その2
翌日、昨夜に開催を急に知らされたブリーフィングが行われた。
ブリーフィングには旅団司令部と特戦隊中隊の士官、A小隊の各リーダー達が集められた。
そこで、参謀達から現状の説明を受け、9~12区への地下探索を終了する事を通達された。
更に、これらの地区でのパトロールも行わない方針が示された。
それらの地区ではすでに妖人の脅威はほとんどないと言う判断だった。
その代わり、他の地区の特戦隊員達が行う地下探索やパトロールを強化する方針が伝えられた。
そして、妖人の地下拠点があるのは3区が一番怪しいとして、重点的に調査するように指示された。
会議に出席して話を聞いていた美緖はこの決定に美希が猛烈に反発する事が容易に想像できた。
また、自分がそれを宥めるという展開まではっきりと想像できていた。
そんな事を考えながら、美緖は会議が終わると、3人の元へと帰って行った。
今日は非番だったので自室で待機していた3人は会議の内容を美緖から聞いた。
「やっと動いたのですか……」
美希は開口一番溜息交じりにそう言った。
美緖は美希の反応が予想していたものと違っていたのでちょっとびっくりしていた。
「まあ、でも、兵力を東側にシフトするというのは意外と難しい判断だったと思いますので、その点では旅団司令部もやるもんだなと思うのです」
美希はちょっと偉そうだった。
戦略の話になると美紅はともかく、美佳までも口が少なくなる。
全体を俯瞰してみる事は中々難しいからだ。
その点、美希は全体を見渡す能力を持っている。
ただ、司令部を捕まえてやるもんだとは流石に言い過ぎだと美緖は呆れていた。
とは言え、内容を冷静に聞いていたので安心していた。
「ただ、どうして3区の地下に妖人の拠点があると結論を出しているのですか?
勘違いも甚だしいのです」
美希は冷静な表情のまま罵声を口に出そうとしていた。
「でも、ないかもしれないけど、調べなくてはならない事よね」
美緖は美希にそう言った。
あまりにも素直な口調で当たり前すぎる指摘だったので、美希は美緖の顔を見て、目をパチクリさせた。
罵声の言葉で続けようとしていた事がどこかに吹き飛んでしまったようだった。
「確かにその通りなのです」
美希は一呼吸置いてからいつもの冷静な口調でそう言った。
美緖の指摘に感心していた。
そんな美希の態度に他の3人はホッとしようとした時、
「でも、なのです」
と美希が言葉を発したので、3人は再び緊張した。
「3区には妖人の拠点など、存在しないのです。
でも、確かに調査する必要性はあると思うのです」
美希の続けた言葉は罵声ではなく、もの凄く冷静なものだった。
しかし、どこかもどかし気だった。
ただ、それを聞いた3人はホッとしたのだった。