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116話

 特に何事もなく森を抜け、遺跡の中を来た道に沿って歩いていく。初めてここに来てから数日経ったけど、やはり道が変わるようなことはないようだ。よっぽどのことがなければ道に迷うことはないかな。

 そのまま扉を開けて外に出た僕たちは、砂漠の暑さに苦笑する。


「全く。あの森がどれだけ過ごしやすいかが分かるね」

「そうですね………」


 まぁ、街に戻れば少しはマシになるんだけど。特にここでやることはないし、そのまま僕たちはニルヴァーナに乗って街まで帰る。ニルヴァーナの速度だから当然ともいえるけど、そこまで時間も掛からずに街まで着いた僕達は入口の門に降りて、門を通して貰う為に門番に声をかける。


「おはよう。街に入ってもいいかな」

「おはようございます、シオン様。もちろん構いませんが………その、色々とお気を付けください」

「ん?何かあったのかい?」

「いえ………ここ最近、様々な国から貴族や富豪がこの街を訪れているそうなので。それに、以前の件もありますから」

「ふむ………そうだね。忠告感謝するよ」


 僕は門番に一言礼を言って街に入る。その会話を聞いていたエコーは首を傾げて尋ねてきた。


「主様。何か厄介ごとに巻き込まれているのですか?」

「あぁ………これも君には話していなかったね。実は僕達がこの街を訪れた時、暗殺者の集団に狙われているんだ」

「え………?主様が、ですか?」

「相手の狙いまでは分からなかったけど………まぁ、大方ステラか僕に用があったんだろうね」


 寧ろ、他に理由があるとするなら何だというのだろうか。まさかフラウの母国からの追手だと言うわけじゃないだろうし、そもそも彼女を追ってあんな刺客を放つとは思えなかった。ロッカ………はあの連中でどうこうできる存在じゃないことは分かり切っているしね。

 なら、必然的に彼らの目的は僕かステラに絞られる。とはいえ、どちらにせよこの街の情勢にかなり精通しているような人間じゃなければ、あの速度で暗殺者を派遣するのは不可能だろうけど。例えばそうだね………この街で大きな権力を持つ、三大商会のような。


「まぁ、これは僕の問題だからね。君は下手に関わらないほうがいいだろう。目を付けられるのは困るだろうし」

「………いえ、もし私が主様の傍にいる間に再び襲ってくるのであれば、その時は私も剣を抜きます。主様をお守りするのが、私の役目ですから」

「ふむ………君が一番優先するべきなのは、自分の身を守ることなんだけどね」

「それでも………これはご恩を返したいという私の願いなので」


 目を逸らさずにそう告げるエコーの言葉に迷いはなかった。初めて会った時のことを考えれば、目の前で固い意志を告げる彼女にその面影はなかった。一週間足らずでここまで変わったエコーには少し驚くけれど。なら、その心意気を否定する必要はないだろう。


「………そうだね。なら、その時は君を頼らせてもらうよ」

「はい、お任せください」


 はっきりと頷いたエコー。その様子を後ろで見ていたロッカも大きく頷く。何に対しての頷きだったのかはちょっと分からないけどね。

 そのまま僕たちは泊っている宿に向かう。ちょっとした買い物などをしながら街を進み、ようやく宿が見えてきた時だ。宿の入り口の前で誰かが言い争っていた。


「ですから、お客様にご迷惑になることはやめてください!」

「迷惑?私がこのような庶民の宿にわざわざ赴いていることが光栄だと思うべきことであるのに、迷惑だと?そのうえ、私は彼女を妻として迎えると言ってやっているのに、貴様は一体なんの了見でそんなことを抜かしているのだ?」


 言い争っていたのはリリアと、頬に傷を負っている貴族だと思われる男だった。背後には二人の護衛を付けていて、武装もしているというのにリリアは一切怯む様子がない。そして、リリアの隣には同じく貴族の男を睨んでいるアナとグレット、そしてフラウがいて、彼女たちの後ろでは心配して止めようとするステラが立っていた。


