仲良くなれるといいなぁ
童話に初挑戦。
冬童話2020参加作品です。
うーん、うーん。
キイロ鬼は悩んでいました。
占い鬼の婆様が言うのです。にんげんが攻めてきて、鬼たちはひどい目にあうと。
だけど、友だちのアカ鬼、アオ鬼や、オトナ鬼たちはまるで信じていないのです。
「かえりうちにしてやる!」
と、大きなこん棒を振り回し、鼻息あらく歩き回っては、にんげんたちからうばった金銀財宝にうっとりして、おさけを飲んでガハハと笑うのです。
「仲良くできたら、いいのにな」
キイロ鬼は悩みます。
争いごとは、嫌いなのです。
でも、どうすればにんげんと仲良くできるかわかりません。
にんげんたちは、鬼をこわがり、嫌っています。
頭の上の角を見ただけで、逃げていってしまうのです。
「角が怖いなんて、ふしぎだな」
角は強い鬼の『あかし』です。
にんげんには角がないので、びっくりしてしまうのかもしれません。
キイロ鬼は海辺で拾った大きな大きな貝がらと、こんぶやワカメをかぶって出かけることにしました。
角はすっぽりかくれたので、これならきっと、にんげんたちもこわくない。
「仲良くなれるといいなぁ」
つぎの日、キイロ鬼はわくわくしながら島を出て、人里にたどり着きました。
けれども、誰も近づいてきてはくれません。
キイロ鬼が近くにいくと、みんなそそくさといなくなってしまうのです。
「おかあさん、へんなのかぶってるよ」
「しっ! 見ちゃいけません!」
キイロ鬼は悲しくなって、ため息をつきました。
いったい何がだめなのでしょう。
とほうにくれていると、ひとりの男の子が道をあるいてきました。
男の子はキイロ鬼に気がついても、いなくなるそぶりをみせません。
「やあ、こんにちは」
「こんにちは!」
嬉しくなってあいさつしたキイロ鬼に、元気なあいさつが返ってきます。
男の子はふしぎそうな顔をして、たずねます。
「なんでそんなの、かぶってるの? あやしくて、磯くさいよ」
「磯くさい!?」
キイロ鬼はショックを受けました。
まさか、このワカメとこんぶと貝がらの着こなしがいけていなかったなんて。
「おしゃれだと思ったんだ」
「ふつうに、ぼうしをかぶったほうがいいと思うよ」
なるほど、道ゆくにんげんたちはみんな、草をあんだぼうしをかぶっています。貝がらとワカメのコーデは、まだにんげんには早すぎたのでした。
キイロ鬼は、男の子にお礼を言ってわかれました。
島に帰ると草をあつめ、アカ鬼がふしぎがるなか、少しずつ、少しずつぼうしをあんでゆきます。
ひとばんかけて、ぼうしができました。はじめてにしては、じょうできです。
「仲良くなれるといいなぁ」
つぎの日、キイロ鬼はどきどきしながら島を出て、人里にたどり着きました。
けれども、誰も近づいてきてはくれません。
キイロ鬼が近くにいくと、みんな家に入ってしまうのです。
ゆがんだぼうしをかぶったキイロ鬼は、まだあやしく見えるのです。
とほうにくれていると、きのうの男の子が道をあるいてきました。小さな犬をつれています。
「やあ、こんにちは」
「こんにちは!」
「ワン!」
あいさつしたキイロ鬼に、元気なあいさつが返ってきます。
「ぼうしをかぶっても、仲良くなれなかったよ」
「そうかぁ。ざんねんだね。そうだ、仲良くなりたいやつがいるなら、おくりものなんてどうかな」
「おくりものかぁ」
「ワン?」
うーんと悩むキイロ鬼に、犬が首をかしげます。
「たとえば、食べものとか、花とかさ」
なるほど、とキイロ鬼はうなずいて、男の子にお礼を言ってわかれました。
島に帰ると、アオ鬼がけげんそうに見つめるなか、たきつぼ近くのがけをえいこらさっさとくだります。
