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122話

元Acuraです。ペンネームを変更いたしました。理由は活動報告に書いておりますので、気になる方はそちらをご参照ください。今後は白亜皐月として活動していきますので、どうぞよろしくお願いいたします。

 森の中にある大きな木の陰で、僕たちは昼の休憩を取っていた。カーバンクルはこれだけ人間が増えたというのに緊張する素振りもなく、それどころか今まで以上にハイテンションで次から次へと「構って!」と言わんばかりに飛び掛かっていた。

 しかし不運だったのはこの中で最も小柄なフラウで、飛びついてきたカーバンクルを受け止めきれずに地面に倒れ、そんなことは関係ないと言わんばかりのカーバンクルにもみくちゃにされていた。エコーが見かねてカーバンクルを引き剥がすまでフラウもされるがままだったのを見れば、特別嫌がってた訳ではないんだろう。困っていたのは間違いないみたいだけど。


「………ふふ。あの子、とても元気だね」

「はは、そうだね。見ているだけで元気になるよ………まぁ、少し危なっかしさを感じる事もあるけど」


 僕の隣で座っているステラの言葉に頷く。まだ少し物憂げな様子だったけど、カーバンクルと合流してからは少しだけ笑顔を浮かべるようになっていた。

 勿論、カーバンクルは僕たちに何が起こってどんな状況なのかを知ってるわけではないと思うけど。寧ろ、その無邪気さがみんなの緊張を緩和してくれていたのだと思う。


「………その、ごめんなさい」

「え?何がだい?」

「私のせいで、あなたには沢山の迷惑かけたから………」


 ステラが顔を伏せる。確かに、思い返せばステラに関連したトラブルは多かったかもしれないね。ただ、それは不可抗力と言うか。彼女自身は被害者である事が多い。目立つな、と言うのは彼女が有翼族である以上は無理な話だ。

 どうしてもと言うのなら、彼女は二度と人前に出るなと言わなければならない。それは監禁と言えるし、そうなってしまったら僕は彼女を狙った者達と殆ど変らない。

 ただ、僕が気にしないで。と言ったくらいで割り切れるのなら彼女も思い詰めたりはしないだろうけどね。


「まぁ、確かに色んなことがあったけど。僕はそれでも君が居てくれて良かったと思っているよ」


 僕がそう答えると、ステラは顔を上げて僕を見る。不安そうな表情が、僕の本心を探ろうとしているようだったけど、僕に嘘をつくつもりは無い。彼女の目を見て言葉を続けた。


「君が暮らすようになってから、うちは今まで以上に明るくなったからね。僕も随分と君達に迷惑をかけてしまっていると思うしね………それに、誰かと一緒に居て迷惑をかけるなんて当然の事だよ。それでも一緒にいたいと思うから、家族なんだと思う」


 いつだったかな。似たような事をフラウにも言った気がする。あの子もあの子で人を頼るのが下手だし、寧ろ一番手を焼いてるのはそこかもしれない。もう少し素直に甘えてくれれば、僕にしてあげれることがあるんだけど。

 さて。休憩を始めてから時間も経ったしそろそろ出発しないとね。僕は立ち上がって、ステラに手を伸ばす。


「まぁ、そういうことだよ。もし申し訳ないと思うのなら………」

「………思うなら?」

「………これからも一緒にいてくれると嬉しいかな」


 あんまり思い浮かばなかったから、ありきたりな言葉で誤魔化す。勢いで適当な事を言う物じゃないね。ステラはそんな僕に一瞬だけきょとんとした後ではにかむ。


「………そういうことを言うから、シオンは自分が困るんだよ?」

「え?」

「ううん、何でもない」


 いや、聞こえていたのだけどね。ただ、その意味を問う暇もなく彼女が僕の手を取って立ち上がった。あまり釈然としないけど、僕を見た彼女の顔が少し明るくなっていたのを見て、少なくとも間違っていたわけではないと判断する。

 そうして未だにカーバンクルと戯れていた皆に声を掛けた。


「そろそろ出発しようか。距離的にはもう遠くないはずだよ」


 僕がの言葉に全員が頷く。そしてエコーは未だに周辺を駆け回っていたカーバンクルを捕まえて抱きかかえる。すっかりその子担当のようになってしまったけど、エコー自身が楽しんでいるみたいだから良いのだと思う。