「迷惑です!ステラさんだって嫌がっているじゃないですか!」

「お引き取りください。このような宿に来ていただいたのは光栄なことですが、それとこれとは話が別ですので」

「あ、あの………私は大丈夫ですから一旦………!」

「嫌がっている?寧ろ今は貴様らの態度に困惑しているように見えるがな」

「………そう見えているのなら、救いようがないほど愚かな奴だな」

「………何だと?」


 グレットが放った言葉に、貴族の男が青筋を立てる。まずいと思って右手に黄金の光を纏わせようとした時だ。僕の隣から凍てつくような刃の殺気が放たれていることに気が付いた。

 そちらを見ると、エコーがまるで射殺すような目線で貴族の男を睨んでいたのだ。彼女がここまでの嫌悪感を表す理由が一つしか思い浮かばず、なるほど。と一人で納得していた。同時に、頬の傷のことも。


「愚かな奴だと言ったんだ。貴族であるお前は人の心も分からないみたいだからな」

「………お前、消えて」


 相手が貴族など関係ないと言わんばかりに不遜な言葉をぶつけるグレットとフラウ。まぁ、不遜な言葉遣いは人のことを言えないのかもしれないけど、二人の言葉遣いはそんなどころの話じゃなく、最早相手が一般人だったとしても喧嘩を売っているような物だ。

 当然、先ほどから傲慢さを醸し出している貴族がそんな言葉に耐えられるはずもなく。爆発寸前だった彼が激昂する。


「貴様ら………!おい!そいつらを始末して有翼族を拘束しろ!」

「はっ!」


 貴族の命令を受けて剣を抜いた二人の護衛。それを見たフラウとエコーが構え取った時、僕は右手を振るった。


「権限せよ。メイアの権能」


 リリア達に剣を向けていた護衛の足元から巨大な石柱が飛び出し、二人を空中へと打ち上げる。手加減はしたけど、頭から落ちれば死ぬのは免れないだろうね。知ったことではないけど。

 打ち上げられた護衛が地面に落ちる。幸い死んではいないようだけど、鎧を着た重量で地面に叩きつけられた衝撃は想像に容易い。立ち上がることもなく、苦し気に呻いているだけだった。


