な挑発だったかと冷や汗をかくが、遅かれ早かれいずれ使われた力でしょう。であれば、まだ私達の体力が残っている早い段階で切り札を切らせたのは悪い事ではないはずです。


「魂に刻め。俺の名はパハッド(恐怖)。人が抗えぬ本能そのものだ」














 激しい鉄の音が鳴り響き、衝撃波で石の床が砕ける。方や全身が鋼で出来た巨大なゴーレム。相対するのは同じく巨大な肉体を誇る筋肉隆々の大男だった。

 だが双方は種族の差など感じさせない程に互角の戦いを繰り広げている。重量も頑丈さも本来は圧倒的に人を上回るロッカだったが、男は一切引かずに拳の応戦を繰り広げているのだ。


「ふんっ!」

「!?」


 しかし、互角だと思われた戦いは男が赤い光を纏わせた拳を振るうまでだった。ぶつかり合った拳に、吹き飛んだのはロッカだった。しかしロッカは空中で態勢を整え地面に着地すると同時に体の一部から煙を発し、目が赤く発光する。


「!!!!」


 ロッカが両腕に黄金の光を纏わせ、大地を蹴って拳を構えながら接近する。ケラヴがそれに対して同じく拳を突きだした瞬間、ロッカはケラヴの目前から消える。

 ケラヴがそれを見て振り返りながら腕を交差し、そこへロッカの拳が激突する。そのまま力任せに振り抜かれた拳で防御ごとケラヴの体は大きく吹き飛び、一本の柱へと激突する。


「!」


 ロッカはすぐに追撃を仕掛けるために跳ぶ。ケラヴはそれを確認すると、自身が叩きつけられた柱を右手で罅が入るほどに握りしめる。右腕に血管が浮き上がる程に力を込めると、罅が広がった柱がついに折れたのだ。

 そのまま柱を信じられない腕力でロッカへと投げ付けるケラヴ。ロッカは空中で止まれるはずもなく柱に激突して地面に叩きつけられるが、地面に落ちると同時に柱を砕く。巻き起こる粉塵の中から飛び出してきたのはケラヴだ。既に右腕に赤い光を纏わせたまま構えている。


「!!」

「ぬぅ!?」


 しかし、ロッカは振るわれた右手を体を反らして躱し、その右腕を掴んで地面へと叩きつける。そのまま何度もケラヴを地面に叩きつけるが、ケラヴは振り回されながらも体勢を立て直し、地面に叩きつけられると同時に大地を踏んで着地する。そのまま自分を掴んでいるはずのロッカを逆に持ち上げ、左腕全体に迸る赤い光を纏わせる。


「砕けよ………!」

「!」


 拳が固められ、同時に赤い光は更に勢いを増す。ケラヴの瞳は赤い光を放ち、恐るべき筋力を誇る彼の全力が叩き込まれる。


「フィナー・フィーニス!!」

「————————————」


 その一撃は赤い閃光と共に大地を粉砕し、周囲に立っていた柱を破壊する。視認が不可能なほどの巨大な粉塵が舞い、この広い空間全体に地響きが発生する。

 やがて粉塵が払われたそこには、その胸に巨大な穴を開けて地に倒れるロッカと、赤いオーラを纏って立っているケラヴがいた。彼らの中で最も白兵戦に長けているであろうロッカが、真っ向勝負で敗北した。

 それは、シオン達に大きな焦りと恐怖を呼ぶのには十分だった。











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