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妖人 ~ ゲノム編集された私達が戦う相手  作者: 妄子《もうす》
18.上申書

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その4

「あっさりと却下されたわ」

 中隊オフィスで和香に美緖達はそう言われた。


 上申書は出すと決めた翌日に和香を通して提出し、その翌日にあっさりと却下されてきた。


 和香は提出を許可したが、却下を見越していたらしく、特に驚いた様子はなかった。


 美緖は却下を予想してはいたが、説明をしなくて済んだので安堵していた。


 美佳と美紅は安堵も失望もしていない様子で事の成り行きをジッと見ているようだった。


 そんな中、美希はワナワナと震えていたが、その場で怒りを爆発させることはしなかった。


 美緖は美希の怒りがいつ爆発するかドキドキしながらその日のオフィスでの待機命令の中、静かにしていた。


 この日の夕方まで妖人の出現がなかったので、オフィスでの待機から自室での待機に切り替わり、オフィスを美緖達4人で出ることになった。


「まずは夕食を取ろう」

 美緖は他の3人にそう声を掛けた。


「お腹すいた……」

 美紅は嬉しそうにそう言い始めた時、

「何々ですか、あれは!

 一方的に却下するなど有り得ないのです。

 すかぽんたんなのです!」

と美希の怒りが爆発した。


 突然のことに嬉しそうにしていた美紅がえっという顔で固まってしまった。


 美緖は美緖で美希がついに爆発したかという顔をしていた。


「どうしてぇ、却下されたのでしょうかぁ?」

 美佳は美佳で素朴な疑問を口にしていた。


 ただ、あまりにもストレートに聞かれた為、美希は怒りの表情から一転してちょっと気まずそうな表情になった。


 その表情を見た美緖は自覚はあるのだなと感じた。


 美佳は美佳で答えを待つようにじっと美希を見ていた。


 美希は沈黙してしまい、ちょっと居心地が悪そうだった。


 答えない美希を見かねて、美緖が、

「要するに具体性に欠けていたという事ね」

と代わりに答えた。


 美緖は上申書の作成に携わったというより巻き込まれていた。


「具体性ですかぁ……」

 美佳は首を傾げていた。


 美紅は美紅で美希が何に怒っていたか分からずに事の成り行きをジッと見ていた。


「まあ、簡単に行ってしまえば、拠点は3区にはなく、それより東にありますと書いたんだけど、その根拠はまだ分かりませんって事になってしまったの」

 美緖は少々呆れながらそう言った。


 今思えば、いや、出す前からこれを提出するのかという思いだった。


「はぁ、そうなんですかぁ……」

 作成に関わっていない美佳はそう言う他ないようだった。


「あの上申書が完璧なものではないことぐらい、分かっているのです。

 だからと言って、少しくらいはこちらの言い分に耳を傾けるべきなのです。

 連中はとんだ石頭なのです」

 美希は忌々しそうにそう言った。


 あ、それは無理な話だよと美緖と美佳は思った。


 美紅は事の成り行きを心配そうに見守った。


 食堂の入り口が見えてきたからだった。


「こうなったら、完璧な上申書を作る他ないのです」

 美希はそう言うと、ずかずかと歩みを早めていき、食堂の入り口を通り過ぎていった。


 他の3人はそんな美希を見詰めながら食堂の入り口で立ち止まった。


「何をしているのです!

 早く作成に取り掛かるのです」

 美希は誰も付いて来なかったので振り返って、そう言った。


「えーっ!!」

 激しく拒否反応を示したのは美紅だった。


「えじゃ、ないのです。

 これは直ちに取り掛からなくてはならないのです」

 美希はそう言うと、3人を迎えに行くように傍まで歩いてきた。


「はい、はい、今は待機とは言え、任務中よ。

 食事をきちんと摂り、妖人出現に備えなくてはならないのよ」

 後ろから現れた和香が美希を諭すように言った。


 美希は露骨に不満そうな表情だった。


「そうなのだ。

 ご飯を食べるのだ」

 美紅は頼もしい援軍により飛びっきりの笑顔で食堂へと入っていった。


 美緖と美佳もそれに続いた。


 美希はしばらく動かなかったが、和香に背中を押されて、食堂に入っていった。


 美緖はとりあえず、一難去ったと言う感じでいた。

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