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【2話:MCアナベル】

難を逃れた俺たちは、その場にへたり込んで体力を回復する。追いかけ回されるのは体力的にも精神的にもキツいんだ。


 それにしても驚いた……この気狂いラッパーがまさか死体を操るネクロマンサーの少女だったなんて。それにゾンビ化したゴブリンの強さは尋常じゃなかったぞ。


「お前、名前は?」


「MCアナベル」彼女は真面目な顔で言う。


「アナベルか……つーかなんなんだよその口調は」


 彼女はさっきからずーっとこの調子だ。ただのラップ好きか? それにしちゃ、情緒の変化に乏しいように見えるが。


「ユニークすぎる、ユニークスキル」


 アナベルは右手に力を込め、青白い光を見せつけてくる。


「《ネクロラッパー》……?」俺は表示された文字を読み上げる。


 なんじゃそりゃ、聞いたことねえぞ。


「わたしの口から飛び出る言霊、聴いた死体はすぐに意のまま」彼女はマイクを片手に立ち上がる。「ヘイカマーン」


 彼女の声に反応して、先ほど八面六臂の無双を見せたゴブリンゾンビが踊り出す。それだけではなく、山積みになったゴブリンの死体も生き生きと乱舞し出す。狂喜のダンスフロアだ。


 ……なるほど、やたらと韻を踏んでいるのはそのためか。常に握りしめている木製のマイク状の棒切れは、専用の呪具か何かだろう。呪文のようだと思っていたが、まさか本当に呪文だったなんて。


 とはいえなんつー馬鹿げたスキルだよ……ラップを聴いた死体を躍らせるとは。いや、おバカ度で言えば俺の方が上かもしれないが。


「理解した?」


「まあなんとなく」


「じゃあ次はキミの番」


「ああ、自己紹介か」


「ラップでどうぞ」


「んなもん素人に要求すんなよ……俺はロック。見りゃ分かると思うが、剣士だ」


 ユニークスキルについては、特に言う必要もないか。


「分かったあなたの名前はロック。あなたと出会えてわたしはラック」


「俺と出会えて幸運だって?」


「わたし、死体がないと何もできない」アナベルは棍棒を持ったゴブリンを指差す。「倒してくれてありがとう」


 そう言って、彼女は微かに微笑んだ。ネクロマンサーらしく紫色のローブに身を包んではいるが、深く被ったフードから覗くその笑顔は実に可憐で、長目の前髪で隠れがちなのがもったいないくらいだ。


 ぶっちゃけ死ぬほどかわいい。こんな女の子に微笑まれたら、俺みたいな非モテ男はすぐに落とされてしまう。


 どうしよう、もう好きになってしまった……こんなちょっとおかしい感じの子なのに! 我ながらチョロいやつだな、俺!


「あ、ありがとうはこっちが言うべきセリフだろ」俺は気恥ずかしさからふいっと目線をずらす。「お前がいなきゃ、きっと俺は死んでたぜ」


 そうだ、いつの間に合流したのか知らないが、アナベルがいなければ俺はゴブリンの餌食になっていたことだろう。やはり格好つけて1人でダンジョンになんか潜るもんじゃないな。


「アナベルはこんなところで何やってんだよ」


「取り残されちゃった」


「取り残された?」


「不気味な力を持ってるわたし、みんなにとってはジャマらしい」彼女は悲しげにそう言う。


「もしかして、お前もパーティを追放されたクチか!」


 唐突にテンションを上げてきた俺に、アナベルはビクッと身体を跳ね上げた。「う、うん」


「何回目?」


「い、1回目だけど」


「なんだよ、とんだビギナーじゃないか」俺はドヤ顔で言う。「俺なんてもう10回目だ」


「10回も仲間外れにされちゃったの?」アナベルはポカンと口を開けてそう訊いてくる。「本当に?」


「残念ながらマジだ。今さっき除名されてきたばっかりだけど、もう慣れたぜ」


「……鬼のメンタル強心臓、腐らぬ精神マジリスペクト」


 俺は「イェア」と返してやる。


 だから1回クビになったくらいでくよくよすんな、MCアナベル。

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