おっ
王国騎士団に入団するために特訓することになったボブはケンゾウと2人森の中で早速特訓を始めていたが、初歩の初歩から壁にぶつかっていた。
「ま、魔力が子犬並み・・・!?」
「そうじゃ、お前さんの魔力は、ここへ辿り着くために使わした野良犬くらいじゃ。ただ逃げ足だけは早いからのあの犬っころは。そこだけじゃの、あの時魔物にやられたかどうかの差は。」
落胆するボブをよそに、ケンゾウは淡々と説明を続ける。
「どうやらお前さんは元々宿っとる魔力が他の人間より圧倒的に低い。平均値の10分の1くらいじゃな。要するに雑魚じゃ。ま、まあ努力次第ではどうにかなるかもしれんが、こんなに魔力の低い人間は正直初めて見たわ。」
森の中、ケンゾウの後をボブがしばらく歩くと、ぽっかりとそこだけ木々が伐採された円形の空間が現れた。
「ここじゃ。早速、魔法の特訓始めよーかの。」
魔法という言葉を聞いてゲーム好きのボブは少しテンションが上がっている。
「よし、何かこっち来て色々ありすぎて余裕なくて実感なかったけど、魔法とか異世界とかって本当にあるんですね。まだ半信半疑だけど、何だか興奮してきました。」
ケンゾウは「そうかそうか」と口にし、木々が伐採され整理された円形の広場の真ん中辺りを指差し、ボブに言った。
「じゃあ、まずあの辺に座れ。」
「はい。」
ボブは広場の中央に歩いて行った。
「そして、目をつぶるんじゃ。」
「はい。」
「自分の身体の中の魔力を感じとれたら呼んでくれ。わしこの辺で昼寝しとくから。」
「分かりました。っておいー。それだけですか?何かこうヒントとかコツとかありません?」
ケンゾウは少し考え込み、何かを思い付いたかのように口を開いた。
「ない!」
「・・・帰ります。」
「どこにじゃ?あちらに帰る方法でも知っとるんか?それとも努力もせずに一生ここで過ごすのか?わしも何も考えずに、騎士団に入ってもらいたいと言っとるわけではない。王国騎士団の団長クラスになれば入ることを許される王国の秘蔵の書ばかりが集められた書庫があったり、他にも騎士団に入ることで手に入る情報も多々あるんじゃ。わしは訳あって王国とはあまり関われんのじゃ。」
ケンゾウに急に捲し立てられたボブは少したじろぎ、それと同時にケンゾウの真剣さを肌で感じた。
「は、はい。」
その様子を見たケンゾウは表情を少し和らげ、付け加えた。
「とまあ、大袈裟に言ってみたが、こちらの世界では魔法というのはそれ位大事な物なんじゃ。コツを強いて言うなら、魔法は自由の子じゃ。」
そして、ケンゾウは横になって目を閉じた。
「自由の子・・・。ってそれっぽいこと言いやがって!ってもう寝てるし!・・・とりあえずやるか。」
こうしてボブの地味過ぎる特訓が始まった。
そして1日が過ぎ、そしてまた1日、また1日、夜までに出来なければまた次の日となり、1週間後のことだった。
「ケンゾウさん。」
「やっとか。遅かったの。」
「はい、少し時間がかかりましたが、自分の中の魔力を感じ取れるようになりました。」
「お前さんセンス無さすぎじゃ。でもよく頑張った。」
「一言余計なんだよなー。あ、そういえば、あの時渡された紙、あれどうしましょ」
「あー、とりあえず特訓終わるまで肌身離さず持っておくんじゃ。」
ボブの顔つきは以前より少し凛として、どことなく堂々とした雰囲気を醸し出していた。