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その3

「特戦隊員達って、やっぱり凄いのね。

 普通の隊員ではこうは行かないわね」

 美緖達の戦闘をモニタリングしながら和香が感心していた。


「中隊長殿、このまま推移を見守るのですか?」

 和香の前の席に座っている久乃木麻衣くのぎまい少尉が振り返りながらそう聞いてきた。


 久乃木麻衣少尉は今年の3月に士官学校を出たばかりの18歳。

 実践研修という形で中隊付の士官として参戦していた。

 1年間の研修が終われば、中尉に昇進する予定だった。

 とは言え、特戦隊員所属の中隊に配置された事は幸運とは言えない境遇だった。


「見守ると言うより、彼女達に委ねるほかないでしょうね。

 あんな風に対抗できるのは彼女達だけですからね」

 和香は麻衣に対してそう答えた。


 そして、和香は腕組みをしながら、

「しっかし、彼女達の卒業成績を見た時には心配したけど、やはり、学校の成績は当てにはならないのかもね」

とまた感心しながら独り言を呟いた。


 美緖達の成績は中隊長のなり手がなかった遠因ではあった。


「どうかしましたか?」

 麻衣は和香の独り言が聞き取れなかったようだ。


「いえ、何でもないわ」

 和香はどうでもいいことを呟いたので、独り言には言及しなかった。


 そして、千香の方を向いて、

「それより援軍はいつ来るの?」

と聞いた。


「約15分後に、東京114中隊が到着するとのことです」

 千香は和香の問いにそう答えた。


「114……確か、北東京旅団の所属よね」

 和香は自分の記憶を辿るようにそう言った。


「はい、その通りです」

 千香は和香の意図が分からなかったので怪訝な顔をした。


「あ、いやね、他の旅団部隊が来るなんて、随分と兵の運用効率が良くなったわねと思っただけよ」

 和香はちょっと冗談めかしていった。


 麻衣と千香は和香の言葉にどう反応していいのか、分からずにお互いに顔を見合わせた。


「114か……、確か、美緖隊員達の姉妹が所属している部隊だったわね」

 和香はまた独り言を呟いていた。

 何だか独り言が多い人間だ。


 東京114中隊A小隊には美緖達の姉妹である美亜みあ美衣みい美羽みう美恵みえが所属していた。

 美緖達は4姉妹ではなく、8姉妹であった。


「114が到着すれば、TK21の制圧もできるかもしれないわね……」

 和香はそう言いながら何か引っ掛かる事を感じて、途中で言葉を飲み込むようにして口をつぐんだ。


「そうだと思いますが、何か御懸念でもおありですか?」

 口をつぐんでしまった和香を不審に思い、麻衣が聞いてきた。


 だが、和香はすぐに麻衣の問いには答えなかった。


「あのぉ、中隊長殿?」

 麻衣は何か失礼なことをしでかしたのではないかと不安になっていた。


「何か引っ掛かるのよね」

 和香は麻衣の問いにだたそう答えた。


 和香は考える人のポーズを取り、思考を巡らしている最中だった。

 あるいはただの独り言だったかもしれない。


「何かと言いますと、何でしょうか?」

 麻衣は弱り切った顔をしていた。


 今度の麻衣の問いにまた和香は答えなかった。

 依然と考える人のポーズのままだった。


 そんな和香の様子を見て麻衣は力なく笑う他なかった。


「中……」

 麻衣は和香に呼び掛けようとした瞬間に、

「そうか!」

と言って和香は両手をポンと合わせた。


「117Aより入電です」

 千香はそう言うと、指揮車の全員に聞こえるように回線を切り替えた。


「指揮車に新たなに出現する妖人からの攻撃の可能性あり。

 警戒を厳にされたし」

 美緖がそう通信してきた。


「あ、それ、私も今思った事だわ」

 和香は驚きの声を上げた。


「指揮車周辺に妖人出現。

 取り囲まれています!」

 もっと驚きの声を上げたのは和香の2つ前の先頭座席に座っていた田中悦子たなかえつこ兵長だった。


 田中悦子兵長は18歳。

 下士官を養成する戦闘訓練学校卒で千香の同期だった。

 そして、中隊本部付きの下士官であり、衛生兵でもあった。


「いくら何でも、気付くのが遅すぎっすね」

 他人事のようにそう言ったのは和香の斜め前に座っていた山本兵長だった。


 山本直樹やまもとなおき兵長は20歳。

 戦闘訓練学校卒で、指揮車上部に設置されている重機関銃を担当していた。


「山本兵長、他人事のように言っていないで前の妖人を攻撃しなさい」

 和香は呆れたように命令した。


「了解しました」

 山本兵長は振り向いて敬礼すると、立ち上がって車の屋根に出て行った。

 命令には従ったが、どこか他人事のようで焦るという様子は全くなかった。


「鈴木兵長」

 和香は山本兵長の態度を気にもせずに、次の命令を出そうとしていた。


「はい」

 先頭座席の鈴木兵長はそう返事した。


 鈴木太郎すずきたろう兵長は20歳。

 戦闘訓練学校卒で、山本兵長と同期だった。

 担当は指揮車両のドライバーだった。


「逃げ切れる自信はある?」

 和香はまずはそう聞いた。


 山本兵長に注意したものの、和香の口調から何だか他人事で危機意識が乏しく感じられた。


「前の妖人を何とかしてくれれば、何とかなると思います」

 鈴木兵長の方は緊張しているようだった。


 答えと同時に、重機関銃の発射音が聞こえ出した。

 山本兵長が前方を妖人を攻撃し始めていた。


 麻衣と悦子も屋根から顔を出して妖人に対して銃で攻撃を開始した。


「117Bより117H。

 援護に向かう。

 それまで持ちこたえて下さい」

 こう言ってきたのはB小隊隊長の高橋中尉だった。


 高橋里奈たかはしりなは22歳。

 士官学校卒で、B小隊の隊長と共に、東京117中隊の副長でもあった。


「いえ、それはダメ!」

 和香は間髪入れずにそう答えた。そして、

「117Hより117各小隊。

 現状を維持して、TK21に対処せよ。

 こちらはこちらで対処する、以上」

と命令を下した。


 その毅然とした態度に指揮車内の全員が驚きと安心感を持った。


「第2中隊より117H。

 こちらはいつでも援護可能だが、どうする?

 指示を請う」

 今度は地区担当中隊からの入電だった。


「こちら117H。

 戦闘区域が北西に拡大する。

 避難命令区域を拡大し、住民の避難誘導を頼む」

 和香はすぐにそう答えた。


「第2中隊、了解」

 地区担当中隊は命令に従った。


「117Hより114H」

 和香は今度は援軍に来ている部隊に呼びかけた。


「こちら114H、あと10分ちょっとで到着予定。

 それまで持ちこたえてくれ」

 東京114中隊からはそう返事があった。


「117H、了解。

 こちらもそちらに向かう」

 和香はそう呼び掛けた。


「成る程、了解した。

 直ちに114Aを出動させる。

 以上」

 東京114中隊からあうんの呼吸のように和香の意図が伝わった。


「と言う事で、正面の妖人を突破して、114の方へ行くわよ」

 和香がそう言うと、

「了解!」

と車内の全員が一斉に答えた。

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