【1話:腐らない男とネクロラッパー】
初投稿です
よろしくお願いします
「ロック、お前の役割腐りすぎ」
「え」
「クビ」
パーティリーダーにそう命じられた俺はひどく落ち込んだ……なんてことはない。何故かと言えば、それは聞き飽きた言葉だった。
首、追放、脱退、除名、卒業……様々な言葉で俺は“いらない子”扱いされ続けてきた。そして今回が数えること10回目のパーティ追放だ。
だからまあ、そんじょそこらの追放者みたいに取り乱したり怒り狂ったりしない。俺は追い出されることにかけては大ベテランなのだ。
……こんな悲しい自慢あるか?
パーティを追放された俺は武器屋街をとぼとぼ歩く。今回こそ長く居られると思ったんだけどなあ……やっぱり俺って使い物にならないのか。
右手に力を込めると、青白い光とともに文字列が浮かび上がる。
《腐らない》
全ての人間が女神から賜るユニークスキル、いわゆる才能と呼ばれるやつだ。
《火炎耐性》とか、《切れ味アップ》とか、そういうのが一般的な冒険者向けのスキルだが、俺のは一味も二味も違う。
なんせ《腐らない》のだ。
え、どういうこと? と思っただろう?
実は俺もなんだ。
「なんだそりゃ、《腐らない》?」武器屋の親父が俺の右手を覗き込んでいる。「見たことねえスキルだな、何ができるんだよ」
「いや分かんねえっす」
「ああん?」
「これ、使い道全然分かんないっす」
そうなのだ。
全然、ひとつも、使い方が分からない!
「持ってる食料を傷ませない能力とかじゃねえのか」
「それが普通に腐るんですよ」
「じゃあ武器が長く持つんだろう」
「今さっき壊れました」
「……風呂場にカビが生えない能力とか」
「んなわけないでしょう」
「このスキル自体が腐ってねえか?」
まさにその通りだ。ついでに保有者もパーティ内で腐って捨てられた直後という……このクソの役にも立たない謎スキルのおかげで、俺は冒険者としての居場所を見つけられずにいた。
たまにあるのだ、こういう使い道さえ解明不能な謎のスキルが。というかこの世界には有用なスキルの方が少ない……さっきあげた《火炎耐性》なんて大当たりもいいところだ。《犬の鳴き声耐性》とか、《いびき音量アップ》とかに比べればな。
だがそれでも、どう見てもスキルボックスの中で腐っている、《腐らない》よりはマシだろう。
「たぶんだけど、そういう物理的な意味じゃないんじゃないかなあ」俺は言う。「こう、精神が腐らないっつーか」
「たとえばどういうことだよ」
「10回パーティを追放されたけど、まだ心折れてないっす」
「10回って……前代未聞だな」武器屋の親父は呆れた様子で言ってくる。「死んでから後悔する前に、冒険者なんて諦めちまえよ。お前みたいな才能無しが飛び込んでいけるほど甘い世界じゃ……」
俺は武器屋の壁に貼ってあるパーティ募集案内を見つめている。
【パーティ名〈生命の息吹〉定員1
“実力派揃いの我々と一緒に勇者を目指しませんか?”
募集要項:①剣士の方 ②西洞窟ダンジョン深部に生える“女神の薬草”を採って帰ってこれる程度の実力がある方 ③やる気に満ち溢れた方】
①はクリアしている。俺は一応剣士なんだ。なんのスキルもないが。
③に関しては言うまでもない。俺はいつでもやる気に満ちている。役立たずだからすぐクビになるが。
よし、あとは②だけだな。
「おいおい兄ちゃん、もうよせよ」親父は親切心からアドバイスをくださる。「10回も追い出されたんだろ? いつか本当に死ぬぞ」
確かに俺は弱いし、クソの役にも立たないハズレスキルの保有者だ。冒険者には向いてないのかもしれない。
だが、それでも俺は勇者に近づきたいんだ。
「諦めませんよ」俺は商品の中から鋼鉄の剣を選び、親父に渡して言う。「俺、“腐らない”男なんで」
もしかしたら、このスキルはこうやって格好つけるために存在しているのかもしれない。
◆◇◆
「諦めよっかな~~~!!!!」
俺は大量のゴブリンに追われながら半泣きでそう叫んだ。奴らは棍棒を掲げ、鬼の形相で俺を追いかけてくる。
おいおいおい! 西洞窟くらいならイケると思ってた馬鹿はどこのどいつだい!? いやアタイなんだけど……だって3層以降がこんなに激戦区だとは思わなかったんだよ~!
