その3
拉致された人達の移送が始まったのは深夜になってからだった。
悦子の言ったとおり、これは徹夜になる事はほぼ明らかだった。
妖人に対しての警戒中だったが、これまで妖人の出現はなかった。
その点では、美緖達は安心して良かった。
拉致された人達が目の前を通過するようになると、いつの間にか、美緖達4人は小さく固まるように寄り添っていた。
お互いに手を握り合い、無言でその光景を見て、じっと耐える他なかった。
運ばれてくる人達は誰もが痩せこけており、目が虚ろだった。
そんな中、身を覚えのある女性を見付けた。
最初は誰だか分からなかったが、向こうから来る女性に確かに見覚えがあった。
そして、目の前を通過する時に、ようやく誰だか分かった。
誰だか分からなかったのはあまりにも容姿が変わっていたせいもあった。
その女性は美緖達4人の初陣の際に指揮車に乗っていた通信士だった。
初めて会った時に、その勝ち気さと美貌が滲み出るような女性だった。
それに加え、美緖達を明らかに蔑んでいた。
名前は……、よく考えたらこの女性の名前を美緖達4人は知らなかった。
初陣の際は、互いの自己紹介もする間もなく、指揮車両に詰め込まれて、戦場へと送り出されていた。
そして、最悪の初陣になった。
その事を思い出すと、今でも腹立たしく、暗澹たる思いに駆られ、一種のトラウマになっていた。
しかし、幾ら嫌な思いをさせられたとは言え、知っている人がこうも酷い仕打ちをされていたかと思うと、同情せざるを得なかった。
そして、また、助けられなかった罪悪感がこみ上げてきた。
そんな女性を見えなくなっても美緖達4人は見送っていた。




