その3
中隊の全隊員の食事と食休憩が終わってから怪しい場所の探索に取り掛かった。
全隊員の食事と食休憩の間も代わる代わる各分隊が天井部分を監視続けていた。
だが、特に変わった事が起こらなかった。
全隊員が食事を終えると、美緖達4人が地下空間に入り、それに伴い、他の隊員達は全員地上に出た。
一般隊員がいなくなるのを合図に、美緖はひび割れの近くに梯子を立てて、それを登った。
美緖は梯子の上で一旦態勢を整えると、コンクリートのひび割れ部分の中央に慎重に手を伸ばした。
コンクリートに触れた途端、天井が動く感覚があった。
そして、コンクリートの重量は感じられるものの、その向こうが空洞である事がすぐに分かった。
美緖はゆっくりとその部分を押し上げていき、ずらして空洞の中に置いた。
すると、妖人が通り抜けられるほどの穴が出現した。
「やっぱりなのです」
美希はちょっと勝ち誇ったようにそう言った。
ただ、朝の前のめりの美希ではなく、いつもの冷静さが戻った美希だった。
「117Aより117Hへ。
例の場所に妖人の通路らしき穴を発見」
美緖は穴を見詰めながらそう報告した。
「117H、了解。
中の様子はどう?」
和香からそう返信があった。
「よいしょ」
美緖は梯子から穴へと飛び移ると、上半身を穴の中に入れた。
中は暗く、美緖は目を凝らした。
目が慣れてくると、穴の手前は水平になっているが、奥は徐々に下っていて、更に地下深くに続いている様子が分かった。
ただ、暗闇の中はどこまで続いているか検討は着かなかった。
「こちら、117A。
穴の大きさは前発見した物と同じくらいで、妖人が匍匐前進できる程度の大きさ。
中の様子は確認できる範囲では地下の更に深い所へ続いている感じです。
下り坂が続いていますが、その先は暗くて確認できません」
美緖は暗闇を見詰めながらそう報告した。
「恐らく旧地下鉄に続いていると思うのです」
美希は言い方は独り言のようだったが、確信したように言った。
「成る程ね……」
和香はそう言ってから、ごそごそと自分の端末をいじってから、
「確認したわ、方向からほぼ間違いがないと思われる」
と返信した。
「中隊長殿、どうしますか?
偵察しますか?」
美緖は穴の入り口でぶら下がったままそう聞いた。
「いえ、偵察はしないで。
妖人と穴の中で遭遇したら危険だし。
元に戻して、その場で待機。
旅団司令部に確認を取ります」
和香はそう言うと、通信を終了した。
美緖は梯子を下で美佳に抑えててもらい、穴から梯子に飛び移った。
そして、蓋となっているコンクリートの破片を元に戻すと、梯子を下りた。
ただ、その日はこれ以上の探索をする事なく、旅団司令部からの命令で撤収の運びとなった。




