その4
「ウッヒョウ!
また、美緖隊員達がまた大物を引き当てましたね!」
美緖と千香が通信している前の席で山本兵長が感心と共に呆れたような感じで声を上げていた。
「全くですね。
彼女達は何か持っていますね」
鈴木兵長が更に茶化すように続けた。
美緖達がTK21を見付けたことで、117中隊の指揮車内は騒然としていた。
ただ、持っているというより滅茶苦茶運が悪い気がするのは気のせいだろうか?
「はいはい、茶化している場合じゃ無いでしょ」
騒然としている雰囲気の中、和香は手を叩きながら雰囲気を引き締めようとした。
「117中隊の全隊員へ。
これより117A小隊の援護に向かう。
全隊、7区大隊本部付近のマンホールへ戻れ。
場合によっては、TK21が出てくる来るわよ!
気を引き締めなさい!」
和香は中隊全隊にそう命令を下した。
「了解!」
鈴木兵長は先程までの茶化している態度とは打って変わって、真面目な表情でそう答えると、車を発進させた。
それに続き、他の車両も次々と発進していった。
「117Hより旅団Hへ。
117Aが地下にてTK21と遭遇。
至急来援を乞う」
美緖との交信が終わった千香が今度は旅団本部へ連絡を取った。
「こちら旅団H、117H、もう一度繰り返してくれ」
緊迫している千香の声とは裏腹に状況がいまいち飲み込めていないと言った感じの返事が返ってきた。
「繰り返す、117Aが地下にてTK21と遭遇した。
至急の来援を乞う」
千香はまどろこしさを覚えながらも繰り返した。
すると、先程まで異様に静かだった旅団本部側の通信が一斉に周りの雑音を拾い始めた。
どうやら千香からの通信でどえらい事が起きているのではと言う事でその場にいた誰もが動きを止めていたらしい。
そして、再確認できた事で一斉に動き出したと言った感じで、ドタバタといつもはあまり拾わない音が聞こえてきてしまっていた。
本部の司令室でも予期せぬ事に右往左往と言った感じだった。
「117Aがとんでもない物を見付けたぞ!」
「あいつら、またやらかした!」
「TK21だと?どうするんだ?」
「全員の休暇を取り消せ!」
「全部隊を招集せよ!」
などと、あちらこちらで大声で叫んでいる声を通信マイクが次々と拾っていた。
向こうも117中隊指揮車内と同じく、またもや大物を引き当てたと言った感じか?
「こちら旅団H、失礼した。
状況は了解した。
待機中の101中隊を来援に向かわせる」
旅団本部からの返信は少し遅れてきた。
そして、また通信が途切れた後、
「えっと、これは何ですか?」
と何かを確認する声までマイクに入ってしまった。
どうやら通信士も混乱しているらしい。
しばらく沈黙が流れた後、
「了解しました」
と言う通信士の言葉が入ってきた。
そして、更に沈黙が流れた後、
「旅団Hより117Hへ。
101中隊がそちらに向かった。
また、パトロール中の115中隊もそちらに向かわせる。
それと、休暇中の104,108中隊も準備でき次第、こちらに向かわせる。
それまでTK21を抑え込め。
旅団Hより命令は以上」
とようやく理路整然と言った感じでいつもの口調で状況説明と命令が下された。
「117H、了解」
千香はそう答えると、和香の方を見てやれやれと言った感じだった。
「無理も無いけど、本部も大分混乱しているようね」
和香は千香の気持ちを代弁するようにそう言うと、
「兎に角、打てる手は全て打ってもらったから、来援まで持たせるわよ」
と気合いを入れるように言った。




