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121話

 その後、遺跡へと付いた僕たちはニルヴァーナから降りる。ここに秘められた戒律が何かは分からないけど、彼のいう大罪の手掛かりはここ以外に考えられない。けど、それはそれで謎がある。僕が調べた限り、この遺跡の先には一切人の痕跡はなかったはずだ。

 何かがおかしい。僕は今までで最も困惑していたかもしれない。何もかもが繋がりそうで繋がらない。ステラが有翼族で、彼らには天空の神の血が流れているという噂は知っている。ただ、それが本当かどうかは分からないし、本当だったとしてそれが大罪との関係が謎だった。そもそも、国王は何をしたい?

 遺跡を進みながら、唯一国王と話したことのあるシエルに声をかける。


「シエル。本当に国王は前に話した通りの人間だったのかい?」

「えぇ………私が話した時は、あの方は間違いなく善人であると感じました」

「なら、後ろめたい理由がない………のなら、あんなに兵士や傭兵を用意したりはしないかな」

「そう、ですね………」


 そもそも、何故あそこまでの兵力を投じたのか。殆ど戦争といっても過言ではない規模だったけど、あの街にはシエルが星命樹の解放のために手を貸すという話であり、そのための兵力を集うために期間を設けていたはずだ。

 色々と分からないことは多いけど、とにかく僕は知らないといけない。あの壁画の前についた。そうしていつものように詩を唱え、この扉を開くのだった。











「逃がした、だと?」

「そうだ」

「ふざけるな。貴様、あの有翼族が居なければ計画は進行しないことを分かっているのか」

「早まることはない。あの場では遅かれ早かれ逃げられていたのは明白だろう。故に私は敢えて奴らを逃がしたのだ」

「足取りは掴んでいるんだな?」

「無論だ。奴らが行く先といえば、一つしかあるまい」


 目の前の骸骨の仮面をした黒衣の男は苛立ちを見せながらもそれ以上は何も言わない。大君が急いてるとはいえ、このように短略では為すべきことも為せないだろう。未だに時間は多くある。ならば、確実に事を成せば良いのだ。

 無為になる。それ以上に無駄なものはこの世に存在しない。


「………ならば良い。すぐにでも捕らえに行くのだろうな」

「お前との会話さえなければ、すぐにでも向かうつもりだったのだが。生憎と、近い距離にあるわけでもないのでな」

「ふん。ならば次は俺たちも同行する」

「………仕方があるまい」


 正直に言うのであれば断りたかったが、それを言えばここで更に時間を使ってしまうのは明白だ。時間に余裕があるのは間違いないが、意味のない討論に時間を費やすのは気が進まない。そうして何も言わずに部屋の外に向かう黒衣の男。

 その後姿を追いながら、聞こえぬように呟く。


「もはや、大君の意思など私にとってはあまりにも無価値なのだが」

「………何か言ったか?」


 完全に聞こえなかったわけではないようだな。足を止めてこちらを見て聞き返す黒衣の男に首を振って答える。


「いいや、次なる戦いに心を躍らせていただけだ。気にするな」

「ならば行くぞ。時間の無駄だ」

「そうするとしよう」


 久しく会ったこの男の変わらぬ忠誠心が、私には不思議に思えるが。あの時からどれだけの年月が経っているのかも分からないというのに。














 遺跡を抜けた。僕とエコー、ロッカは見慣れた光景だけど、フラウたちは大きく驚いていた。当然だろうね。話を聞いていただけじゃ、この圧巻の景色は想像できなかっただろうし。


「本当にこんな森が広がってたんですね………」

「まぁね。僕も始めてきた時は驚いたよ」


 まぁ、せっかくこの景色を見て感動しているところ申し訳ないとは思うんだけど、今はあの建造物に向かわないといけない。それはみんなも分かっていたようで、僕が一言声をかけるとすぐに頷いて岩山を降りていく。

 この大所帯だし、目立ってしまうのは間違いないだろう。彼らに警戒されなければいいのだけど。そう思った時だ。僕達が森に入ったと同時に、近くの木にシルバーホークが留まった。間違いなく、あの個体だろうけど。

 その視線は初めて会ったころと同じように、僕たちを観察するようなものだった。


「すまないね。どうしても、この森の奥にあったあれに用があるんだ。君たちとは戦いたくないし、ここは彼女たちを見逃がしてくれないかい?」

「………」


 無言でこちらを見つめていたシルバーホーク。エコーも不安そうに見つめ返していたがその静かさを破るように、突如としてシルバーホークは鋭い鳴き声を上げた。それを聞いたエコーは大きく目を見開きながらも武器に手をかけ、みんなも同じように戦うために構える。けど


「クルルゥ!」


 嬉しそうな声と共に飛び出してきたのは、見慣れた存在だった。僕に飛び込んできたそれを受け止める。


「あはは。少し期間が開いてしまったかな」

「クルルルゥ!クルルゥ!」

「分かった、分かったから落ち着きなって」


 寂しかったと訴えるように顔を擦り付けてくるカーバンクル。確かに一週間くらい期間を開けてしまったけど、ここまで寂しがられるとは思っていなかった。いつの間にか、シルバーホークも普段と同じように僕たちを見つめていた。

 それを見て、彼が敵対者に対する警告を鳴らしたのではなくカーバンクルを呼ぶための声を上げたことに気が付いたのだろう。それぞれが構えを解いていく。最もホッとしていたのは、やはりエコーだろう。短い間とはいえ、この森ではずっと一緒にいたのだから。


