トクイ
ボブはケンゾウ、リサと久方振りの食卓での夕食を楽しんでいた。
「でも、ボブ、お前さん本当よく生き延びたのお。普通は生きておれんぞ。」
「本当ですよ、ケンゾウさんボブに無茶させ過ぎですよ。森に1人残して3年ですよ?それに私も歯が立たない様な強い魔物あんなにたくさん放って、いくら何でも可哀想過ぎます!」
リサが少しムスッとした表情でそう言うので、ボブは何だか少し嬉しい気持ちになった。
「まあ、真面目な話お前さんなら大丈夫だろうとは思っとったんじゃ。」
ケンゾウは嘘をついていないようで、ボブは素直にそれを聞き入れ理由を訪ねた。
「なぜですか?」
すると、ケンゾウはあらかじめ何かを話すことを決めていたかのように切り出した。
「実はボブ、お前さんにはもう1つ魔法の適性があるんじゃ。わしも何も考えずお前さんに数年の時を過ごさせたわけではない。あの魔力の適性が分かる石を覚えとるか?お前さんにあれを持たせたとき少しおかしなことがあったんじゃ。気になって調べたら、なかなか面白い事が分かってきてな。」
リサもその話に興味があるようで真剣な顔で相槌をうつ。
「なんですか?それって。」
「ボブのもう1つの魔法適性。それは特異魔法じゃ。無・火・水・風・雷・土・光・闇これがスタンダードな属性じゃ。無は身体強化な。稀にこのどれにも当てはまらない特異な性質を持つ魔法があるんじゃ。それが特異魔法じゃ。しかし、この特異魔法というものは何しろ分からんことが多すぎて、これを軸にした戦闘スタイルにするのはリスクが大きいんじゃ。どうやって向上させたらいいのかも、特異魔法ごとにまた違うしの。だから、無理してでも身体強化の魔法を極限まで引き上げたかったんじゃ。まあ、言いたくはないが予想以上の出来じゃ。」
ボブとリサは興味津々な様子で、ケンゾウの話に聞き入っている。
「そして、ボブの特異魔法なんだが、おそらく魔力を流した物をイメージ通りに変化させる、又はイメージに近い状態にする魔法じゃ。わしは観念魔法と名付けた。」
リサとボブは小さくおおーと感嘆の声をあげ、ボブは率直な感想を述べた。
「何か凄そうじゃないですか!ちょっと難しいけど。」
ケンゾウは続ける。
「気付いてなかったようだが、あの時お前さんから石を返してもらった時、石が少し軽くなっとったんじゃ。帰って石の成分を調べるとあの石には入っているはずのない成分が含まれとったんじゃ。質量の軽い物質じゃ。おそらく、手に石を乗せる時、お前さんが石の重さをイメージしたんじゃろう。そして、この石が軽かったらなあとか、下手したら軽くあるべきだとか、軽いんじゃないんかなとかまで思ったのかもしれん。とりあえず少し軽い石をイメージしたんじゃ。そして、石に流し込まれた魔力が石の成分を少し軽いものに変えたのかもしれないとわしは仮説をたてた。そしてそれこそがボブのもう1つの魔法適性じゃと。この数年で他にこのような心当たりはないか?何でもいいから話してみてくれ。」
「そういえば、気付いたら誰もいない森の中に1人ぼっちでしたね。」
「こら、真面目に考えんか。」
ケンゾウに言われ、ボブはあまり思い出したくないはない数年間の出来事をできる限り思い出そうとしていたら、いくつか不思議な出来事を思い出した。
「そういえば、キノコとか死にそうなとき手当たり次第食べてましたけど、1回も毒キノコに当たったことはなかったですね。というか、前に魔法は魔力を使う人のイメージとか意思とかで別の物として外に放出されるみたいなこと言ってませんでした?それとは違うんですか?」
ケンゾウはやれやれという仕草をし、説明をする。
「頭悪いのお。確かに、魔法は使う人の見えない力、イメージや意思その他もろもろ、総称してイメージと言おうか、それが魔力を別の形として出現させると言っても過言ではない。しかし、その形は火や水といったようにどういう状態で出現するかが決まっとる、それが適性じゃ。しかし、お前のそれは魔力を流した何かがイメージした通り、またはそれに近い状態になるということじゃ。前者が魔力×イメージ=火や水等のエネルギーということに対し、後者は魔力×イメージ×対象物=対象物の別の状態ということじゃ。で、キノコはおそらく、極限状態のボブが知らず知らずのうちに魔力を流し、毒がない状態になったんじゃろーな。まあ仮説じゃが。」
「な、なるほどですね。」
リサは辛うじて説明についていっているが、ボブの陳腐な頭はすでにショートしかかっている。
「じゃあ、おれはこのスープの野菜を肉に変えられるということですか?え?」
ケンゾウは頭の悪いボブにでも分かるように説明しようと、必死に悩み、口を開く。
「そんな便利な魔法があってたまるか。では、お前さんが野菜に魔力を流すとする。でこの野菜を肉に変えようとイメージする。でも野菜に魔力を流している時すでに、お前さんは野菜がそこにあると信じておる。肉ではなく野菜じゃ。その時点でお前さんの中にあるイメージは野菜は野菜でしかなく、肉ではない。つまり対象をそれ以外の何かに変えることは難しいと考えられる。しかし、まだ食べていないならその野菜が甘いか苦いかどのような味なのかどれほどの固さなのか分からない。おそらく肝はそこで、わしが観念魔法と名付けた理由もそこにある。観念とは、その対象はそういうものだというイメージ、又はこうだと信じていること、つまりお前さんの中でのその対象のルールみたいなものじゃな。
で、なんじゃったっけ。そうそう、でその野菜は甘くて柔らいものだという観念がお前さんの中にあり、そして野菜をそうイメージするとそのようになるということじゃ。」
「それ、結構、難易度高そうですね。聞く限りすごい魔法だとは思いますけど。」
最後まで難解な説明に食らいついたリサはふぅと息をついた。ボブはというと、普段使わない頭をフル回転させ、ヒートアップした頭から煙が出らんとせんばかりである。
「まあ、王国の騎士団の試験くらいなら、ここ何年で鍛えた身体強化だけで合格できるとは思う。て言っても騎士団の養成学校じゃがの。油断は禁物じゃけどな。」
「・・・わ、忘れてた!騎士団とかいうやつの試験受けるんだった。って学校なんですか?」
「そうじゃ、まあ警察も警察学校とかあるじゃろ?そんな感じじゃ。」
「あー、なるほど、そういう感じか。」
ボブは久しぶりに前にいた世界の事を思い出したが、何だか遠い昔の事のように思えた。
「ケーサツ?って何ですか?ケンゾウさん時々よく分からない言葉使いますよね。まあとりあえず、ほどほどに頑張ってねボブ!」
そう言ってガッツポーズをして見せるリサを見てボブは少しやる気が出てきたのだった。
「お前さんが森に籠ってチンタラしとる間に何回も試験はあっとったんじゃぞ。1発で合格してくれよ!」
「もう何も言いませんよ・・・。」
ケンゾウに諦観の目を向けたボブはツッコむこともせずに、自分の現実を受け入れ、もうすぐ開催される騎士団の試験に臨むのだった。