表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/84

その6

 美緖達はTK21と遭遇した地点までゆっくり慎重に進んでいった。


 いつTK21に襲われるかも知れないという危機感を感じながら進んでいった。


 だが、意外にもTK21と遭遇した十字路までは何も起きなかった。


 気配がなかったので、意外でも何でもなかったかもしれない。


 その十字路を目の前にすると、美緖達4人は誰が合図をしたものでもなく、一斉に刀を抜いた。


 戦闘態勢に入ったのだった。


 4人は十字路の前で一旦止まると、美緖は突入の合図をしようとした。


 だが、いつものお約束通り、隣にいた美紅が飛び出して十字路に進入した。


「バカ……」

 美紅を止めようとした美緖の手は空を切り、いつも通り美紅を止める事が出来なかった。


 そして、美緖は慌てて美紅の後に続いて十字路に飛び込んだ。


「誰もいないのだ」

 美紅は美緖が確認する前に十字路にもその先にも何もない事を確認して、ガッカリしたような安心したような複雑な表情を浮かべた。


 その言葉を聞いた美緖も美紅の隣で状況を確認すると、大きな溜息をついた。


 2人に続いて、美佳と美希も十字路に入り、美緖達とはそれぞれ違う方向を見ていた。


「こっちもぉ、誰もいませんねぇ」

 美佳はいつものホワホワ口調でそう言った。


 恐らく安心しているのだろう。


「そうなのです。

 誰もいないのです」

 美希は美佳に同意しながら刀を収めた。


 それが合図のように、他の3人も一斉に刀を収めた。


「どうして追ってこなかったのかな?」

 美緖は刀を収めたがまだ柄を握ったままだった。


 まだまだ油断できないと感じていた。


「恐らく、向こうも嫌がっただと思うのです」

 美希はいつもの冷静な口調でそう言った。


 美希の方は柄から手を放しており、警戒心を解いているようだった。


「嫌がった?」

 美緖は美希が思わぬ言葉を口にしたのでびっくりして美希の方を振り返った。


「そうなのです。

 向こうも私達同様、あまり出会いたくない相手だと思っていたのだと思うのです」

 美希にそう言われて、美緖は柄から手を放し、腕組みをして考え込んだ。


 言われてみれば、思い当たる節が無い訳では無かった。


 表情こそ、分からないがばったり鉢合わせした時に、TK21が口走った言葉やすぐに攻撃してこなかった態度などを考えるとそう解釈できなくも無かった。


「うーん……」

 美緖は首を捻りながらその考えを100%肯定する気にはなれずにいた。


「ヤッホー、みんな、助けに来たよ」

 突然、山吹の脳天気な声が聞こえて、美緖達はびっくりした。


 音も無く、美緖達のすぐ後ろに現れたので、尚更だった。


「山吹、あなた、その脳天気さ何とかなりませんか?

 今は戦闘態勢のなのですよ」

 山吹のすぐ後ろにいた蜜柑がぴしゃりと言った。


「ええ?」

 山吹は自分が脳天気な気分ではいなかったので当惑していた。


「そうそう、隊の品位が落ちるってものよ」

 柚葉は蜜柑に同調した。


「ええ?」

 山吹は益々当惑した。


 そんなやり取りを見ながら相変わらずと思いながら美緖は力なく笑う他無かった。


 お陰で先程までの緊張感がどこかに行ってしまった。


「そんな事より、TK21はどうしたの?

 戦っている最中じゃ無かったの?」

 話が進まないと思った小豆が最後尾から前の3人を押し退けて、先頭に立ちながら聞いてきた。


「こっちも逃げたら、向こうも逃げたのだ」

 美紅は腕組みをしながら自慢気に言っているように見えた。


「はい?」

 山吹達4人は美紅の言っている事が理解できないように、ハモりながら当惑していた。


 そして、しばらくそのまま沈黙が流れた。


 山吹達4人はどう反応していいか分からないでいた。


「ええっと、TK21と遭遇した私達は、自分達だけでは適わないと思って、逃げ出しました。

 そして、TK21がその後を追ってくると思っていたら追ってきませんでした。

 そこで、遭遇した地点に戻ってみると、TK21の姿はありませんでした。

 それが今の状況です」

 美緖は慌てて今の状況を説明した。


「何だ、そういう事か!」

 山吹は得心したように笑顔でそう言った。


 しかし、次の瞬間、

「と言う事は、私達、必要なかったって事?」

と「どうしよう、お呼びではなかった」と言った困った表情になった。


「そうじゃないでしょ、全く」

 山吹の態度を見て蜜柑が頭を抱えた。


 柚葉と小豆もとても残念な娘を見る目で山吹を見ていた。


「だって、桜お姉様達も突入の為に上で待機しているよ。

 他に、初音お姉様方や春菜お姉様方まで来るって言うし……」

 山吹はあたふたとしながら説明しだした。


 それを聞いた美緖は自分のやるべき事を忘れていた事に気が付いて、頭を抱えたい衝動に駆られた。


 だが、今はそんな事をしている場合では無かった。


「117Aより117Hへ。

 115Aと合流した。

 しかし、TK21を完全にロスト。

 引き続き、遭遇地点周辺の探索に入る」

 美緖は中隊本部にそう連絡した。


「117H、了解。

 TK21が逃げたって事?

 今、TK21を討伐する為の臨時連隊が立ち上がった所よ」

 和香は予想外の展開に驚きと共に呆れたような感じだった。


「はぁ、まあ、そのような状況です……」

 美緖は歯切れが悪かった。


 まあ、こういう時に歯切れ良く答えるのもそれはそれで問題だろうが。


「了解したわ。

 臨時連隊が立ち上がったので、以後の指揮は風間中佐が執る事になります。

 探索報告等は中佐にするように。

 以上」

 和香は今度は少し安心したようにそう言った。


「117A、了解。

 探索作業に移る」

 美緖はそう言うと通信を終わらせた。


 美緖は通信が終わると同時に歩き出すと、他の3人もそれに続いた。


「えっと、私達は?」

 美緖達4人が大分先行した後に、山吹が他人事のように聞いた。


「無論、一緒に探索するのですよ」

 蜜柑は呆れたようにそう答えると、山吹の背中を押して、探索に加わるように仕向けた。


 それにやれやれ顔で柚葉と小豆が続いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