その5
TK334を追っていた美緖達は何の障害もなく拠点と思われる終着駅に達した。
ただ、物理的な障害はなかったが、旧地下鉄空間に入った時の臭いが駅に近付く事により、一段と強くなっていた。
美緖達は走るのを止めて、ゆっくり慎重に駅のプラットホームへ近付いた。
敵の襲撃に備えながらプラットホームの下に辿り着いたが、敵が襲ってくる気配はなかった。
ホームは相対式になっており、美緖は左側のホームによじ登った。
それに、他の3人も続いた。
ホーム上では、微かな多くの呻き声と鈍いが無数に動く物体が存在した。
それに気が付いた美緖以外の3人は戦闘態勢を取った。
「待って!」
美緖はそう言って、3人の動きを止めた。
そして、
「暗視スコープを外して」
と3人に指示すると同時に自分はさっさと暗視スコープを外した。
次に、美緖はライトを取り出すと、暗視スコープを外そうとしない3人に行動を促した。
ライトを取り出した美緖を見た3人は渋々暗視スコープを外した。
すると、すぐに美緖はライトを点けて、辺りを照らし始めた。
照らし出された風景はぞっとするものだった。
ライトで照らされて眩しく、それを手で遮っている痩せ越えた人間が多数いたのだった。
それを見た他の3人も慌ててライトを取り出して、他の場所をそれぞれ照らし始めた。
照らし出された先々には何人いるか分からないほど、多くの人間がいた。
また、ライトに反応せずに動かない人間も幾人もいる事もすぐに確認できた。
「117Aより連隊Hへ。
妖人拠点にて要救助者を多数発見。
ただし、追っていたTK334とその他の妖人の姿は見えず」
美緖は現状報告をした。
「連隊Hより117Aへ。
要救助者の数は分かるか?」
「こちら117A。
正確な数は不明、100名以上はいると思われる。
いずれも衰弱が激しく、至急救援を求む」
「連隊H、了解。
可能な限り、迅速に救援隊を差し向ける。
117Aは現地にて妖人の警戒に当たれ」
「117A、了解」
美緖はそう言って通信を終了したが、目の前の光景を見て為す術がないのは明らかだった。
妖人の拠点の一つを潰せた事は喜ばしい事だが、それを全く喜べない状況の中、美緖達4人は立ちすくむ他なかった。