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【5話:覚醒、再生、集大成】

 …………。


 …………?


 あれ。


 意識がある。


 相変わらず目蓋は重くて開かないが、一度途切れたはずの意識がまた戻ってきた。


 どうなってんだ。


「……わたしを守って死ぬのは結構、あなたの男気感じたマイソウル」


 お経のようなラップが、聞こえてくる。止まってしまった心臓の代わりに、俺の魂がビートを刻み始める。


「されど埋葬、するには早々、相棒残して逝くのは非道」


 徐々に身体に力が漲ってくる。胸の傷は塞がり、既に致死量の血液を失ったはずの俺は立ち上がることさえ可能になる。やっと目を開いた俺は、相変わらずデカブツなジャイアントスカルを睨みつける。


「だから許してDJロック」彼女の声が鮮明に聞こえ出す。「あなたに送る、最期のパンチライン」


 そんな骨なんか、叩き斬れ! 彼女は振り絞るような声でそう叫んだ。


 俺は小さく「イェア」と言うと、スカルに剣を向ける。


 不思議だ。


 アナベルの声を聴いていると、誰にも負けないような気がしてくる。たとえそれが、ついさっき自分の胸を貫いた巨大なモンスターであっても。


 これがヒップホップの魂か。


 ジャイアントスカルは再度右手で俺を押しつぶそうとしてくる。俺はそれを片腕で受け止める。なんだお前、こんな軽かったか?


 逆に腕を押し返した俺は、奴の右腕から肩口まで登り、関節に剣を差し込んで破壊する。ズシンと音を立てて右腕が落ちる。


 怒りをあらわにしたスカルは、激情に任せて左手を振るう。鋭利な槍のように尖った5本の指は、ひとつひとつが立派な凶器だ。


 でも、こんな攻撃に当たるわけがない。さっきまで目で追えなかったはずの攻撃を、俺は見てから避けられるようになっている。高速のやり取りの中で、次から次へと最適解が浮かんでくる。


 まるで夢にまで見た勇者になった気分だ。


 全ての指を斬り落とした俺は、攻撃手段を失い狼狽えるスカルを見据える。


 俺は飛び上がり、剣を逆手に構えて高速で奴の頭上から落下する。着地とともに思い切り脳天に剣を突き刺すと、スカルの目の中に灯っていた小さな光が消える。


「復活参戦、勝利は必然、肉付き悪くて脳天一閃」俺はビシッと中指を立て、そうバースを蹴る。「俺の勝ちだ、骨野郎」



◆◇◆



 全てを終えた俺は、アナベルとともに彼女の家に向かった。寝床には苦しそうな顔で横たわっている妙齢の女性がいた。


 アナベルは採ってきた女神の薬草を母親の手元に握らせる。すると、部屋全体が大きな光に満ち溢れる。苦悶の表情を浮かべていた母親は安らかに寝息を立て始め、反対に女神の薬草は萎れてしまった。


「よかった……!」アナベルは感極まって母親に抱きついた。


 その感触に目を覚ました母親は、驚いた様子で自らの身体に起きた変化を実感していた。「アナベル、これは」


「女神の薬草を採ってきたんだよ」


「あんた、ダンジョンに行ってきたの!?」


「う、うん」


 母親の剣幕に狼狽えるアナベル。


「そんな危険なことして……もし死にでもしたらどうするつもりだったの!」


 そ、そんな怒らなくてもいいじゃないか……俺も狼狽えちゃう。あんたの娘は相当頑張ったんだぜ。


 しかし、その直後に母親はアナベルを抱きしめて、涙を流し始める。今まで我慢していたアナベルも泣いてしまう。


 無言のまま抱き合う2人を、俺はしばらく眺めていた。くっ……泣かせるじゃねえか。


「……ところで、この人は?」


 母親が至極真っ当な質問をする。よく考えたら、俺ってめっちゃ不審者だ。目覚めたら何故か娘の隣に居て、一緒に狼狽えたり涙ぐんだり……はっきり言って不気味すぎる。


「彼はDJロック。彼のおかげで私は死なずに済んだ」アナベルはそう説明する。「とても勇敢な人」


 それを聞いて、母親は深々と頭を下げる。「娘を守って下さってありがとうございます……DJさん」


 あ、DJの方拾うんだ……まあいいけど。


「いや、礼を言うのは俺の方っす。俺なんて数時間前までシンバルを持った猿のおもちゃだったわけだし」


「え?」


「つまり、ビートを刻むのが上手いってこと」


 アナベルがそう補足説明するが、母親は全然ピンと来ていない。そりゃそうだ、夢の中みたいなカオスな会話だからな。


「と、ともかく、今日はもう陽が落ちますから……泊まって行ってください」


「……いや、実は俺たち今からやることあるんです」


 俺がそう言うと、アナベルは再び表情を曇らせる。


「何を?」母親がきょとんとした顔で聞いてくる。


「お墓作りっす」


「だ、誰の……?」


「俺の」俺は敢えて冗談めかした様子で笑って言った。


 でも事実だ。


 俺は今から埋葬される。

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