 ソアレの中心にある宮殿の執務室で、一人の女が目の前の机を叩き男に問う。先ほど部下から知らされた噂の真偽を確かめるために。


「ねぇ、マラーン。これはどういうことかしら?」

「………何がだ?」

「とぼけないで!何故『権能』に手を出したの!?それだけじゃなく、あそこにはフォレニア王国の次期国王までいたと言う話まで………一体何を考えてそんな真似をしたのよ!」


 彼女にとっては今まででこれ以上あったかという剣幕で問い詰めているというのに、マラーンは大して驚いた様子も怖がった様子もない。ただ、異様なほど無感情にライアを見つめていた。


「………案ずるな。すべて上手くいく」

「この期に及んで何を言うかと思えばっ………!あんた自分のしたことが分かってるんでしょうね!?フォレニア王国を敵に回したのよ!?ただでさえ少なかった兵士まで無駄死にさせて、何が上手くいくって言うの!?」

「………」


 マラーンは何も言わない。それどころか、表情一つ変えないのだ。それを見た時、ライアは怒りを通り越して冷静になる。そして、冷静になると同時に感じるマラーンの違和感。確かに彼は元々寡黙な方ではあったものの、思慮深い国王だったはずだ。

 それが、突然有翼族を狙って『権能』やその周囲の人間に攻撃をしたなど。何かがおかしい事は分かっていたが、それ以上にメディビアの危機とも言える状況に激昂するしかなかったのだ。


「あんた………あの日、ルビスと何があったのよ」

「………ルビスとは関係のない話だ。気になるのなら彼に聞くと良い。少し前に君と同じく私を訪ねて来た。まだ宮殿内にいるだろう」

「………」


 まるで別人………いや、それも何かが違う。まるで今の彼は夢を見ているように、どこか上の空のように思えたのだ。有翼族を狙った襲撃にフォレニア王国の次期国王がいた事を知って諦観しているのか。とも考えるが、そもそも『権能』とセレスティアが近しい関係にあることは既にソアレで知れ渡っており、当然この男が知らないはずが無かった。

 じゃあ、この動じなさは一体何なのだろうか。どちらにせよ、今の彼を問い詰めたところでまともな答えが返ってくることは無いと判断したライアは無言で踵を返し、執務室から出て行く。本来であれば許されざる無礼だが、彼はライアを処罰することは出来ない事も分かっていたし、そもそも今の彼がそれを気にするとは思えなかった。

 あれだけ叫んでも、一切動じなかったのだから。苛立ちながら扉を閉め、外へ向かおうと思った時だ。それを待ち伏せていた者に声を掛けられる。


「………出てきましたか」

「は?………あんた」


 彼女を待っていたのは、先ほど話に上がっていたルビスだった。彼はちらりと執務室の扉を見て、その後にライアと目を合わせる。


「少しお話をよろしいですか?」

「えぇ、そうね。私もあんたに聞きたいことがあったの」

「では、場所を移しましょう。ここではマラーン様に聞こえてしまうかもしれません」

「………そうね」


 彼と対面した時の異様さを思い出し、頷くライア。危機感が働いたという訳ではないが、何故か今のマラーンには聞かれてはいけない気がしていた。

彼の案内で執務室から離れる二人。そのまま人気のない通路で止まった彼は振り返る。その表情はどこか緊張した面持ちであり、少なくとも今を良い状況ではないと言うことは理解しているようだった。


「さて、マラーン様と話してみて………どう感じました?」

「そうね………何かが変だとは思ったわ。マラーンは確かに普段から静かな人だけど、あそこまで無感情な人間ではなかったはずよ」

「えぇ、その通りですね。その様子だと、あなたが話した時も同じでしたか」

「ねぇ?彼がああなったのはあんたのせいじゃないの?一体あの後何があったのよ。あんたが彼に会ってほしいって言ってたのは誰なの?」


 ライアはあの日、ルビスがマラーンに要求した条件を思い出しながら問う。協力してほしいのであれば、自分が紹介する人物と会ってほしいと。間違いなく、彼がああなっている原因はその人物にあるはずだと踏んでいたのだが。


