その1
美緖達は翌日には制圧した拠点の調査の護衛に駆り出される事となった。
慌ただしい事だが、妖人との戦闘の可能性が少なくない事から特戦隊員が出向く他なかった。
今回は、旅団参謀長である小森大佐が指揮を執り、東京117中隊と11区担当の東京3111大隊第1中隊が中心となり、調査団を護衛する形になっていた。
美緖達は一番乗りしてプラットホームに入った。
無論、妖人がいないか確認する為である。
拉致された人達が全員救出され、人が誰もいなくなっていたが、陰惨さが無くなった訳ではなかった。
最初に入った時は、真っ暗で暗視スコープを通して見たものだったが、今は明かりで辺りが照らし出されていた。
それによって、陰影がよりはっきりとした為に却って陰惨さが際立っているように感じられた。
そんな中、美緖達は黙々と妖人の探索にあたった。
いつも元気な美紅でさえも、他の3人同様に押し黙っていた。
4人は昨日からのショックから立ち直ってはいなかった。
「117Aより調査団Hへ。
駅構内に妖人の姿なし」
美緖は探索終了を調査団本部へ伝えた。
「調査団H、了解。
これより、順次調査団を向かわせる。
変化があれば、知らされたし」
調査団本部からはそう返信があった。
「117A、了解」
美緖がそう言うと、通信が終わり、再び沈黙の時が流れた。
結構長い沈黙の後、トンネルの中をこちらに向かってくる一団があった。
先頭を切ってやってきたのは団長である小森大佐だった。
「大佐殿……」
思わぬ人物が先頭にいたので美緖はびっくりした。
そして、慌てて敬礼をした。
他の3人も美緖に続いて慌てて敬礼をした。
ただ、美希は表情には出さなかったが、天敵が来たと思っていた。
天敵と言っても、嫌悪している訳では無く、自分の説を悉く否定するので、乗り越えなくてはならない壁と言った感じの方が表現的には正しかった。
また、文句を言いながら自分の説をちゃんと検討してくれる点はある意味尊敬していた。
だが、本人を目の前にするとやはり天敵という認識が強くなるようだった。
小森大佐は4人の前で立ち止まると、答礼した。
そして、4人の後ろのプラットホームに目をやった。
「映像で見たり、話を聞いた以上に酷い有様だな」
小森大佐は溜息交じりにそう言った。
そして、
「まあ、この有様を見たらお前さん達が元気が無いのも分かるな」
と4人に視線を戻して言った。
妖人の拠点の位置を巡っての意見の対立があった。
結局、小森大佐以下参謀達が折れて、美希の意見を渋々認めていた。
だが、大佐達は内心見つからないと思っていた。
しかしながら、それに反して美緖達は見付けてしまった。
よって、さぞかし美希は鼻高々だと思っていたが、シュンとしていた。
こんな光景を目の当たりにして、シュンとしている4人を見て、流石に小森大佐は気の毒に思い、それ以上は自分から声を掛けなかった。
「それでは、予定通りに作業を開始してくれ」
小森大佐は後ろに控えていた調査団にそう言うと、調査団は一斉に動き出した。
「大佐殿はどうしてここに?」
散っていく調査団員達を見ながら美緖が聞いた。
「どうしてって、わし、団長だからな。
戦闘指揮と違って、調査の場合は団長が先頭に立つものなのだよ」
小森大佐は淡々とそう答えた。
そして、
「まあ、それより、お前さん達は引き続き、周辺の警戒を頼む。
尤も、空になったこの拠点を取り返しに妖人が現れるとは思えないがな」
と言い残すと、調査団の方へと歩いて行った。
それを戸惑った表情で見送りながら4人は警戒の任務に就いた。




