テキセイ
ケンゾウと特訓を始めて1週間、この世界では幼子ですら簡単な自分の体内の魔力の感知を、ボブはようやく成し遂げたのであった。
ケンゾウは少しほっとした顔でボブに歩み寄る。
「どうじゃボブ、魔力という物は。」
「そうですね、はい、言葉にはしにくいですけど、魔力、感じます。」
「アホっぽいのう。でもまあ、そういうことじゃ。それじゃ、次は」
ケンゾウが話し終わるのを待つことなくボブが割り込んだ。
「次はいよいよ魔法ですね!よっ待ってました!」
おどけるボブを無視しケンゾウは話し始めた。
「まずはお手本を見せようかの。ちょっと見ておれ。」
ケンゾウが掌を上にし、手を前に差し出すと、掌から水が現れ、すぐにその水は野球ボールくらいの大きさの球体になった。そして、ケンゾウはそれをボブの顔に投げつけ、水が顔面に直撃したボブは思わずむせる。
「ぶへっ、す、すげー!手品みたい!ていうか何するんですか!」
「すまんすまん。」
そういってケンゾウは掌をボブに向けると、掌から勢いよく風が吹き出した。
すると、瞬く間に濡れたボブの顔と服が乾いた。
「どうなってんの!」
信じられない出来事に興奮したボブは手品の種を見破ろうとするように、ケンゾウの手を確認する。
「種も仕掛けもないぞ。これが魔法じゃ。体内にある魔力というエネルギーを何らかの形で放出するんじゃ。この時に大事なのは使う人の魔法のイメージとか意志とか目に見えないものじゃ。魔力というエネルギーは、使う人の目には見えない力によって、別のものになるんじゃ。水とか風とかな。」
「なるほどなるほど。」
ボブは自分の手で先程のケンゾウのように水を出せたり風を起こせたりするのかと期待を膨らませ、自分の手をまじまじと見つめている。
「とりあえず、やってみ。体内の魔力を手に集中させるんじゃ。そこからじゃな。この石を右手の上に置いて、この石の色が変わったら教えてくれ。じゃ、寝るわ、おやすみ。」
ケンゾウはそれだけ言い、ボブに掌台の白い石を渡し、スタスタと定位置に戻り横になり、寝息をたて始めた。
「っておい!また放置かい!まあやってみるか。」
魔力の感知ですら並みの倍以上時間がかかったのに、その魔力を一点に集めることは、ボブにとって更に難しいと思われた。
しかし、予想に反し、ボブが特訓を始めて数分後、右手の上に置いた石はみるみるうちに白い光を帯びていった。そして次第に石から発せられる光は弱くなり、ボブはそのぼんやりと白く光った状態の石をケンゾウに見せつけた。
「おっ!できました!ケンゾウさん!これはもしや1000年に1人の逸材とかそうやつですかー?」
ケンゾウはその声に反応し起き上がり、石の様子を確認する。
「ほお、白のままか。それこっちに投げてくれ。」
ボブは言われた通りケンゾウに石を投げ渡し、それを手にしたケンゾウは少し驚いた表情を見せたが、すぐにいつもの調子で話し始めた。
「この石は触れた魔力の特性、要するにその人の使える魔法の属性が分かる石じゃ。まあ白はいわゆる肉体強化に適正があるということじゃ。赤は火、青は水といった感じで色が変わるんじゃが、通常は少なくとも身体強化プラス何かの属性の2色、多い人で3・4色ほどじゃ。かなり稀じゃが、全属性に適正がある奴もおる。その時は石が半透明になる。ちなみに身体強化だけに適正がある奴は見たことないし、適性が1つしかない奴もあんまりおらん。まとめると、お前さんはとことんセンスないの!ぷぷ!」
「・・・えー!いやいや!笑い事じゃないですよ!さっき、この世界では魔法が大事とかどうとか言ってたじゃないですか!普通、こういう時って、何かおれめっちゃ強くね?異世界最高!みたいな展開じゃないの?」
ボブは予想とは違う展開に困惑し、ケンゾウはそのボブの様子を見ながら石を手に持ち、少し考え込んでいる。
(思い違いではない。僅かじゃが、石の重さが軽くなっとる。これは興味深い。どういう原理かは分からんが、どちらにしても、この魔力の性質を調べる価値はありそうじゃ。帰ったら研究始めよ。ボブに教えるのはそれからじゃな。)
「よし、とりあえずは魔力を使った肉体強化、これを極めるぞい。」
「はい・・・。ちなみにケンゾウさんはいくつ適性あるんですか。」
「わしか?わしは全属性じゃ。当たり前じゃろ。腐っても勇者じゃぞ。って誰が老いぼれ太郎じゃ。」
「言ってないっすよ・・・。」
ボブはケンゾウの強さと自分の弱さを比べ再び落胆し、少々うなだれながら、渋々特訓に取りかかるのであった。