ホウリュウ
自分の魔法の適性が分かったボブは、早速ケンゾウと魔力を使った肉体強化の特訓を始めようとしていた。ケンゾウは話す。
「これは、さっきの石じゃ。見てみい、元のただの白い石に戻っとろう。」
「あ、本当だ。光が消えている。」
「これはどういうことかというと、お前さんが手に集め無意識に石に流した魔力が、石の中で白い光として消費されたんじゃ。そして石の中の魔力は無くなり光は消えた。身体強化も同じじゃ。身体の中で魔力を運動エネルギーに変えるんじゃ。しかし、身体自体は元々のお前さんの物じゃから、魔力で身体の能力を向上させたとしても、通常より強く殴ったり早く走ったりすると、もちろん身体にはそれ相応の負担がかかり、むやみやたらに身体強化を使うと戦闘に支障を来すこともある。だから普通は要所要所でしか使わん。だが!」
「だが?」
「先程も言った通りお前さんは火の玉とか水の矢とか風の刃とか、そういう魔法は使えんようじゃ。だからはっきり言って相当不利。救いようがない。残念賞。」
「は?」
ボブは何かしらの解決策を期待していたが、ケンゾウがあまりにもあっさりとただ為すすべ無しと言うので、呆気にとられて僅かながら怒りのようなものさえ覚えた。
「嘘じゃ。戦う方法はある。」
ケンゾウはそう言うと、そっと目を瞑って続けた。
「それは・・・まあとりあえず頑張れ。わしゃ一旦帰る。とりあえず、負荷に耐えられる身体作りと、より早い動きとより強い攻撃、体内の魔力をそれだけのために使う反復練習じゃな。まあ、これは習うより慣れろじゃ。死にそうになったら助けに来るので、そうならないように頑張ってな。・・・あ、1匹だけちょっと強めの奴放しとくから、それ倒した頃に迎え来るわ。慣れるまで最初の方は食べ物はこの広場に毎日3食分届けるからな。じゃ。」
「・・・は?え?何が?」
ボブが言われたことの意味をよく理解できずにあたふたしていると、気付いたときには既にその場にケンゾウの姿はなかった。
そして月日は流れ数年の時が経った。森の中からは一筋の煙が上がり、その火元には骨のついた大きな獣の肉の塊に豪快に食らいつく男の姿があった。
「待たせたのう。どうじゃ調子は。」
ケンゾウがその男に後ろから声をかける。
声に反応したその男は振り返った。その男は髭と髪は伸びきり、まるで野蛮人のような風貌である。その男は何か吹っ切れたかのような表情で口を開いた。
「ふっ、校長先生絶好調。なんつって。
・・・っておいーー!!長すぎだろぉ!!
いきなりよく分からないまま森に1人取り残されて、戦闘すらしたことないのに魔物に襲われ続け、でもまあレベル上げみたいなもんかと思って戦い続けてたら、やっと慣れてきたなーって時に、何かでっかい猛獣出てきて半殺しにされまくって、でもやっとこさ倒したと思ったら、次はバチバチのゴリゴリの巨大な1つ目の怪物出てきて流石にあの時はチビったよ!チビりましたとも!ジョバジョバでしたよ!終わったと思いましたよ!強い奴1匹って言ったじゃん! でも!そいつも何度も死にかけながら戦って、ようやく倒したよ、そしたらまた何度も同じ奴出てきて、それでも片手で捻れるくらいになってさ、調子こいてたら、次は何か羽生えた火吹く竜みたいな奴来たよ?あれドラゴンとかいうやつじゃないの?でもね、毎度の事ながら倒せるようになるまで生きてる心地しなかったよ?でも、まあそこまでは良かったよ?そいつも相討ちみたいな感じで辛うじて倒したあとも、またこれだよ、いろんな色の竜出てきて、え?お決まりなんですか?同じような奴ひたすらこなすの。そして、最後の方なんか何か変な禍々しい奴来たよ?人みたいな形してたし、呪いの言葉みたいなの喋ってたし、あれ絶対洒落になんないって!そして逃げ出そうにも全然森から出られないし、もしかして迷いの森とかって名前ついてます?え?ていうか何年経ったの?永遠にここで死と隣り合わせの人生かと思ったよ!」
数年の特訓で変わり果てたボブは一通り騒ぎ立てたが、いまだ興奮さめやらぬ状態である。
「よく喋る野蛮人じゃのお。生きとるからいいじゃんか。」
「軽ーーーーーい!!」
そのあともひたすら騒ぎ立てるボブと軽くいなすケンゾウのやり取りはしばらく続き、その日、ボブは数年ぶりに森から出た。そして、久しぶりに戻った家はあたかも自分がここで育ったかのような安心感で、出迎えてくれたリサの懐かしい笑顔を見て涙が出た。
その夜、ボブが修行した森の広場にはケンゾウの姿があった。
「ご苦労じゃったの。皆出てきてくれ。」
ケンゾウの呼びかけに森がザワザワとざわめいたかと思えば、森の中からボブと戦った何匹もの魔物が姿を表した。1つ目の巨人やドラゴン、死神のような姿をした者等、姿形は様々である。
「ケンさん勘弁してくれよー、あいつめっちゃ強くなるじゃないですかー。」
「殺す気でやれと言われたのに、最後の方は逆に殺されかけてたんだよー?」
彼らはケンゾウに向かって不満を口にしている。ケンゾウは笑いながら「すまんすまん」と応える。とても魔物と人間とのやり取りには見えないその光景こそ、ケンゾウが望んでいるこの世界の有り様であった。その事についてボブが知ることになるのはまだ先のことであった。