なんどもすべりおちそうになりながら、たきつぼにだけ生えている、背の高い美しい白い花をつみました。
「仲良くなれるといいなぁ」
つぎの日、キイロ鬼はそわそわしながら島を出て、人里にたどり着きました。
けれども、誰も近づいてきてはくれません。
キイロ鬼が近くにいくと、みんなとおまきにするばかり。
きれいな花をもっていても、急に近づいてくる相手は怖いのです。
とほうにくれていると、いつもの男の子が道をあるいてきました。小さな犬と毛むくじゃらのサルをつれています。
「こんにちは! うわぁ、すごい花だね」
「ワワンワン!」
「ウキャー」
しょんぼりしているキイロ鬼に、目をまるくした男の子が声をかけてきます。
「こんにちは。お花でもだめだったよ」
「そっかぁ。見たことないくらいきれいなのに。その子は花が好きじゃなかったのかもしれないね」
「好きってどういうこと?」
「もらってうれしいかどうかってことさ。なにが好きなのかはひとによるもの」
なるほど、とキイロ鬼はうなずいて、男の子にお礼を言ってわかれました。
思えばキイロ鬼は、攻めてくるというにんげんのことをなにひとつとして知りません。なまえも、としも、好きなものも。
島に帰ると、オトナ鬼たちがひそひそするなか、占い鬼の婆様をたずねます。
「攻めてくるにんげんの好きなもの? そんなもの聞いて、どうするんだい」
「仲良くなるには、なにが好きなのかを知らないといけないんだ」
占い鬼の婆様は、目をまるくしておどろきます。
「そうかい、そうかい。もしかしたらもしかして、あんたがすべての鬼を助けることになるのかもしれないねぇ」
占い鬼の婆様は、もっていたすべての力を使いはたし、そのにんげんが団子を持っていることを突き止めてくれました。
つぎの日、キイロ鬼は悩みながら島を出て、人里にたどり着きました。
にんげんたちが素通りしていく道のはじっこに小さくすわりこんで、うーん、うーんと考えこみます。
「こんにちは!」
「ワワンワンワンワワン!」
「ウキャッキャー!」
「ぴぇー」
小さな犬に毛むくじゃらの猿、少し派手な鳥まで引き連れた男の子の、元気なあいさつがキイロ鬼の耳にとどきます。
「やぁ。こんにちは」
「また何か悩んでいるの?」
「そうなんだ」
キイロ鬼はゆっくりとうなずきます。
「あまいものが好きなにんげんに、なにをあげれば喜んでくれるんだろう」
「そうだなぁ。きみがそうやってたくさん悩んできめたものなら、きっと相手もうれしいと思うけれど」
「そうかなぁ」
にんげんたちのセンスはむつかしいのです。
男の子の助けがあって、ようやく人里になじんできたキイロ鬼には、まだまだ自信がもてません。
男の子はキイロ鬼といっしょになってすわりこみ、うーん、うーんと考えます。
やがてひらめいた男の子がかおをあげ、キイロ鬼に向かって言いました。
「甘いものが好きならさ、お茶でも買いにいこうよ」
「お茶は甘いの?」
「そうじゃないけど。甘いものには、しぶいお茶がよくあうんだ」
ぜんぜん違うものなのに、仲良くなれるものがあるなんて。
キイロ鬼はおどろいて、目をぱちくりとさせます。
男の子と犬たちの行列にまじり、キイロ鬼があるくのを、にんげんたちはどこか面白そうに見守ります。もう逃げていったりはしません。
「ありがとう、たくさん助けてくれて」
「友だちの悩みをきくくらい、わけないさ」
お茶の葉っぱを大事ににぎって、キイロ鬼はぺこりとおじぎをしました。にんげんたちの真似をしたのです。
はじめてできたにんげんの友だちのためにもがんばるぞ、と決意をみなぎらせます。
「仲良くなれるといいなぁ」
キイロ鬼は島に帰ると、他の鬼がこぞって見守るなか、花を飾りつけ、お茶をいれるじゅんびをして、今か今かとそのときを待つのでした。