その3
ストレスを溜め込んだ美緖はすっかり不貞腐れてしまった。
珍しく表情に出ていて、3人から少し離れた後方をトボトボと歩いていた。
まあ、マイペースの3人に囲まれて、調整役をやらされているのだからたまにこういった感じになるのは仕方が無い事だろう。
しかし、500m程南下した時点で、美緖は自分が不貞腐れている事を誰に言われるまでもなく、自覚した。
そして、これではいけないと大きく深呼吸をして、メンタルの回復に努めた。
この辺は美緖の凄いところなのだが、それ故に心配性だの苦労性だのと言われる所以でもあった。
何度か深呼吸をした後に、メンタルをすっかり回復させたと言うより、気持ちを切り替えた美緖は前の3人に追いつくべく、歩速を速めた。
前の3人は地下の十字路で立ち止まっていた。
そこはちょうど更に南にある旧地下鉄の線路が通っている真上だった。
左右どちら側も駅の方へ行くのだが、3人は左側、つまり、東側を見て固まっていた。
異変に気が付いた美緖は3人に追いつこうとしているところだった。
「あれは無理なのだ!」
美紅は突然そう叫ぶと、美緖の方を向いて、
「逃げるのだ!」
と驚愕の表情で再びそう叫びながら美緖の方へ走ってきた。
「え?」
美緖は何が何やら分からず、手を差し出して美紅を止めて尋ねようとした。
だが、美紅は美緖に脇目もくれずに、美緖の横を通り過ぎ、一気に加速していった。
「ええ?」
美緖は美紅の方を振り返りながら困惑の表情を浮かべた。
「逃げるのです」
美紅に一歩で遅れたが、美希はいつもの冷静な口調でそう言いながら、美緖の横を走り抜けていった。
「逃げましょぅぅぅ」
美佳はいつものホワホワ口調で美希のすぐ後に続いていた。
美緖は振り返る間もなく、後ろから来た二人を見送る他なかった。
二人とも危機感というものが全く感じられなかった。
まあ、美紅もそうなのだが。
「どういう事?」
美緖は困惑しながら、そして、少し怒ったような感じで3人がいた十字路へと歩みを進めた。
この辺は美緖の察しの悪さが出ていた。
と言うより、悪いどころではなく、最悪の鈍感さかも知れない。
美緖が十字路に差し掛かろうとしたその瞬間、左側の通路からヌイッと何かが現れて、美緖と鉢合わせした。
それは照合するまでもなかった。
TK21だった。
お互い、そこにいるとは思わずに固まってしまった。
「オマエタチ、ダッタ、ノカ……」
TK21はようやく振り絞るように声を発した。
表情には出ていないが、嫌な相手に会ったと言った感じだった。
TK21も美緖達をとても警戒しているのだろう。
ただ、美緖はそんなTK21の思惑を読み取る事はできずに、TK21の声を聞くと同時に正気に戻った。
そして、踵を返すと、一気に逃げ出した。
「あんた達!」
美緖は先程まで溜め込んだストレスを大爆発させるように大声で叫びながら全速力で走っていた。
その速さは驚くべきもので、先行している3人に一瞬で追い付いていた。
「何で言わないの!
なんなの、あんた達は!」
美緖は3人に追い付いた途端に、3人に怒鳴り散らした。
「逃げるのだと言ったのだ」
「逃げるのですと言ったのです」
「逃げましょぅと言いましたよぉ」
3人は美緖が何に怒っているのか分からずに迷惑そうに口々に言った。
「あああ!もう、あんた達は!」
美緖は頭を抱えながら3人の後を走り続けた。
そして、更に叱り付けたい衝動を抑えながら、
「こちら、117A。
地下空間でTK21と遭遇。
現在、交戦を避け、撤退中!
至急の増援を願います」
と報告をした。
やはり、美緖は苦労性と呼ばれるだけあって、こう言う事はきちんとしていた。
「117H、了解。
旅団本部へ増援の要請を行う。
117Aはそのまま地上まで撤退せよ」
千香からそう返信があった。
「117A、了解」
美緖はそう言って通信を終了させたが、無論起きた出来事については納得しようがなかった。




