ハルのカナタ
満開の桜の木が風に揺られ、その花びらを散らしていく。毎年訪れる、儚くも美しい光景だ。
彼は、彼女は、『今ごろどうしているかな』
二人の思いが同じ空のもと、遠くの地でリンクする。
彼と彼女の人生の交差点は二ヶ所。
ともに遥か後方。振り返っても朧気に見えるだけ。
一つ目の交差点で二人は出会い、暫く同じ道を歩んだが、二つ目の交差点で別の道をそれぞれ選んだ。
言葉にしてしまえば、ただ、それだけの事だ。
しかし、互いを嫌いになったから別れたわけでは無かった。互いが互いの人生と向き合った先が、残念ながら交わっていなかったのだ。
互いのこれからを思い遣り、互いの優しさ故に身を切るような痛みを伴ってその手を離した。
そして、振り返ることなく互いに選んだ道を邁進し今に至る。
その後、二人はそれぞれ別の伴侶を得、互いに幸せな家庭を築いている。
忙しなくも充実した日々に埋もれ、互いが互いを思い出すことはほとんどない。
しかし、桜の木をきっかけに、二人は互いを思い出す。
彼らの人生が交わった二ヶ所には、満開の桜が咲き誇っていた。
きっかけは必要だが、思い出すほど燃え上がった恋は、それが、最初で最後だった。
そんな二人に、三つ目の交差点がすぐそこまで迫っている。