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妖人 ~ ゲノム編集された私達が戦う相手  作者: 妄子《もうす》
17.東にシフト

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その4

「助けに来たのだ!」

 美紅は苦戦している初音達の間に割って入っていき、TK34に一撃を加えた。


 TK34は美紅の一撃を難なく受けきると、すぐに反撃に出てきた。


 美紅も負けじと、TK34の攻撃を次々と受け流していった。


「他の3人は?」

 初音は美紅の後ろに下がりながらそう聞いた。


「後から来るのだ」

 美紅はTK34と戦いながらそう答えた。


「そう」

 初音はホッとした。


 そして、怪我で動けない琴音を助け起こした。


 隣ではやはり怪我で動けない鈴音を笙音が助け起こしていた。


「怪我人を連れて、下がるわね。

 後はよろしく」

 初音は琴音を背負ってそう言うと、同じく鈴音を背負った笙音と共に後退していった。


「え?どういう事なのだ?」

 一人取り残された美紅が?顔をする暇もなく、TK34の猛攻に耐えていた。


 耐えていたが、TK34の攻撃は強くなる一方で為す術がなくなっていった。


「やっぱり、美緖ちゃん、騙したのだ!」

 一人でTK34の相手をするとは思っていなかった美紅は絶叫した。


 絶叫したはいいが、残念な事にTK34の容赦ない攻撃は終わる事はなかった。


 絶体絶命の状況だったが、美紅はTK34の攻撃に何とか耐えていた。


 これまで何度か戦っていた事とに加え、一人で戦った経験もあったので、少しは慣れたのだろうか?


 というより、狭い空間だったので、攻撃してくる方向が限定されている為に、何とか対応できていると言った方がいいのかもしれなかった。


 こちらからの攻撃方向も限定される代わりに、向こう側の攻撃方向も限定されているので、何とか戦えているような感じだった。


「うわぁ、でも、もう無理なのだ!」

 流石にランクAの攻撃だけあって、パワーとスピードで美紅は押し切られてしまい、後ろに跳ね飛ばされて尻餅をついてしまった。


 そこにトドメの一撃とばかりに左手の爪が美紅の顔目掛けて突き立てられた。


 美紅はそれを刀で何とか受け止めたが、右手の爪に対しては完全に無防備になってしまった。


 声も上げられず、やられると思った瞬間、ゴンという鈍い音と共に、TK34の体勢が崩れた。


 そして、その拍子で美紅を狙っていた右手の爪が体を逸れていった。


 九死に一生を得た美紅は左手の爪を押し返すと、一気にTK34から離れた。


 TK34の方は後頭部を気にするように、左手で撫でていた。


「美紅、大丈夫?」

 美緖の声がTK34の後ろから聞こえてきた。


 ただ、やや少し離れた所からだった。


「全然大丈夫じゃないのだ!

 一人でこいつの相手をさせるとは酷いのだ!」

 美紅は激しく抗議した。


 美紅自身は毅然として抗議しているのだろうが、傍目から見ると何だかちょっと抜けているような感じがするのは気のせいなのだろうか?


「一人って、どういう事?」

 美緖はそう言うとようやく状況が視認できる所までやってきた。


 そして、美紅一人しかいない事を確認すると、

「あれぇ……?」

と言葉が出てこなかった。


 美緖は負傷した二人が後退する事は予想していたが、初音と笙音まで後退するとは思っていなかった。


 あまりにも予想外の事で美緖は思わず固まってしまった。


「美緖ちゃん、固まっている場合ではないですよぉ」

 美佳が戦いを促すと、美緖はそうだったと言った感じで我に返った。


 そして、TK34の背後から美緖達3人は攻撃を仕掛けていった。


 それに加えて、美紅の方も再び攻撃を開始した。


 4対1になったが、戦いは必ずしも美緖達有利とは行かなかった。

 人数的に3と1に分かれてしまった為、美紅の方がどうしても押されてしまった。


 ただ、前後から挟撃できているので、陣形的には有利だった。


 その為、TK34の一方的な有利な戦いとはならず、何とか互角と言った戦いになっていた。


 地下空間にぶつかり合う金属音が日々行く中、戦いは一進一退の攻防が続いていた。


 尤も退く方は美紅側で、進む側は美緖達側だった。


「厳しいのだ!」

 退く一方の美紅はそう叫びながらTK34の攻撃を何とかいなしていた。


「無理に攻勢に出ないで。

 そのまま耐えていて!」

 美緖はTK34の背後を襲いながら美紅にそう言った。


 美緖には美緖の計算があった。


 それはこのまま膠着状態を続けていれば、援軍が来るという計算だった。


 少なくとも無事である初音と笙音の来援は計算できた。


 しかし、その事はTK34も十分承知だった。


 TK34は膠着状態に陥っていると感じると、美紅を強引に後退させた。


 そして、T字路に入ると、そのまま一気に逃げ出していった。


「逃がさないのだ!」

 美紅はそう言って後を追おうとしたが、美緖が手で制した。


「深追いするのは止めましょ」

 美緖は有利な陣形が崩れてしまったので、そこで諦めた。


「中々上手くいかないものなのです」

 美希は溜息混じりにそう言って、同意するように刀を鞘に収めた。


「何をしていたのかぁ、分かりませんけどぉ、取りあえず撃退できたので最低限な事は出来たのではぁ?」

 美佳はホッとしたようにそう言って、同じく刀を鞘に収めた。


 確かにTK34の行動の意図は分からなかったが、美緖は美佳に言われてそれで良しと思った。


 すると、美紅の後ろの方から走り寄ってくる足音が聞こえてきた。


 足音のする方向に4人が目を向けると、初音と笙音がこっちに走り寄ってきた。


 来援としては完全に遅れてしまっていた。


 これを見越して、TK34は撤退したのだろう。


「みんな、無事?」

 4人の元に走り寄ってきた初音は目の前で立ち止まるとそう聞いてきた。


「ええ、無事です。

 ただ取り逃がしました」

 美緖はそう答えながら遅ればせながら刀を鞘に収めた。


 それを見た美紅もようやく諦めたのか、刀を収めた。


「取り逃がしたって……、撃退しただけでも凄いじゃないの?」

 笙音は美緖の言い草に驚いていた。


「まあ、そうね。

 私達、全滅し掛かったしね」

 初音も笙音に同意した。


「え、まあ……」

 美緖は初音達に言われて初めて気が付いた。


 これはこれで十分すぎる成果だと。


「まあ、何にしてもあなた達が無事で良かったわ。

 それと、助けに来てくれて、ありがとう」

 初音は美緖達に礼を言った。


 隣で笙音も頭を下げていた。


「いえ、とんでもありません」

 頭を下げられた美緖達はすっかり恐縮してしまった。


「117Hより117Aへ。

 TK34の撤退が確認された後、直ちに帰投せよ」

 微妙な空気が流れる中、撤退命令が下された。


「117A、了解。

 直ちに帰投する」

 美緖がそう答えると、6人はこの場を去っていった。

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