「良かった………」

「そうですね………それにしても、魔物とここまで仲良くなるなんて驚きです」

「はは、普通の魔物なら難しいだろうけどね」


 カーバンクルは僕に散々と構った後、気が済んだのか今度はエコーに飛びつく。そのことを予想していた彼女はいつものように悲鳴を上げたりせず、カーバンクルを受け止めた。


「ふふ、危ないってば」

「クルルルルゥ!」

「わっ………もう」


 同じように顔を擦り付けられて困ったような表情を見せつつ、彼女も再会を喜ぶようにそんなカーバンクルを撫でていた。微笑ましい光景に先ほどの荒立っていた感情が落ち着いていた。もちろん、悠長にしてるわけにはいかないけれど、少し余裕がなかったかもしれない。


「元気にしてたかい?」

「フォルルル」

「それはよかったよ。さて、僕たちはさっきも言ったようにあの日の建物に用があるんだけど、通してくれるかな?」

「フォルル」


 シルバーホークが鳴くと、そのまま木から飛び立って僕たちの上を飛行し始める。いつもと同じだった。それを見て、僕は早くもカーバンクルと仲良くなって戯れているフラウたちに声をかけた。


「行こうか。この人数でここに長居すると、落ち着かない住民だっているだろうからね」

「そうね。ここは彼らの縄張りだもの。要は早く終わらせるに越したことはないわ」


 僕の言葉にマリンが同意するように頷き、みんなも頷く。エコーがフラウたちに挨拶していたカーバンクルを自分から抱えて頷く。それを確認して僕たちは森の中を進み始めた。道中はやっぱり魔物の姿などはあったけど、特に攻撃をしてくる様子はない。

 それを見て、一番驚いていたのはマリンだった。


「ここの魔物、外にいるのとはまるで別ね。こんなの普通ならあり得ないわ」

「そうだね。だから普通の魔物じゃ難しいといったんだよ」

「あなたから調査中に戦った話を聞かなかったのは、こういうことだったのね………」


 そこが一番に気になっていたあたり彼女らしいといえばそうなるのだろう。流石に敵意のない相手に武器を向けるほど、彼女も無法者ではないだろうけど。寧ろ、彼女は彼女なりに命のやり取りに対する流儀があるのかもしれない。


「意外と遠くにあるからね。途中で昼休憩も挟むけど、疲れた時は言うんだよ」


 その言葉に全員が頷く。まぁ、エコーにとってはもう歩き慣れた森だろうけどね。周囲の景色を見て感心の声をあげたのはアズレインだった。


「見事な大森林ですね。空気がとても澄んでいて、ここに住まう者の食料にも困ることもなさそうです」

「そうだね。上手い具合に調和が取れている森だと思うよ」

「その調和を作り出しているのが、このカーバンクルということでしたね」


 アズレインは興味深そうにエコーが抱えているカーバンクルを見つめるけど、それに対してカーバンクルは良く分かっていないように彼を見つめ返し、可愛らしく首を傾げた。その仕草を見て一瞬だけ呆気にとられたように驚いた表情をしたアズレインだったけど、すぐに笑みを浮かべる。


「ふふ。なるほど。確かに、これほど可愛らしい者は中々見ませんね」

「おや、僕はその子ほど愛らしい存在を見たことがないんだけど、君は他にも?」

「えぇ、やはり自分の娘に勝るものはありませんよ」

「あぁ………」


 納得したというか何というか。当然のようにそう答えるものだから、思わず苦笑してしまった。まぁ、家族を大事にしているのは良いことだと思うけどね。

 僕だけでなく、それを聞いていたセレスティアも苦笑を浮かべていた。その様子から、彼の家族への溺愛ぶりは最初から知っていたのだろう。


「それはそうとして。気になっていたのですが」

「ん?」

「シオンさんはこの街に来た初日に暗殺者に狙われたのですよね?」

「あぁ、そうだね」

「それと今回の件、繋がっているとは思いませんか?」

「ふむ………何故そう思うんだい?」


 確かに、僕たちが狙われたという意味ではあの時の襲撃も同じだ。けど、今回は暗殺者ではなく街の兵士だ。どこが繋がっているのかがいまいち分からなかった。


「どちらも準備が周到すぎると思いませんか?以前はそれなりに腕利きの暗殺者だったと聞きましたし、今回は質ではなく量………方向性は違うとはいえ、あれだけの戦力を事前に準備していたとなれば、主犯を同一人物だと思うのは自然な流れかと」

「ふむ………確かにそうだね。ただ、そうなると暗殺者を仕向けたのは国王だってことかい?」

「まだ情報が少ないために断言はできませんが、私はそう考えています」


 彼のいうことは筋が通っていて、何もおかしいところはないように思える。けど、何故かは分からないけど僕はそれが答えではないような気がしていた。それを間違いだといえる根拠だってないのだけど。

 少し悩んでいた僕を見たアズレインは言葉を続ける。


「どちらにせよ。暗殺者を仕向けた犯人が国王かどうかは重要ではありませんね。今は何を持ってステラさんを狙い、我々にまで刃を向けたのかを知る必要があります」

「そうだね。ただまぁ………」


 僕は空を見上げる。太陽はちょうど真上辺りに存在し、今の時間を告げていた。そういえば、この空間は外と時間が連動しているんだね。そのメカニズムも気になるけど、それは今起こっている事が終わってからでいいだろう。


「一度休憩にしようか。焦ってばかりだと、上手くいくことも上手くいかなくなってしまうからね」












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