その5
美緖は再び戦術分析ルームの前にいた。
そこにまた別々の方向から初音と春菜がやってきた。
「また、こんな所にいるのね」
初音が声を掛けてきた。
「ええ、そうです」
美緖は初音に和やかに答えた。
「あ、でも、今日は随分と落ち着いたというか、いつもどおりというか、そんな感じね」
春菜は美緖の表情を見てそう言った。
「ええ、もう慣れましたから」
美緖はまた和やかに答えた。
「というより、悟った?
何かそんな感じね」
初音は美緖の顔をまじまじと見ながらそう言った。
「そうかも知れませんね。
もうあの娘達の行動に一々驚いていたら身が持ちませんから」
美緖は今度は何か決意したような口調で言った。
自然に構えてればいいものの、この辺が苦労性とか心配性とか言われる所以なんだろう。
初音と春菜はそんな美緖を見て、顔を見合わせて苦笑いする他なかった。
「完璧なのです」
いきなり部屋から出てきた美希がそう叫んだ。
何事?といった感じで初音と春菜は美希を見た。
ただ、美緖は冷たい視線を美希に送った。
「8日前も4日前もそう言って、ほとんど外しているじゃないの!」
美緖は今までの結果を美希に突き付けた。
そんな美緖を見て、初音と春菜はそんな身も蓋もないと言った感じで美希に同情して、また苦笑いした。
「いいえ、今日は当てたのです。
これで、奴らのアジトが判明したのです」
美希は美緖に反論したと共に、とんでもない事をあっさりと言ってのけた。
初音と春菜は美希が言った事に今度は非常に驚いていた。
と同時に、重要な情報だと察した。
「はいはい、そうなんですか」
ただ美緖の方は美希の意見をまともに取り合わない様子だった。
「美緖、あなたは事の重要性を分かっていないのです。
上申書を書いて、旅団司令部に送りつけるのです」
美希は珍しく声を荒げて、美緖に訴え掛けた。
美緖はそれを聞いて何も答えずに深い深い溜息をついた。
「なんなんです、美緖。
これは最重要事項なのです」
美希は煮え切らない態度の美緖に詰め寄った。
美緖が溜息をついたのには理由があった。
過去2回、その上申書の提出を手伝ったが、説明するのは美緖の役割だった。
極端な人見知りの美希が司令部首脳の前で説明できる訳ではなかった。
しかも、2回とも予想を外していたので3回目となるとかなり気が重かった。
とは言え、3回目の正直という言葉もあるので、無下にする訳にも行かなかった。
「美緖、分かっているのですか!」
美希は反応のない美緖を尚も責め立てた。
そんな様子を初音と春菜は心配するような同情するような微妙な眼差しで見ていた。
美緖は美緖で美希に責っ付かれていたので根負けしてしまった。
「分かったから、まずは検診を受けましょうね」
美緖は美希をあやすように言ってから、美希の腕をぐっと掴んだ。
そして、
「それでは、お姉様方、これにて失礼させて頂きます」
と一礼をすると、美希を引きずるように診察室へと向かった。
「相変わらず凄いよね」
初音は2人の様子を見送りながらそう言った。
「ええ、凄いですね。
後の2人も曲者ですしね」
春菜は初音の言葉に頷きながら更に付け加えた。
「そうね、あれほどのメンバーで隊がバラバラにならないって、本当に凄いよね」
初音は春菜の言葉を受けて感心していた。
「はい、全くです」
春菜もとても感心していた。
「そう言えば、訓練学校の古株の教官が言っていたのよ。
これほど、バランスが悪い隊は初めてってね」
初音は笑いながらそう言った。
「でも、その方、確か、これほど潜在能力の底が見えない隊も初めてだと仰っていましたよ」
春菜はニコニコしながらそう続けた。
「そうね、どうやらその予感が現実になりつつある課程のようね」
「そうですね」
初音と春菜は楽しみでならないと言った感じだった。