その3
その日の昼前に上申書を提出したが、参謀本部からの呼び出しは昼食後だった。
まさにこういった物を待ってましたと言った感じのタイミングらしかった。
美緖と美希は参謀本部へ出頭した。
部屋にすぐ通されると、参謀が縦一列で着席していた。
もう何度目だろうか?
いい加減に慣れてしまったと言いたいところだが、美緖はともかく、美希は表情にこそ出ていないがいつも戸惑っているような怯えている様子だった。
そんな思いをするなら、上申書など何度も提出しなければいいのだが、美希の性格のせいなのか、怯えより現状を改善しようとする気持ちがいつも上回るようだった。
まあ、隣に美緖がいることが大きな要因なのだろうが。
「さて、今回も君たちの上申書は興味深く読ませて貰ったよ」
小森大佐はいつもように偉ぶって、席に着いた美緖と美希に話し始めた。
それを聞いた美希はさっきまでの態度と打って変わって、何を!っと言った感じになっていた。
無論、表情には出なかったのだが、やはり、小森大佐を宿敵だと思っているのだろう。
そんな美希を見て、美緖は少し安心したような呆れたような感じになっていた。
「TK21とTK34が別行動を取っていると言う点は興味深かったよ」
小森大佐は尚も続けた。
で、結論は?といった感じで美緖と美希は思わざるを得なかった。
過去、小森大佐はいつも先に結論を言っていたからだった。
「その点を我々も考慮しなくてはならないと思い、検討に値するものだと感じた」
小森大佐は更に続けた。
で、結論は?と美緖と美希は尚も思った。
「確かに過去の戦いを検討してみると、TK21とTK34が共闘したという事実は見つける事ができなかった」
小森大佐は尚も続けた。
で、結論は何なのよ!と美緖と美希は思った。
「君たちのこの1ヶ月の探索の結果、TK21はこの南東京旅団の担当地区から撤退した事はほぼ確定した事実だと思われる」
小森大佐は更に続けた。
美緖はもう叫びたい感じになっていた。
美希は美緖の袖をちょこちょこと引っ張って、それを促しているようだった。
そこに、年若い参謀の一人が咳払いをした。
その事により、小森大佐の話が途切れた。
「失礼しました、大佐殿。
ですが、時間を無駄にせずに、結論を仰った方をよろしいかと愚考します」
年若い参謀は悪びれた風はなく、ニコリと笑って、そう言った。
そう言われた小森大佐が今度は咳払いをする番だった。
「よろしい。
117中隊にはTK34の探索を命じる事とする。
これは事前に荒木大尉にも通達済みである」
小森大佐はついに観念したかのように美緖と美希に命令を下した。
それを聞いた美緖はまたもや余計な事をしたと思い、頭がクラクラしてきた。
一方、美希の方はガッツポーズをしたい衝動に駆られていた。
宿敵に一撃食らわせてやったという気持ちだった。
だが、いつも通りに無表情だった。
「で、どこを探索する気でいるのかね?」
小森大佐は美緖と美希に質問してきた。
「はっ、3区の地下を探索しようと思います」
美希は小森大佐の質問に起立して、直立不動でそう答えた。
美緖は、この前の7区探索提案にも驚いたが、またしても同じような状況で美希は即答していた。
美緖は勿論美希、あんたねぇと同時に呆れていた。
「それはどうしてかね?」
小森大佐は重ねて質問してきた。
だが、今度は美希は答える事ができず、美緖の肩を指で突っついた。
立てという合図だった。
美緖はその合図に仕方なく立ち上がると、その時、美希にゴニョゴニョと耳打ちされた。
それを答えよと言う事なのだろう。
美緖は溜息をついた後、
「TK34は3区に執着心があると思われるからです」
と美希と同じく直立不動で答えた。
「成る程、TK34が3区を拠点にしていないかも知れないが、そこに張っていれば、遭遇する確率が上がると言う事だな?」
小森大佐の方は美希の意図を察したようだった。
「仰るとおりです」
美緖は小森大佐にそう答えた。
美希の指摘とその意図について、参謀達が命名で意見交換したので、部屋が少し騒がしくなった。
小森大佐はそれをしばらく傍観していたが、騒ぎが収まると、
「反対意見がある者は?」
と全体に質問を投げかけた。
小森大佐は一同を見渡して反対意見がない事を確認すると、
「よろしい。
では、東京117中隊に、3区地下の探索を命じる。
以上」
と命令を下すと、立ち上がった。
会議終了の合図だった。
美緖隊はまたしても自ら面倒事を引き受ける羽目になった。




