その2
「旅団Hより調査団各位へ。
3区で多数の妖人を確認。
調査を直ちに中止し、撤収されたし。
117中隊は撤収完了次第、3区へ向かわれたし」
旅団本部から突然の命令が下された。
それを聞いた美緖達はお互いに顔を見合わせた。
そして、今まで落ち込んでいた表情から引き締まった緊張感に満ちた表情に変わった。、
「全員、撤収だ!
機材はそのまま置いていけ!
駆け足!
我々が撤収しないと117中隊が援軍に迎えないぞ!
急げ!」
小森大佐は命令が下ると当時に、大声で指示を出した。
最初戸惑っていた調査団だったが、小森大佐に急かされている内に状況が飲み込めたらしく、機材をほっぽり出して、次々と走り出した。
「ほら急げ!
急ぐんだ!」
十分急いでいる調査団に向かって、小森大佐は尚も急かしていた。
事態の深刻さを感じているせいだろう。
美緖達4人は調査団の護衛の任務があるので、目の前を走り抜けていく調査団を見ながらその場に留まっていた。
「117Hより117Aへ。
そっちの状況はどう?」
和香が美緖に状況を確認してきた。
「こちら117A。
ええっと……」
美緖が状況を伝えようとした時、
「君らで最後か?」
と小森大佐がサブリーダーらしき3人に聞いた。
「はい、駅構内を全て確認しましたが、我々で最後です」
3人の内の一人がそう答えた。
「よろしい。
では、我々も撤収するぞ!」
小森大佐はそう言うと3人と共に駆け出した。
そして、
「撤収後、頼むぞ」
と美緖の前を通り過ぎる時にそう言った。
「はい、分かりました」
美緖はそう答えたが、4人はもうかなり先の方まで走っていた後だった。
小森大佐は初老の域に達している筈だが、比較的若い3人のサブリーダーと比べても足の速さは遜色が無かった。
それどころか、先頭を切って走っていた。
それを少し呆れたような気持ちで美緖は眺めていた。
「117A、どうしたの?」
待ってても返答が無いので、和香が聞いてきた。
「あ、はい、調査団は間もなく撤収する見込みです。
その後、我々も撤収します」
美緖は我に返ってそう答えた。
「117H、了解。
何だか早いわね。
まあ、いいわ、撤収次第、3区に向かいます」
和香は5分と経たずにプラットホームから調査団がいなくなったのを聞いて驚いていた。
「117A、了解」
美緖はそう答えると、他の3人と共に出口へと歩き出した。