表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/84

その1

 決心した翌日には作成した上申書を提出した。


 しかしながら、やはりすぐに却下されてしまった。


 ただ、この1週間で美緖達は3区の地下を2回探索し、何も成果がなかった。


 その反面、妖人の出現は止まらずに美緖達を初め、特戦隊員達は振り回されていた。


 後手後手を踏む対応に、堪忍袋の緒が度々切れていた美希だったが、3回目の上申書を作成し、提出した。


 それが功を奏したのか、その日のうちに旅団の参謀達に呼び出された。


 美緖と美希が会議室に入ると、参謀達が横2列に着席しており、2人と対面する形になっていた。


 美緖と美希は多くの視線を受けながら自分達の席に着こうとした。


 しかし、席に着く前に、

「美緖隊員、君達の上申書は三度却下するよ」

と旅団参謀長の小森大佐が口を開いた。


 その言葉を聞いた美緖と美希はいきなりのことだったので席に着くのを止めて、中腰で固まってしまった。


 そして、どうしたものだろうか?と、美緖は中腰で固まったまま、美希の表情を伺った。


 美希の方は宿敵である小森大佐に噛みつきたいような衝動に駆られていたが、何事も無かったように腰掛けた。


 それを見た美緖はやれやれと言った感じだった。


 無論、美希の考えていることは分かっていた。


「なら、何故、我々をここにお呼びになったのでしょうか?」

 美緖は中腰から立って、姿勢を直しながら聞いた。


 隣の美希は座ったまま動こうとしなかった。


 抗議の表れでもあった。


「現状の共通認識を持って貰おうと、機会を設けたのだ」

 小森大佐は威厳を含んだ口調でそう言った。


 だが、美緖はその言葉を額面通り受け取らなかった。


 特戦隊員とは言え、末端の美緖達に対して、そこまで気を遣う必要があるとは思えなかった。


 参謀連中の今回の事に迷いが生じているようだと感じていた。


 また、横目で確認したが、美希も同じように思っているようだった。


 ただもう一つの可能性も美緖は感じていた。


 大佐は出来の悪い学生に対するように接しているのではないかと言う感じだった。


 実際、訓練学校時代の美緖達は出来が悪すぎる学生だったので、そんな事を感じてしまったのかも知れない。


「共通認識と言いますと、どういった事でしょうか?」

 美緖の言い方は少々意地が悪かったかも知れない。


 この美緖の言い方に美希はちょっとだけど溜飲を下げた感じだった。


「うむ、まずは3区の地下探索だが、これは現状維持で行く。

 例え、3区で拠点が発見できないとしても、3区の安全確認は必要であるからだ」

 小森大佐は美緖の意図は全く意に介さず、反論の余地を与えてくれそうになかった。


 余裕の表れだった。


 しかし、ならば、何故ここに呼ばれたのだろうか?と言う疑問が美緖と美希に湧いてきた。


「所で、話が変わるのだが、来週に8期生と9期生の部隊、111,112,115,116の各中隊が戦線復帰する」

 小森大佐は本当にいきなり違う話題を話し始めていた。


 小森大佐の言葉に美緖と美希は驚きながらも喜んだ。


 美緖達の1つ上と2つ上の先輩に当たるので、訓練学校で重なる時期があったので、かなりの親交があった。


 彼女達は作戦失敗の影響を受け、それぞれ半年以上の加療療養とリハビリが必要なほどダメージを受けていた。


 その彼女達が復帰できるのは何よりも嬉しいことだった。


「南東京旅団には115中隊が配属されることとなった」

 小森大佐は尚も話を続けていた。


 115A小隊のリーダーは山吹やまぶきであり、美緖と最も親しい先輩でよく相談に乗って貰っていた。


 正確に言えば、話す事によって気が楽になったと言う方が正確だった。


 それは美緖とは全くの正反対の山吹の性格によるものが大きかった。


 嬉しいのだが、同時にあれ?と言った気持ちが美緖に湧いてきた。


「戦力が増強されるので、君達117中隊は妖人の拠点探索に専従して貰うこととなった」


 はい?今なんて言いました?と言った顔を美緖と美希は同時にした。


 これがあれ?という正体だった。


 一気に雲行きが怪しくなった。


「この事は既に君達の中隊長である荒木大尉にも通達済みだ」

 目が点になっている2人を完全に置いてけぼりにして、小森大佐は決定事項を話し終えた。


 いい話の後に悪い話が来るという典型的な例だった。


 何でこうなったんだ?と美緖は思わざるを得なかった。


「君達は上申書を提出するなど、妖人拠点の探索に非常に熱心だ。

 期待しているぞ」

 小森大佐はニコニコ顔でそう付け加えた。


 周りの参謀連中もニコニコ顔で同意の頷きをしていた。


 とんだ藪蛇だったと思いながら美緖は目の前がクラクラしていた。


 大佐をまるで出来の悪い学生を弄ぶ鬼教官のように思えてきた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