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その4

 翌日は朝から慌ただしかった。


 美緖達の探索結果を受けて、南東京旅団所属の特戦隊部隊が全て集められた。


 また臨時連隊を編制する運びになったからだ。


 無論、この臨時連隊は妖人の拠点に対してのものである。


 連隊長には風間中佐、副連隊隊長には峰岸少佐が再び就任した。


 現地近くの地上でブリーフィングが行われ、終了と共に早速作戦が開始された。


 まず、見つけた通路にドローンを入れて、妖人が通路を使っていない事を確認した。


 確認後、先鋒である117A小隊が一気に滑り降りて内部への進入を果たした。


 その際、ロープを通路に敷設しており、撤退の時は引き上げて貰う手筈を整えた。


 通路を通り抜けて、広い空間に出ると、美緖達はすぐに刀を抜いて、周囲の警戒に当たった。


 並の人間より遙かに夜目が利く美緖達だったが、ほぼ完全に暗闇だったので暗視スコープを使っていた。


 美希の予想通り、そこは旧地下鉄が通っていた場所だった。


 床には線路があり、半世紀以上放置されていたとは言え、一見見た所、大きな損傷はないように見受けられた。


 妖人はインフラには対してはほとんど破壊行為をしていなかったが、地下施設で人的被害が多大だった。


 施設を破壊することはないのは地上と同じだったが、妖人が移動通路として活用していたので地下は常に危険だった。


 その影響もあって、地下鉄は安全が確保できないと言うことで、全国各地で運用を止め、駅の出入り口もコンクリートで厳重に封印されていた。


 美緖達が降りた地下鉄の線路付近にはドローンが送ってきたとおりに、妖人の姿がなかったが、その先に続く空間には妖人がたくさんいる気配を感じていた。


「117Aより連隊Hへ。

 橋頭堡位置を確保。

 周囲に敵影なし」

 美緖は連隊司令部へ連絡した。


「連隊H、了解。

 第2陣を突入させる」

 連隊司令部からそう返信があった。


 そして、しばらくすると109A小隊が通路から滑り出てきた。


「お待たせ」

 春菜は立ち上がりながらニッコリと笑った。


「117Aより連隊Hへ。

 109A小隊が到着。

 117Aは当初の予定通り、終着駅方向へ向かう」

 美緖は109A小隊の4名を確認すると、すぐに司令部へ連絡した。


「連隊H、了解。

 117Aは十分注意するように。

 続いて、第3陣を突入させる」

 司令部からはそう返信があった。


 第3陣は104A小隊であり、予備兵力として101A小隊は地上待機していた。


「では、お先に」

 美緖は春菜達に一礼すると、他の3人と共に暗闇の中へ入っていった。


 美緖達4人は慎重に歩みを進めていった。


 この空間に入った途端、嫌な予感がしていたが、進めば進むほどその予感が強くなっていった。


 100メートルも進まないうちに、全員がうっと顔をしかめる臭いがしてきた。


 地下空間は埃っぽくカビ臭いが常にしていたが、それとは異質な臭いだった。


 美緖達4人は歩みを止めて、臭いの原因を確認するかのように、一斉にお互いの顔を見合わせた。


 そして、全員が同じ事を感じているとすぐに分かった。


 と同時に、暗闇の中からこちらに向かってくる気配を感じた。


「行っくのだ!」

 美紅がそう叫んで突っ込もうとしたのを美希が両腕でガッシリと掴んで止めた。


「待つのです。

 数が多いので、固まって戦うのです」

 美希はいつもの冷静な口調で美紅をそう諭した。


「117Aより連隊Hへ。

 妖人と遭遇、総数は不明。

 ただし、多数の為、この先の駅が拠点だと思われる。

 また、我が隊はこれより戦闘状態に入る」

 美緖は戦闘に入る前に連隊司令部へそう報告した。


「連隊H、了解。

 直ちに、104A、109Aを増援に向かわせる」

 司令部からそう返信があったが、美緖達はすでに戦闘に突入していた。


 暗闇の中の戦闘は数の上では美緖達は圧倒的に不利だったが、戦況はそれほど不利ではなかった。


 いつもの地下スペースとは違い、ここは十分な戦闘スペースがあったからだ。


