その1
3区本部奪還戦が終わってから1週間ほど過ぎていた。
一連の奪還戦では合計15体のランクCの妖人を倒す事ができたので、それなりの戦果が上がっていた。
ただ、日本に上陸したランクC以上の妖人は約1万とも言われているので、劇的に戦況が改善されたと言う事ではなかった。
更に悪い事に、一連の攻防戦で、こちらの被害が大きかった。
一般市民と軍人の死傷者と行方不明者は合わせて1000名以上。
戦果に対しての損害が大きかった。
また、女性達を拉致しているので妖人達も数を増やしていると予想ができた。
こうした事から、妖人達はあっさりと撤退したのかもしれない。
とは言え、平常に戻ったので、臨時連隊は解散し、美緖達は通常任務へと戻っていたのは幸いだった。
だが、3ヶ月毎の定期検診が急に前倒しになり、昨日は初音達と春菜達が検診を受けていた。
そして、本日、美緖達と桜達はいつもより半月早い定期検診を合同で受けていた。
美緖は何故か桜と一緒に検診を受ける事となっており、最後の組として待合室で2人並んで待っていた。
「そう言えば、大分遅れちゃったけど、3区奪還戦の時は美緖達に大分助けられたわよ、ありがとう」
桜は唐突にお礼を言った。
「はあ、そうなんですか……。
でも、私達、何かしましたか?」
美緖は唐突にお礼をされたので戸惑うと言うよりポカンとした顔をしていた。
「結構自覚がないものなのね」
桜は驚いた様な心配そうな顔をした。
「自覚とおっしゃっても、私達、結局、妖人を2体倒しただけですから……」
美緖は遠慮がちにそう言った。
「確かにそっちはあまり重要ではないわね」
「はあ……」
「ランクAとBを同時に相手して抑え込んだ事よ」
桜はいい加減呆れた様な顔をしていた。
「ああ、でも、あれはどちらかと言うと、撤退してくれたという感じですよ」
美緖は思い出しただけで冷や汗が出る様な気がした。
「でも、あなた達が粘ってくれたお陰で、私達以下、残りの3個小隊が他の妖人に専念できたのよ。
いずれもランクCだったけど、30体以上いたのだから、そこにTK34かTK334のどちらかが乱入してきたら戦線が崩壊していたわよ」
桜は美緖達の功績を丁寧に説明してくれた。
「そんなものなのですかねぇ……」
美緖はいまいちピンとこなかった。
その場にいなかったのでよく分からなかったからだ。
また、自分達の戦闘では何とか踏み止まっていたが、あのまま続けていたらやられていたという感覚を持っていた。
「そんなものよ!
誰も4人でランクAとBを同時に押さえ込めるとは思っていなかったのよ。
私達は来るならTK334の方がいいと思っていたぐらいなのだから」
桜は今度はニッコリしながらそう言った。
「はあ……」
美緖は何だか素直に同意できなかった。
「うーん、何か、コンプレックスになっているのかな?」
桜は遠くを見詰めながらそう言った。
美緖はそれに対しては何も答えなかった。
いや、答えたくは無かった。
「まあ、学校の成績なんて実戦に出たら関係ないわよ。
でも、まあ、それがあって、慎重になったお陰で、今まで無事に来れたのならそれはそれで良かったのではないかしら」
桜は再びニッコリしながらそう言った。
美緖はそれにも答えなかったが、そういう考えもありかなと思えた。
「それにあなた達の4つ上までの特戦隊員達は戦死したり、大怪我したりしているからね。
臆病なくらい慎重になってくれるのはいい事よね」
桜は寂しそうにそう言った。
美緖はそれを聞いてシュンとなってしまった。
そして、これまで無事に切り抜けられた事が奇跡だと感じた。
「あ、でも、それにしたって、桜お姉様達は私達に無茶振りしましたよね。
言っている事と逆じゃありません?」
美緖は抗議する様にそう言った。
「あ、バレた?」
桜はそう言うと誤魔化す様に笑った。
「バレますよ、もうバレバレですよ」
美緖は更に抗議した。
「まあ、勝算があっての事だから許してね。
他の隊だと、ああも上手くはいかないからね」
桜は真面目な表情に戻ってそう言った。
美緖は本当にそうなのか疑いの眼差しを桜に向けた。
「ああ、これは本当の話よ。
初陣で追い込まれながらAAのTK21を抑え込んで、それから何度も戦って抑え込んでいるのだから実績から言っても問題なかったはずよ」
桜は美緖にそう説明した。
「TK21はAAではなく、A+です」
美緖は疑う様な眼差しで桜にそう言い返した。
「細かい事は言わないの。
まあ、尤もそうじゃないと、117A小隊をああまで上手く指揮できないか……」
桜は感心した様な呆れたような口調でそう言った。
美緖は美緖で上手く指揮できているという意外な評価を受けて、目を白黒させていた。
「のんびり屋の美佳、理詰め屋の美希。
そして、ハチャメチャな美紅。
特に美紅は特戦隊員達の中でも東京随一、いや、全国でもトップクラスの戦闘能力でしょうね。
これらを上手く指揮できるのは心配性の美緖しかいないしね」
桜はうんうん頷きながら何故か得意気にそう言った。
「私の事、ディスってます?」
美緖はむくれてしまった。
「いやいや、褒めているのよ」
桜は慌ててそう言った。
「本当ですか?」
美緖は思いっ切り疑いの眼差しを桜に向けた。
「本当、本当」
桜は焦っていた。
美緖の方は完全に疑っていた。
「まあ、それはともかく……」
桜はそう言うと、咳払いをして真面目な表情になった。
そして、
「そろそろ学校の成績に対するコンプレックスは捨ててもいいんじゃないの。
これだけ個性豊かなメンバーですもの、コンビネーションを構築するのには時間が掛かったのよ。
そして、今、学校ではなく、実戦の場でそれが花開いたという事よ」
と上手くまとめに入った。
美緖は何か上手くまとめられた様で不満だった。
丸め込まれた気分になったからだ。
そして、更に煽てて面倒事を押しつけられるのではないかと考えていた。
「それにです。
学校に成績は関係ありません!
何よりそれを物語っているのは、首席で卒業した、明らかにド変態女医が跋扈しているからです!」
桜は急にそう力説した。
ド変態女医は洋子先生の事を指しているのは言うまでもなかった。
急に力説し出した桜に驚きながらも美緖は桜の言葉に大いに納得してしまった。




