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人狼狩りの騎士様  作者: 飯能太郎
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第一章第一節:8月17日午前6時58分


夜になったら一人になるな。閉所では誰とも関わるな。半開きのドアの向こうから、街灯の陰から、誰にも使われていない一室から、ベットの下から出てくるぞ。獣臭を漂わせ、獲物の出した血滴らせ、牙をむき出しやってくる。ああ、恐ろしい獣。人に混じり人を食らう恐ろしい魔性。ああ、人狼。何故人を襲う。

-舞台「狼なんて怖くない?!」より。この舞台の千秋楽当日、キャストを含む313人が行方不明となる。しかし現場に残された血痕の量から行方不明となった人たちの生存は絶望的であると思われる。1995年8月16日,池袋での公演。



夜になっても安心召されよ。閉所であろうと心配ご無用。いつでもどこでも駆けつける。宵闇照らし、獣が退くわれらの味方。ああ。銀の仮面に見えないその素顔。ああ。この街には騎士がいる。

-舞台「狼なんて、怖くない。」より。1995年の舞台、「狼なんて怖くない?!」のリブート上演。主催者の強い願いにより8月16日に上演された。この舞台の千秋楽当日、舞台となった飯能市民会館は二匹の人狼によって襲撃されたが、市内在住の○○○○○(黒墨で修正)と現状推測されている覆面を着用した自警団の男により二匹のうち一匹が死亡、残り一匹が逃亡した。負傷者は5名。死亡者、行方不明者共に0名であった。

2015年8月16日、昨日の公演である。


人狼狩りの騎士様

第一章 騎士は何を奪ったか

第一節 8月17日の午前6時



「ここの部分、確かに事件間のつながりが分かって説明しやすいんだけどさア、報告の文章にしちゃあちょっとエモすぎやしないかね。」


「すいません、寝ずに書いたもので・・・。」


「いやそうだったなスマン。昨日の今日で起きた事件の報告で、しかもそんな状態でなら良くできてると思う。・・・うん、じゃあ今日はもう帰りなさい。諸々の申請はやらせておくから。」


「ありがとうございます。」


そう言った女性は会話を終えると部屋を少し足どり重く出ていった。初老の男性は受け取ったA4ファイルを机に置き、窓に目をやった。


「騎士様ねえ。こんなご時世だしなあ。だけど自警団ってのがなあ。どうしようかなあ。」


机の隅に置いてある机上札には「飯能市警察署所長 木戸康成」と書いてある。

「うーむ」



先ほど所長室から出た女性は、「人狼対策課」と記された一室に入っていった。


「すいませーん、半休取らせていただきまーす」


「「「おお!!!」」」


部屋内の4人が声をあげ彼女に近づいた。


「ヒツジちゃんおつかれ~!騎士サマどうだった?!」


「ちょ雑賀さん・・・私これから帰る」


「いや~うらやましいなあ、羊角さん!俺たち最初の手柄おめでとうな!」


「ありがとう、ゴリさん」


「ヨーちゃん所長から話聞いたわよ。刈谷くんはもう帰ってるから、アンタも帰んなさい。」


「オノメ先輩すいません。」


「な~にいってんのよ!アンタこの子らが言う通り我々の最初の手柄取ってきたんだから!まあ言いたいことはたくさんあるけど。独断専行の件とか。」


「う~・・・」


「まま、とりあえずそれも明日!とにかく寝なさい!睡眠不足は女の敵ってね!」


「ハハ、そうですね。・・・それでは」


「え~帰っちゃうのぉ~?!」


「昨日の話ききた~い!!!」


「お黙りおバカたち!ヒツジちゃんは賢いの!アンタらオバカと違うのよ!」


依怙贔屓だなんだと騒がしい対策課を後に羊角は署から出た。夏の日の朝というのは心地よいものである。来る暑さを予感させ、しかしまだ夜の涼しさを感じる8月17日の午前6時58分。柔らかい風が頬を撫でた。風が来た方向に目を向けると朝陽を背にした影がポツリと立っていた。羊角はそちらへ歩みを進めてゆく。


「お待たせしてすいませんでした。カノさん。」


「うむ、じゃあ行こうか。」


カノと呼ばれた偉丈夫で無精ひげなボサボサ頭男は本人に似てボロボロなミニに入っていった。可哀想なミニはキュルル・・・と老体を奮わせ始めている。


助手席に座った羊角は後部座席に目を遣る。小さなミニの後部座席で、誰かが更に身を小さくして寝ていた。


「ハルトくん、寝ちゃってるんですね」


「昨日は夜遅くまで俺と頑張ったしなあ。寝かせてやろう。」


ブルルンとミニが動き始める。フロントミラーでチラチラとハルトを見ていた羊角はつい呟いた。


「こんな小さな子がナイト様なんだなあ。」


ハルトの体がピクリと動いた。



飯能は楽しい街です。来てください。

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