 鈍い金属音が幾度も鳴る中、戦いは乱戦模様になっていった。


 美緖達は同時に複数の妖人を相手にしながら、纏まって戦い、陣形に隙を作らなかった。


 周りに妖人は数多くいたが、局面局面では必ず1対1の状況を保っていた。


 逸る気持ちでウズウズいていた美紅を他の3人が代わる代わる抑えながら宥めながら戦っていた。


 そこに、104A小隊と109A小隊が駆け付けてきた。


 両隊は117A小隊の左右に分かれて、美緖達に殺到している妖人達を押し止めた。


 そのことにより、美緖達に殺到している妖人達の数が一気に減った。


「今度こそ、行っくのだ!」

 美紅はそう叫ぶと、目の前の妖人に体当たりして、跳ね飛ばした。


 そして、隙だらけになった所を刀で一撃で倒してしまった。


 それに続くかのように、他の3人も目の前の敵を一気に葬り去っていた。


 それにより、美緖達4人は一気に前進しようとした。


 しかし、薄くなった所を補うようにすぐに他の敵が殺到してきたため、戦況は再び膠着した。


 ただ、戦闘は両軍入り乱れての戦いという風にはならず、特戦隊員達は一糸乱れぬと言った感じで妖人達に圧力を加えていった。


 数では劣勢だが、状況は優勢になりつつある中、美緖は不安感とまでは行かないが何やら違和感を感じていた。


 いつもの心配性が出てきたと言えば、それまでの事なのだが。


 中央に美緖隊、左翼に春菜隊、右翼に初音隊と言った感じの布陣は中々の強力な布陣となっていた。


 殺到する妖人達に対して、十分対抗できるだけの戦力を有していた。

 

 そして、守勢ではなく、攻勢に出るべく、再び対峙していたそれぞれの妖人達を美緖達4人がほぼ同時に倒していた。


「美紅、前に出ないで!」

 美緖は美紅の行動を予め予想していたかのように、注意した。


 美紅は目の前の敵を倒したので、一気に前に出ようと考えていた。

 

 だが、まだ行動を起こしていない段階で注意を受けたので、もの凄く不満そうな顔をした。


「どうしてなのだ?今がチャンスなのだ!」

 美紅は不満をそのままぶつけるかのように言ってきた。


「数は多いですけどぉ、このまま行けばぁ、分断できるのではぁ?」

 美緖の隣にいた美佳も美紅と同じ意見だった。


「拠点近くなのに、高位ランクが見当たらない。

 TK34が出てきたら各個撃破されるかも知れない」

 美緖はようやく自分の違和感が分かったように、口に出した。


「うっ!!」

 美紅はTK34が出てきた時やTK334を一人で押しつけられた時の事を思い出して、絶句し、前に出るのを止めた。


「確かにそうね。

 各隊、無理な突出を避け、このまま陣形を維持。

 このままの体勢のまま押し切るぞ」

 美緖達から少し離れている初音が美緖達の会話を聞いてそう指示を出した。


 現在の現場指揮官は先任である初音だった。


「了解」

 現場指揮官の指示が下った以上、この場にいる特戦隊員達はその指示に従った。


 ただ、美緖隊が前に出なかったので、妖人達は陣形を立て直すのに成功した。


 そして、再び戦闘は膠着状態へと陥った。


 しばらく膠着状態が続いた後、再び美緖達が優勢になっていった。


 前も数で劣っていたが、優勢に戦闘をしていた。


 その時より妖人の数が減っているので再び美緖達が優勢になるのは自明の事だった。


 美紅が目の前の妖人を倒すのを切っ掛けに、ドミノ倒しのように他の特戦隊員達も妖人を倒していった。


「強いのが現れたのだ」

 美紅は妖人を切って捨てた刀を構え直しながらそう言った。


 妖人群から少し離れた所に1体の妖人が立っていた。


 やはり、一番早く気が付いたのは美紅だった。


「TK34?」

 美緖はそう聞いた。


「そっちじゃなくて、弱い方なのだ」

 美紅は確認が取れていない段階でそう断言した。


 他の特戦隊員達は皆ほとんど妖人の区別が付かないのだが、美紅には高位ランクの場合は何故か区別が付くようだった。


 ただ、今回は珍しく美紅は飛び出す事はしなかった。


 美緖だけではなく、初音にも言われていたからだろうか?