「な、なっ!?」

「………君は誰の許可があって、僕の家族に剣を向けてるのかな?」

「っ、誰だ!?」


 男が振り向く。未だに光を纏わせている僕を見て、さっきのが僕の仕業だと理解したんだろう。怒りで顔を真っ赤にした瞬間、僕の隣にいるエコーを見て驚きの表情を浮かべる。

 驚きで頭が冷えたのだろう。それと同時にしめしめと言った様子で僕に笑みを向ける。


「そうか………貴様がこの有翼族の旦那か」

「………?」


 確信を持ってそう言った貴族に疑問を浮かべる。けど、下手なことを言う気にもならなかったからステラのほうに視線を向けると、彼女が申し訳なさそうに頭を下げた。


「………そうだね。僕が彼女の夫だけど。それで、君が僕の妻を拘束すると聞こえた気がするんだけど、一体誰の許可を得てそんなことを?」

「ならば彼女を私に譲れ。それと、貴様が借りているエコーも店に返すがいい。その奴隷は私が購入する予定だったのだ。それで今回の貴様らの無礼は不問としてやる」

「………エコーは君に傷を負わせたはずだけど、彼女を買ってどうするつもりだい?」


 エコーは僕が契約を結んだから、元々の契約はなかったことになるはずだけど。そう思って僕の隣にいるエコーを見ると、彼女は苦々しい表情を浮かべていた。


「エコーが正式に購入されなければ、私は彼女の刻印を書き換えて購入する契約を結んでいるのだ。つまり、彼女は既に私のものであることに他ならない」

「………なるほどね。それはそれとして、ステラの件はどういう考えなんだい?」

「彼女ほどの美貌を持つ有翼族の女が貴様如きの妻など、身の程を知るがいい。だから私が貰ってやると言っているのだ」

「ふむ………なるほどね」


 説得は無理な相手のようだ。そう悟った僕は右手に纏わせた黄金の光を赤い光に変える。それを見た貴族が、まるで信じられないものを見るかのように睨みつけてきた。


「き、貴様!私に手を出せばどうなるか分かっているのだろうな!?」

「いや、分からないね。教えてくれるかい?」


 そう言いながら、僕はゆっくりと彼に近づいていく。貴族の男は後退りをしながら、怒りで顔を染めて怒号を上げる。


「私はロアイア王国の公爵、アルフェン・フォルンだぞ!?このような真似をして本当に許されると思っているのか!?私に手を出せば………!」

「へぇ………」


 まぁ、どこの国だろうと関係ないけどね。僕がそのまま右手を構えた時だった。僕の肩に、誰かの腕が添えられる。


「お待ちください。シオンさんが手を出す必要はありませんよ」

「………え?」


 聞きなれた男の声。その声に振り向いた僕は目を見開く。


「アズレイン?」

「えぇ、ご無沙汰しております」

「だ、誰だ貴様は………?」


 アルフェンがそう尋ねると、アズレインは丁寧にお辞儀をして口を開く。


「これは申し遅れました。私はフォレニア王国の使節団『世渡りの蝶』の第八位、アズレインと申します」

「フォレニア王国だと………?ふ、ふん!まぁいい!その愚か者を止めてくれたことに礼を言おう」

「ははは。礼には及びませんよ。何せ、私の主が貴方様に話があるそうなので」

「………何?」


 アルフェンがその言葉に疑問を持った時だ。


「そうですね。取り込み中に申し訳ないとは思っているのですが」


 ここにいるはずのない彼女が、その言葉とともに歩いてきていた。彼女の姿を見たステラとフラウは驚愕の表情を浮かべている。そして、恐らくそれは僕も同じなのだろう。

 僕の隣に立った彼女の姿を見て、アルフェンも信じることができないと言わんばかりに目を見開いて言葉を続ける。


「あ、貴女は………!?」

「初めまして、フォルン公爵。私はセレスティア。フォレニア王国の第三王女であり、次期国王となる者です………その様子なら、既に知っていたようですが」


 その言葉に、彼女を知る者だけでなく、ここにいた誰もが驚愕の声を上げた。


「セ、セレスティア様が何故このような場所に………!?い、いえ!それよりも私に何の御用でしょうか?」


 先ほどの態度とは打って変わり、驚くほど下からの言葉遣いになるアルフェン。その態度を見るに、ロアイア王国はフォレニア王国よりも国力で劣っている………というよりも、この態度を見るに属国とかそんなものなんだろう。


「いえ、なにやら騒ぎが聞こえましたので。何かと思って見に来ただけです。随分と非難されているようでしたが、いったい何をしていたのでしょうか」

「まさか!私はただ、その愚か者が身の程を知らずに娶っているという有翼族を譲るように命じただけで………」

「……………そうですか」


 娶っているという言葉を聞いたセレスティアとアズレインがこちらを見たけど、そのあとに一言だけ言葉を返す。一瞬だけ、背筋を冷たいものが走ったのは気のせいではないだろう。あぁ、後から大変なことになるだろうなぁ………


「………では、フォルン公爵はフォレニア王国の敵………ということでよろしいですか?」

「………は?」


 その後に彼女が続けた言葉に、アルフェンはそんな声を上げた。ここで窮地に立たされているのは彼に見えるけど、本当に崖っぷちにいるのは僕のほうなのだ。あまりに予想外の展開すぎて、怒りの感情もどこかに吹き飛んでしまった。それに、彼女がいるのならもう僕が何か言う必要もないだろうな、と言うのもある。

 アルフェンは言葉の意味を理解し、セレスティアに叫ぶ。


「な、な、何を言っているのですか!?私は………!」

「彼に手を出すというのなら、それは私たちフォレニア王国を敵に回すというのと同義です。同じく、彼の家族に手を出すこともです」

「っ!?そ、その者とあなたはどのような関係で………」

「私と彼は………」


 そこで言葉を切ったセレスティア。それに対して僕の勘が不味いと告げるのと、彼女が僕の腕を引っ張り、そのまま口付けを交わすのは同時だった。












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