その1
美緖達が妖人の援軍経路を一つ潰した事で、戦況に大きな変化をもたらした。
3区本部を占拠している妖人達の数の増加が停止したらしいと言う情報がもたらされたからだ。
その確認の為、春菜の109A小隊が威力偵察を行った。
こう言う場合はいつも一番下っ端の人間がこう言う事をやらされるのだが、特戦隊員達の間でもそれは同じように実行されるものだった。
朝夕の二度の威力偵察により、妖人の数は変わっていないという結論に達した。
そこで、翌日、連隊司令部は占拠している妖人に対して総攻撃を命じた。
幸か不幸か、美緖達はこの総攻撃には参加せずに、依然として妖人の援軍経路の探索に当たっていた。
しかし、援軍と思われる経路を発見したのはただの1箇所で、その見張りには117中隊から2個分隊が交代で監視の任務に当たっていた。
ただ妖人を見掛けたら一目散に逃げ出せるように準備万端整えていた。
「美緖ちゃん、あれから全然見つからないのだ」
美紅はぼやくように美緖に言った。
美紅と美緖はちょうどマンホールの下にいて、いざという時の脱出ルートを確保していた。
したがって、今、探索をしているのは美佳と美希だった。
また、地上のマンホールのそばには和香達が乗った指揮車が駐まっていた。
「そうね、でも、あれ一つ切りって事も考えられなくはないよね」
美緖は少し考えながらそう答えた。
「ふーん、そうなのだ」
美紅の方はただ単純にそう答えた。
美紅の様子を見た美緖は美紅の脳天気さに呆れてしまった。
まあ、これはいつもの事なので特に何か言おうとは思わないが、いつもながら力が抜けるようだった。
それはともかく、美緖は考えた。
地下空間が人類の営みによって複雑した事は確かだった。
そして、それを利用し、更に新たな通路を作る妖人は決して侮れる存在ではなかった。
ただ、3区本部を占拠する為に複雑な地下通路網の構築を行ったとは思えなかった。
もし、やっていたのならもっと本部にいる妖人の数は多くなくてはいけないと感じていた。
「連隊Hより117Hへ。
現行任務を切り上げ、本部奪還戦に参加せよ。
なお、現行任務である監視任務は2103大隊が引き継ぐ」
連隊司令部から美緖が予想していた命令が下された。
「117H、了解。
引き継ぎが終わり次第、3区本部へ向かう」
千香の返信がインカムを通じて聞こえた。
「117Hより117中隊各隊員へ。
連隊司令部の指示により、撤退の準備をせよ」
続いて千香から各隊員への命令が伝達された。
それを受けて、美佳と美希がマンホールの下にいる美緖と美紅の元へとゆっくりと近付いてきた。




