その1
「全くの無駄な作業なのです」
美希はずっと同じ言葉を繰り返していた。
そして、憤懣やるかたないと言った感じだった。
「仕方がないでしょ、妖人の拠点はないかもしれないけど、確認は必要なんだから」
美緖はそう言ったが、そんな美希を理解できない訳ではなかった。
拠点制圧から1ヶ月が経っており、その間、特戦隊員達が交代で地下探索を行っていた。
だが、成果は全くないと言っていいほどだった。
妖人の出現が全くなくなったという訳ではなかった。
現在は、地下ではなく、町中で少数の妖人が出現し続けていた。
「でも、見当違いの事をしているのです」
美希はまだ不満だった。
「でも、外の暑い中の任務も大変なのだ。
ここは少し涼しいので楽なのだ」
美紅はお気楽そうにそう言った。
本人には自覚はないが、元々脳天気な性格だった。
「あ、でもぉ、ここ何だか臭いですからぁ、それは嫌ですねぇ」
美佳も美紅に感化されたのかお気楽にそう言った。
まあ、有り体に言えば、美佳も脳天気の部類に入るだろう。
「そうなのだ。
確かに臭いのは嫌なのだ」
美紅は鼻をつまんでそう答えた。
そんな3人を眺めながら、美緖はどうしてこの小隊は颯爽感に縁がないのだろうと嘆いた。
「2108大隊Hより旅団Hへ。
8区北部で妖人を確認。
数はランクCが2体。
至急、特戦隊の派遣を乞う」
微睡んだ空気の中、急報が入ったので、美緖達も緊張せざるを得なかった。
「旅団H、了解。
直ちに101中隊を派遣する。
それまで住民の安全確保・避難誘導に当たれ」
「2108大隊H、了解」
通信はすぐに終わったが、2体という少ない数の妖人の出現でも緊急事態に代わりが無かった。
「この所ぉ、頻繁に町中に出ますねぇ」
美佳はいつもの口調だったが、表情はちゃんと真剣だった。
「そうね、数こそ少ないけど、2,3日に1回は出現しているって感じよね」
美緖は深刻そうにそう言った。
「出現しているのは我々が地下探索している西側の9~12区ではないのです。
いい加減に気付きやがれなのです、この惚け茄子がなのです」
美希は周辺を調べながら悪態をついていた。
悪態をつきながらも真面目に仕事をする所が美希らしかった。
美緖は美希の悪態はさておいて、言った事に関心を向けた。
今が8区で、前が23区、その前が7区……、この1ヶ月の出現地区を思い出していたが、確かに9~12区では一度もなかった。
「言われてみれば、美希の言う通りね」
美緖は感心したようにそう言った。
「考えるまでもないのです。
妖人の拠点はもっと東にあるのです」
それ以外の3人が美希の話に注目して手が止まっているのにも拘わらず、美希は相変わらず作業を続けていた。
「東ってどこ?」
美緖はそう質問した。
美佳と美紅もその事に関心があるように美希を見詰めていた。
美希はすぐには答えなかった。
ただ3人の注目が集まっているのを感じていたので、
「それがまだ分からないのです」
と小声でそう答えた。
美希の意外な言葉に他の3人はずっこけそうになった。
「出現パターンが大きく変わったので、難しくなったのです」
美希は手を止めて、3人の方を向いて訳を説明した。
言い訳をしているようで嫌だったが、説明する義務はあると思っていた。
「パターンが変わった?
どういう事?」
と美緖は美希に質問しようとしたが、
「あ、いや、確かに変わったね、以前に戻ったと言った感じよね」
と答えを待つまでもなく、明らかにそうだと思った。
「そうなのです、以前に戻ったと言った感じなのです」
美希は美緖の言葉に同意した。
「それってぇ、妖人側の状況がぁ、変わったと言う事ですかねぇ?」
美佳が首を傾げながら議論に参加してきた。
「恐らくそうなのです。
戦略が変わったのか、指揮する者が変わったのか、その辺はよく分からないのですが、とにかく変わったのです」
美希がそう断言した。
「つまり、TK34からTK21へ指揮権が移ったって事?」
美緖は驚愕の表情を浮かべた。
「それは大変なのだ!」
それまで沈黙していた美紅が驚愕の声を上げた。
今までの議論はよく分からなかったが、具体的な妖人が上がってようやく反応できたと言った所だった。
「そう断定するのはまだ早いのです。
現地点で言える事は妖人の拠点はもっと東側にあると言う事なのです。
そして、それを見付けないと被害は拡大するばかりなのです」
美希はそう結論づけた。
そして、その結論に他の3人も頷いた。