「こちらで確認が取れた。

 ヤツはTK334、ランクB」

 美緖達特戦隊員の後ろからそう声が聞こえた。


 美緖は何でそこにいるのかとびっくりして振り返って確認した。


 声の主は思ったとおり桜だった。


 桜隊は予備兵力として、先程まで待機していた。


 戦闘が膠着状態に陥っていたので、連隊司令部はこの好機を逃すまいとして桜隊を投入する事を決めていた。


 無論、大きな賭になるのだが、妖人の拠点を潰せる機会に賭けたのだった。


 この賭は十分リスクとリターンのバランスが取れているようだった。


「美緖隊はTK334への対処を。

 他の隊は引き続き周辺の妖人を制圧せよ!」

 桜は特戦隊員達にそう指示を出した。


 桜隊が戦線に加わった事で先任である桜が現場指揮官となった。


 美緖はその指示を聞いて、また貧乏くじを引かされたと感じた。


 しかし、美紅は桜の指示が終わる前に単独で飛び出していた。


 いつもの通り、何も考えていないようだった。


 美紅はTK334に単独で斬り掛かっていった。


 残された美緖達3人は何でこの妖人の密集地帯を簡単に抜けられるのよと言った感じで、前を行くのに妖人に阻まれていた。


 美紅の方は一撃を加えたが、防がれて反撃にあった。


 どう見ても1対1では不利だった。


「何で、みんな付いて来ていないのだ?」

 美紅はTK334の猛攻を受けながらそう言った。


 一人で戦っている状況が不思議で堪らないと言った感じだった。


「美紅、あんたねえ!」

「考えなしに突っ込むとそうなるのです。

 少しは頭を使うのです、このとんちんかん」

「美紅ちゃん、それはダメですよぉ。

 いきなり一人で行ってもねぇ」

 残された美緖達3人は目の前の妖人と戦いながら口々に美紅に文句を言った。


「え?え?」

 美紅は何で3人に文句を言われているのか理解ができなかった。


 ただ、今の最優先事項はTK334の猛攻を防ぐ事だったので、とにかく攻撃を凌いでいた。


「何でいつもこうなるかな……」

 美緖は溜息交じりに刀を振るいながら妖人と戦っていた。


「それはあのすっとこどっこいのせいなのです」

 美希は美緖の嘆きに対して毒舌が炸裂した。


「まぁ、これが私達の持ち味なのではぁ?」

 美佳は美佳でどこか他人事のようだった。


 美緖はそんな状況の中憤慨やるかたないと言った感じで今にも爆発しそうだった。


 たが、そこに救いの手が洗われた。


 桜隊が美緖達の左右から妖人を抑えてくれたのだった。


「今よ!」

 桜がそう言うと、美緖達の前に道が開けた。


「ありがとうございます」

 美緖はそう言うと美佳と美希と共に美紅救出へ向かった。


 この時桜に礼を言ったのだが、こうなる原因を作った主要因は桜だったのではないかと後から思った。


 それはともかく、美緖はそのまま直進して美紅の加勢に、美佳は左から美希は右から回り込もうとしていた。


 4対1なら勝てると美緖達の誰もが思った。


 しかし、TK334は3人の加勢が加わる事が分かると、美紅を突き飛ばすと、一目散に逃げ出した。


 いつもながらこういう時の高ランクの妖人の判断は素早すぎた。


 突き飛ばされた美紅を美緖が受け止めると、後ろを振り返った。


「追います!」

 美緖は桜に向かってそう叫んだ。


「了解。

 ここは私達に任せて!」

 桜は美緖に了承のサインを送った。


 美緖は頷くと前を向いた。


 そして、

「みんな、行くわよ!」

と言った。


「分かったのだ!」

 美紅はそう言って一番に駆け出そうとした。


 しかし、

「あんたは後ろ!」

と美緖は美紅の肩を掴んで自分の後ろに着かせて走り出した。


「そうなんですよぉ、美紅ちゃん、後ろなんですよぉ」

 美佳はそう言うと自分は美緖の後ろに割り込んだ。


「もういい加減に反省するのです。

 後ろでこれまでの行いを悔いるのです」

 美希は美佳の後ろに割り込んで、美紅を最後尾に着かせた。


「何でなのだ?」

 美紅は自分に対する仕打ちに納得がいかなかった。


 だが、美紅がそう言った途端に3人が一斉に後ろを向いて睨み付けてきたので、不満ながらもその指示に従った。

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