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ほわ

馬車のおじさんに街まで乗せてもらった男は、老人に渡された紙の住所へと向かうため、街の人々に声をかけていた。

男は同年代くらいの男に声をかけた。

「すみません、ここに行くにはどうしたらいいでしょうか?」

「うーん、ちょっと分からないなあ」

男は老婆に声をかけた。

「ここってどっちにいけば?」

「見たことのない住所だねえ」

男は路地裏の野良犬に声をかけた。

「すみません、ここ行きたいんですけど」

「・・・」

「無理かあ」

「わん!わん!」

諦めかけた男だったが、どうやら犬はそこを知っているらしく、付いてこいと言わんばかりに、男を先導し始めた。

「そんなことあるー?」

男は犬の後を付いていくことにした。


街の中心であろうメインストリートを通り過ぎ住宅街を抜け徐々に木々が増え始め、男は気付いたら薄暗い森の中に居た。いつの間にか日も暮れ、男は少し心細くなってきていた。

「おい、本当にここなんだな。」

足元にいる犬に男は話しかける。しかし、犬は何かに怯えているのか、ブルブルと震えている。何か様子がおかしいと男が気付いた時には既に遅かった。ゴンッという鈍い音と共に男の頭に物凄い衝撃が走る。男は頭から地面に叩き付けられ、頭はそこで1度跳ね返り、再び地面に落ちた。



男が何が起きたのか把握する前に視界は赤く染まって行き、意識は朦朧とし始めた。

「え、あ、あー、痛い、なに、が・・・?」

声すらもまともに出ない状況の中で、男は思った。

(これ夢じゃねーわ・・・)

男は朦朧とする意識の中、ひとまずその場を離れることにした。土の臭いが次第に血の臭いでかき消されていくのを感じながら、男はいつの間にか再び犬の後ろを這いつくばり追っていた。



虫の息の男は気が付けば森の中に静かに佇む暖かな光が窓からこぼれる一軒家の前に来ていた。犬が扉に向かって何度も吠える。すると、家の中から人影が1つ現れ、男に駆け寄り男の顔を覗き込む。

「あらー、久しぶりの光景ね。でもまだ生きてるみたい。」

その人は男に息があることを確認すると、男を家の中へと引きずって行った。



男は暖かな日差しを顔に受け、目を覚ました。身体を起こそうとすると、頭に激痛が走り男は思わず声をあげる。昨日の事をぼんやりと思い出しながら、頭を擦り再びゆっくりと身体を起こす。

男は辺りを見回し、小綺麗なこじんまりとした部屋にあるベッドの上に自分がいることに気付く。

男の声に気付いたのか、何者かが部屋の扉をノックした。

「入るよー」

部屋に降り注ぐ柔らかな日差しのように優しい声がして、その声の持ち主が部屋に入ってきた。

どこか懐かしさをも覚える様な暖かい雰囲気を醸し出すその若い女は、その声と同様、柔らかな日差しのような色をした長い髪を後でまとめて、湯気の立った器をいくつか乗せたトレーの様なものを持っている。

「起きたのね、具合どう?」

男はその女の優しい表情に一瞬見とれてしまい、何を聞かれたのか分からず、戸惑いと混乱から訳の分からない事を言った。

「キノコは野菜ですか!?」

静寂が部屋を包む。柔らかな静寂だ。

「じゃあ、ご飯食べる気になったらこっちの部屋に来て。服は洗ってそこに置いてあるからね。」

そう言ってトレーを持ったまま女は部屋をあとにした。



それから男は支度を済ませ、朝食の準備がしてある部屋に入ると、部屋の中は食欲をそそるとても良い香りが充満している。部屋の中央に長方形の小さな食卓があり、椅子が2つ向かい合っている。その食卓には良い香りの正体であろう朝食がきちんと並べられている。

「適当に座って、とりあえず食べましょう。」

女に言われるがまま、男は食卓につき、女も続いて食卓についた。

「じゃ、いただきます。」

男が手を合わせそう言うと、女は1度びっくりしたような顔をして、その後わざとらしく不思議そうな顔をして、男に尋ねた。

「それは何?」

「え?食べる時の挨拶みたいなものかな。」

「おはようみたいな?誰に挨拶してるの?」

「作ってくれた人とか食べ物とか色々なものに。」

「へぇー、いいねそれ。じゃ、私も。イタダキマス。合ってる?」

「うん、いい感じ。」



そして、2人は黙々と朝食を済ませた。

「食べ終わった時の挨拶はないの?」

「ごちそうさまでした。」

「ゴチソウシマデシタ。どう?いい感じ?」

「うん、いい感じ。」

「じゃ、ちょっと片付けるから待ってて。」

それから女が片付けをするしばらくの間、男は昨日からの出来事を思い返していた。

(昨日、キッチンに向かってから今に至るまで起きたことは現実とはかけ離れすぎているけど、夢にしては全てがリアルすぎる。頭は激痛が走るし臭いも味もはっきりと分かるし記憶も昨日から続いている。夢を夢だと分かる時があるけど、あの感覚とも違う。でも・・・鎧着たじいさんが空飛ぶかぁ?)

男がそんなことを考えていると、女が戻って来て向かいの椅子に腰かけ男に話しかけた。

「まず、名前聞いていい?」

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