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こちらの世界における最初のルール『名乗ったらあちらには帰られなくなる。更にこちらで新たな名を名乗ればそれに加えて、あちらでの記憶も消え、存在すらもなかったことになる。』をケンゾウから聞いたボブは、しばらく落ち込んでいたが、現状を受け止め始めていた。
すると、そこへ山菜を取り終えたリサが帰ってきた。
「ただいま戻りましたー、お話、終わりました?」
「終わったんじゃが、これからボブ君は泣き虫ボブ太郎とでも呼ぼうかのう。」
「やめてくださいよケンゾウさん。」
「あー、ダメじゃないですかケンゾウさん。ボブ、ケンゾウさんに苛められたらいつでも私に言ってね!」
リサの暖かな笑顔にボブは少し癒されたが、ふと、リサが森から無事に帰ってきたことを疑問に思った。
「そういえば、リサさんよく森から無事に帰ってこれましたね。おれもう外出たくないですよ。」
リサはフフッと笑い、無事に帰って来れた理由を話し始めた。
「私はケンゾウさんにご指導して頂いたので、ある程度の魔法は使えるんです。ボブを襲ったこの森に出るような下級の魔物くらいなら寄ってきません。」
「そうじゃ、わしのおかけじゃ!わっはっは。あ、リサちゃん、わし何か食べたい。」
「また急なんだから。はいはい、少し待ってて下さい。朝の残りがありますから。」
そういってリサが食事の支度を始めると、ケンゾウはボブに説明を始めた。
「魔法とか魔物とかについて説明してなかったの。わしも最初は驚いたが、こちらの世界はどうやらあちらの世界とは全く違った異世界なんじゃ。大雑把に言うと何かファンタジーな感じじゃ。
こちらの世界には魔力というものがあってな、生き物の体内やそれ以外の物質にも宿るし、至るところにあるんじゃ。そしてその魔力を火とか水とか風とか他にも色々なものに変えたり、利用したりすることができて、それをまとめて魔法と呼ぶんじゃ。ここまで分かるかの?」
「はい先生。」
「先生言うな。
それでじゃの、体内に宿る元々の魔力の総量は人それぞれ違うが、身体の成長や鍛練でその量は上がるんじゃ。どれ程まで上がるかは個人差があるので、こればっかりは何とも言えんがの。
で、なぜ森の魔物がリサには寄ってこないかと言うと、魔物は魔力を察知する嗅覚が鋭くてな、相手がどれほどの魔力を持っているかすぐ分かるからなんじゃ。リサはこの辺で出る最も強い魔物の魔力の5倍くらいの魔力はあるからの。」
「おお、見かけによらず強いんですね。」
「でも油断はできんからの、わしの魔力を込めたお守りだけは持たせておる。」
ボブは魔法や魔物といった言葉に中二心をくすぐられ興奮していた。そして、ケンゾウの魔力とはどれくらいなのか、ボブは草原で雷と共に落ちてきて、再び飛び去ったケンゾウの姿を思い出した。
「ケンゾウさんは相当強そうだけど、ちなみにどのくらい強いんですか?」
すると、支度を済ませたリサが戻って来てさらっと言葉を発した。
「ケンゾウさんはこの国では1番お強いと思いますよ。なんたって勇者なんですから。」
「え?勇者?あの魔王とかと戦う?」
「ま、まあ、そうじゃよ、何か照れるのう。ついこの前お前さんに会った時も、魔王の右腕の何とかって奴と一戦交えとったとこじゃったんよ。最近は王国の騎士団も頼りにならんからの。あ、ボブも騎士団とか入ったらどうじゃ?今度試験あるっぽいし。」
「騎士団?騎士?剣とか?持ったことないし、格闘技すらしたことないし、そもそも最後に喧嘩したのも小学生くらいの頃なんですけど。」
「そんなもんわしが試験までにどうにかするので大丈夫じゃ。はい決定ー。」
かくして自らの意志とは関係なく、騎士団とやらの試験を受けるためにケンゾウと特訓をすることになったボブであった。