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さっ

何の前触れもなく異世界に飛ばされた男は、だだっ広い草原に膝をつき、絶望していたのだが、次第に平静を取り戻し始め、ゆっくりと立ち上がった。

「と、とりあえず今の状況を整理すると、おれは自分の部屋でゲームをしていて、飲み物が無いことに気付き、ジュースを取りにキッチンへ向かった。そして、ドアを開け部屋を出た。あ、なるほどなるほど、じゃあ、ここはキッチンということか・・・・・・っなわけあるかあ!」



器用に1人でボケツッコミをこなす男の目の前には、青々とした草原が広がっている。

「夢か?夢なのか?それとも何か壮大なドッキリで部屋が草原に移動したのか? あ!!部屋は!?」

そう思い付いたように声を大きくした男は、すぐさま後ろを振り向いた。しかし、そこにはただただ無情に広がる草原。

「・・・ふっ、風が気持ち良いな。」

永遠に続いているかのように思える綺麗な色をした若々しい草原と雲1つないパーフェクトな青空とに挟まれた男はさらさらと優しく流れる風に吹かれ、1度考えることをやめ、この問題を先送りにすることにしたのだった。



「あーるーこー、あーるーこー、わたしはー、べーんぴー」

男はこれ以上ない爽やかな表情で、摩訶不思議な歌を口ずさみ歩いていた。行き先は決まってないが、足取りはとても軽やかだ。

そうしてしばらくすると、歩いている男は、大きめのバランスボール程の大きさの半透明の物体が数メートル前方にあることに気付き、近付いていった。

「なんだこれ?え?クラゲ?大きいなー。草原にクラゲかー、珍しいなあ。」

男はうろうろと物体の周りを歩き回り、それを観察している。つんつんと指でつついたり、じーっと様子を眺めたりしていたが、しばらくすると飽きてしまい、再び歩き始めた。



それから数分、男が当てもなく歩いていると、突然、「ズドン」と男の後ろに雷が落ちた様な光と轟音が鳴り、男はそれに全身を震わされ、思わず目を瞑り耳を塞いだ。

男がそのまま固まっていると、後ろからトントンと優しく肩を叩かれた。男が恐る恐る後ろを振り向くと、そこには空の青にも負けない程きれいな青色の鎧を身に付けた長身の老人が立っていた。飄々とした雰囲気を纏っているが、目にはとても力強い光が宿っている。

「青年、この手紙を裏に書いてある所まで届けてくれないか。そして、今日は帰ることができるか分からないと伝えてくれ。」

そう言って微笑み、老人は小さな紙を男に渡し、数10メートル小走りして、男の方を振り返り軽く手をあげ、再び轟音と共に飛び去った。



呆気にとられた男は少しの間立ち尽くしたが、何かがガタゴトと近付いてくる音を耳にし、我に帰った。音の正体は少し変わった形をした馬が引く馬車で、その馬車は男の前で止まった。

「兄ちゃん乗ってくかい?荷物が多くてちょっと狭いけど」

気さくで朗らかな印象の、少し恰幅の良い中年のおじさんが陽気な声で男に話しかける。

「え、いいんですか?ここまで行きたいんですけど。」

男が咄嗟に老人に渡された紙を見せると、おじさんは男に後ろの荷台に乗るように言い、男は俵のような物が沢山積まれた荷台に乗り込んだ。



「こんな所に人がいるなんて珍しいなー、何してたんだい?」

「ちょっと散歩をですね・・・」

「散歩って、近くに村も街もないぞ?まあ、いいか。見ない格好だし余所の国から来たのかね。」

「まあそんな感じですね。」

馬車の走る音で少し声が聞き取りづらい中、他愛もない会話をしていると、男は次第にうとうとし始め、眠ってしまった。



「おい、兄ちゃん、起きろー!」

先程のおじさんが男の肩を揺らす。男は周囲がガヤガヤとしていることに気付き、どうやら人気のある所に着いたらしいことを察した。

身体を起こし周囲を見渡すと、本や写真で見たような古き良き西洋風の建物が並んでいる。街を行き交う人々も景観にうまく馴染んでいる。

「あとはその辺の人に聞いたら行き着けると思うぞ。またどこかで会ったら乗せてやるよ!」

「どうも、その馬、首が長いですね。」

男はおじさんに軽く会釈をし、道を教えてくれそうな人を探すのだった。

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