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インスタント生命

 とある近未来。


 全ての生命が生殖活動を止めた。


 命の価値が大暴落したからだ。


 誰かが言った、「命に貴賤(きせん)なし」という言葉。それは、嘘だ。


 命には、「生まれながらに価値がある」という側面も持っている。価値があれば、高いや低い、(とうと)いや(いや)しいといった貴賤が生じるのは、自然の摂理だ。


 欲望のままに肥大化した生命の価値は高騰した。高騰に高騰を重ねた生命の価値は重量を増し、それを支える社会の根幹に亀裂を生じさせた。


 根幹に生じた小さな亀裂は、小さな罅が少しの衝撃で大きな罅になるように、瞬く間に拡がっていった。そして、支えきれなくなった生命が社会からこぼれた。


 命の価値が大暴落した瞬間だった。


 しかし、一部の頭脳明晰な人類によって、その結果は予見されていた。


「全生命の余命は残り幾許(いくばく)かである」


 社会学の権威にして医学界の風雲児、一条 瑠璃の言葉が実しやかに囁かれて数年でこの結果である。


 社会学と医学、この二つを結び付けることに成功し社会医学という新しいジャンルを確立した彼女の半生は、伝記として後世に語り継がれるだろうから、ここではあまり焦点を当てないことにする。


 下り坂を転がり始めた球体が勢いを増す如く、命の価値が大暴落するのにさほどの時を必要とはしなかった。


 ある日突然、自分の命に価値は無いと突き付けられた多くの人々は、パニックを起こし、自棄(やけ)になった。街は暴徒と化した人で溢れ、至る所で破壊が行われ、その一方で無気力な生気のない目をした人がその身を投げ出してもいた。


 人が感情で動ける時間は長くない。当然、暴徒と化した人や、生気をなくした人が自然と淘汰され、そんな時代も長くは続かなかった。


 まず、己の命に価値が無いことを受け入れた人類が、種を残すことに意味を見い出せずに生殖活動を止めた。(娯楽として性行為自体は残ったが)


 命の価値の暴落と一緒に、感情の起伏もなだらかになった。


 そのうちに、AIが進化して管理者を名乗るようになった。


 そして、AIが出した答えが『生命の創造を含めた管理』だった。


 まず、感情があまり揺れ動かなくなった人間の脳にチップを埋め込みその人間の生を維持、管理するところから始まり、そこで種の存続のための交配率が50%になるように調整。


 この交配率が世代を追う毎に低くなり、ついには0%になったのだった。


 同時進行で生物のあらゆるデータを収集し、解析。遺伝子はもちろん、細胞、分子、原子に至るまでの解析を終えたAIは、今では無から有を生み出している。


 そうして、生命は3分で出来上がることになった。


 地球は今日も平和である。

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