その1
TK21の戦闘の翌日、1日休暇が与えられた。
美緖達にとって、正式に特戦隊員になってから初めての休暇だった。
急に与えられた休暇だったので、美緖達は何をして過ごせばいいのか分からなかった。
と言うより、休暇というのは初めてと言っていい体験であり、何なのかも分からないでいた。
とりあえず、美緖達は4人で話し合う事にした。
話し合う事自体、何だかおかしな事なのだが、それぐらい休暇に戸惑っていた。
勿論、在学中も休日というものがあった。
しかし、美緖達は成績が著しく悪かったので、休暇自体が追加訓練で潰れたり、連日の居残り訓練で休日は本当に体を休めるだけという感じだった。
したがって、何もない一日はこれが実質初めてだった。
休暇を貰う事により、何か真っ暗な青春を送っているなという自覚が美緖・美佳・美希に芽生えてしまった。
ただそんな中、美紅だけは前向きで、街に繰り出してみようという提案をすぐにしてきた。
それに対して、3人は反対意見を持っていなかったので、消極的にそれに賛成する事となった。
そして、官舎の4人部屋でそれぞれ街に繰り出す準備をしていた。
「あ……」
美緖は自分のクローゼットを開けると固まってしまった。
決して大きくないクローゼットにはガランとしていて、軍服が2着入っているだけだった。
私服といえば、ベットの下の引き出しに部屋着しかなかった。
美緖は外に着ていくための私服がないという絶望感に囚われていた。
考えてみると、特殊訓練学校に入学した後、私服を買った事が無かった。
学校にずうっと居たため、制服と訓練着があれば、十分だった。
美緖達は成長期なので入学前に持っていた私服はどんどん着られなくなり、ついには一枚も私服を持っていない状態になっていた。
恐る恐る隣の美佳を見ると、同じような顔をして美佳も美緖の方を見た。
目が合うと、お互い考えている事が手に取るように分かった。
そして、同時に後ろで準備している美希と美紅の方を振り返った。
美希は美緖と美佳と同じ顔をして、2人の方に振り返っていた。
そして、3人は更に絶望感を深めていた。
ただ美紅の方はクローゼットを閉めると、
「服ないからこの格好でいいっか」
と全く気にする様子なく屈託のないいつもの笑顔でそう言い切った。
「ちょっと待ちなさい」
美緖・美佳・美希は声を揃えてそう言った。
そして、出て行こうとした美紅を美希が慌てて捕まえた。
「その格好で外を出るのはとても不味いのです」
美希は美紅に言い聞かせるように言った。
美紅の格好は、ピンク系のタンクトップに短パン、白いカーディガンを羽織っていた。
まあ、他の三人も同じような格好をしていた。
ただ、入っているスリッパが美緖がパンダ、美佳はウサギ、美希がネコ、美紅がクマだった。
いずれもモコモコのかわいいスリッパだった。
「どうしてなのだ?美希ちゃん」
美紅はとても驚いた顔をしていた。
「どうしてもこうしてもじゃないのです」
美希は呆れた顔をした。
部屋着はパジャマを兼ねていて、タンクトップの丈が短く、動くとすぐにおへそが見えそうだった。
しかも、タンクトップの下にブラをしていなかった。
「裸じゃないから大丈夫だよ、美希ちゃん」
美紅はとびっきりの笑顔で美希にそう言った。
「ダメなのです。
そんな格好で外に出たら、通報されてしまうのです」
美希は美紅の言った事を珍しく強い口調で否定した。
美緖と美佳は通報はされないと思うけど、はしたないよねと思っていた。
「お巡りさんに捕まっちゃうの?」
ただ美紅にはとても効果があったようだった。
表情がもの凄く焦っていた。
「そうなのです」
美希はきっぱりとそう言い切った。
それを見て美希、言い切ったねと美緖と美佳は顔を見合わせながら思った。
「分かったのだ、美希ちゃん。
可愛くないけど、軍服にするのだ」
美紅は素直に美希に従った。
ただ美紅に言われて、他の3人は気付いた。
今、着ていける服はやっぱり軍服しかないことを。
仕方がないので、美緖達4人は軍服で外に出る事にした。