「………それが、詳しくは私も分からないのですよ」

「はぁ?」


 分からない。という言葉に素っ頓狂な言葉が漏れる。当たり前だろう。実質的にこの街の実権を握っているのは自分達だが、マラーンも国王と言う立場ではあるのだ。そんな人間に対し、身元も分からないような相手を会わせるなど正気の沙汰ではない。

正気の沙汰ではないのだが………普段は慎重な性格をしている彼の事だ。何か考えはあったに違いは無い。


「えぇ、驚かれるのも無理はありません。しかし、本当に良く分からないのです。ただ、国王を害することは無いと言う誓約を立てたために、取引に応じたのですが………」

「取引?そいつとの取引のために、あんたはそれと国王を引き合わせたの?」

「………そうなりますね」

「そう。一応、どんな取引だったか聞いてもいいかしら?」

「それは………」


 口籠るルビス。商人が取引の内容を漏らすなど普通は有り得ないし、期待はしていなかったが。ただ、相手の素性など関係ない程に彼がその取引に応じるだけの条件だったと言うことは間違いない。それだけが分かれば十分だった。


「相手はどんな奴?流石に顔まで分からなかったなんて言わないわよね?」

「………ケラヴ、と名乗っていました」

「ふーん………どこの商人?」

「いえ、傭兵らしいです」

「は?傭兵?」


 彼から出た思いがけない返答に、ライアは更に混乱していた。何が理由で彼は傭兵との商談に応じたのか。いや、そもそも何故ただの傭兵がこの国で大きな権力を持つ彼がそこまで惹かれる程の商材を握っているのか。

 そして、その男と会ってマラーンの身に何があったのか。何もなかった、と言うのは最早考えになかった。


「………魔術師だったの?」

「いえ、少なくとも私にはそう見えませんでしたね。寧ろ、筋骨隆々の大男でしたから」

「………」

「彼は今日の『権能』を襲った件にも関わっているらしいです。しかし、何処にいるかも分からないため、一体何を考えての事なのか………」

「なんでそんな危ない奴の取引に応じたのよ………?あんた、戦場になった場所がどうなったか見たんでしょうね………?」


 震える声で問う。『権能』達との戦場になった付近は最早復旧は困難だと思われるほどに地盤は粉砕され、砂漠と言う土地に適応するために作られた頑丈な建物は倒壊し、兵士や建物内に逃げていた住民の多くが生き埋めになっていた。ここでそのケラヴと言う男の仕業だと断定しているのは、この街の兵士にそんな真似が出来るはずもないし、少なくとも良識があると言われていた『権能』達がそんなことをするはずが無いと思っていたからだ。それは間違いではなかったのだが。

 そしてライアは商人であり、何よりも利益を追求する人間ではあるものの、自らの縄張りとも言っていい土地が見る影もなく破壊されていれば怒りを覚えるのも当然と言える。


「私も知らなかったのですよ………確かに威圧感はありましたが、その対応はとても紳士的なものでした。取引も間違いなく公平な立場で行いましたし、彼がそのような危険人物だとは………」

「それで、じゃあ仕方ないが通ると思ってるの?あんたどうするつもりよ!?」

「私に言われても困りますよ!私も理解できなかったからマラーン様を訪ねたのですよ!?」


 ルビスは叫ぶ。国王がこの国よりも圧倒的に大国であるフォレニア王国の次期国王へ攻撃を仕掛けたことの責任を負わされるのは流石に焦っても仕方ないだろうが。だが、それでライアが納得するはずもなかった。


「じゃあ少なくともその男が何者か調べるくらいしたらどう!?この国がフォレニア王国とぶつかったらお終いよっ!」

「それが出来ればもうやっています!!」


 それが意味のない言い合いだったとしても。口を開けば開くほどに頭に血が上り、冷静さを失っていく二人。宮殿の中だと言うのに、大声で口論を始めていた。













「………面倒だな」


 それを聞いている者がいるとも気付かずに。

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