「キシャアアアア!!!!」
「おわあああああ!!!!」
ゴブリンの1匹が勇猛果敢に俺に飛びかかってくる。頭部を破壊しようと殺意を込めて振り下ろされた棍棒を、俺はなんとか剣で受け止める。
「どらあああああ!!!!」
「グボァ~」
そして勢いよくなぎ払うようにヤツを斬り伏せる。死した彼はその場にドタッと倒れ込んだ。このヤロー、調子に乗りやがって……こちとらゴブリン1匹に負けるほど落ちぶれちゃいねえや。
「キシャアアアア!!!!」「キシャアアアア!!!!」「キシャアアアア!!!!」「キシャアアアア!!!!」
……ゴブリン1匹にはな! 俺は再度脱兎の如く逃げ出す。なんだよこの数、10匹以上いないか? どんだけ暇なんだよお前ら。
あ~! 格好つけすぎた~! 意地張っちゃった~! これ無理だ~! 死ぬ~!
「洒落にならない大ピンチ。ゴブリンたちが大挙して来賓し。史上最悪の展開 Shit My瀕死」
「って誰だお前!?」
いつのまにか、俺の隣には謎の女が並走していた。しかも何やら呪文のような戯言をぶつぶつ呟いている。
「わたし境遇はキミとおんなじ」彼女はやたらとリズミカルなテンポでそう説明する。「キミと同様にソロで問題児」
なんだこいつ、ラッパーか? なんかマイクっぽいの持ってるし……その割に無表情で暗そうな雰囲気を漂わせてるのが気になるが。
「おいおいおい! ふざけてる場合じゃねえだろ!」俺はちゃんとツッコんでやる。「俺たち死ぬぞ!」
「至極真面目だアホかーと。すごく美味しいアフォガード」
「めちゃくちゃふざけてる!」
やっぱりただの馬鹿だ!
後ろを見ると、10匹だったゴブリンの数が20匹に増えていた……ちょっとした学校のクラスじゃないか。この数じゃ、今更戦おうとしたって飲み込まれるのがオチだ。
ああ~、どうすりゃいいんだよ。
「心配ご無用落書無用」彼女はお経を読むかのように平坦な声色で呟く。「おそらく今から始まる無双」
無双?
誰が?
「……キシャアアアアアアアアア!!!」
後方から物凄い絶叫が聞こえてくる。ゴブリンの声だが、後ろを追いかけてくる集団のものではない。もっと遠くからだ。
と思うと、その叫び声は瞬く間に迫ってくる。ゴブリンの群れまで到達した彼は、握り締めた棍棒の威力を遺憾なく発揮し、同族をばったばったとなぎ倒していく。
まさに無双状態だ。
その時点で、俺たちは足を止めその様子を静観していた。
結局、そのゴブリンは20以上の軍勢をたった1人で全員倒してしまった。ただのゴブリンの彼が。
いや、ただのゴブリンとは言えないな。
何故なら、そいつは今さっき、俺が斬り伏せたはずのあいつなのだから。傷は塞がっており、いわゆるゾンビ化してしまっている。
「わたし稀代のネクロマンサー」
「ネクロマンサー……? ってことは、お前がこいつを復活させて?」
彼女は小さくこくりと頷いて言った。「グッドアンサー」