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その3

 特戦隊を有する中隊が入れ替わり立ち替わり投入されていたが、117中隊はずっと後方待機中だった。


「大役を任されたのはいいけれど、TK34が中々出てこないわね」

 指揮車の中で他の隊員と共に待機している和香がそう呟いた。


 時刻は17時を過ぎていたが、6月なので陽が落ちるまでまだ時間があった。


 他の3中隊は2回ずつ投入され、妖人の戦力を順調に削っていた。


 しかし、その日はTK34が出てくる事はなく、また、大隊本部へ突入できるほど妖人の数を減らす事ができなかったので、結局117中隊の出番はなかった。


 翌日、始まりは昨日と同様に117中隊以外が順次戦線に投入されていくという同じ事が繰り返された。


 117中隊は今回も朝から手持ち無沙汰だったが、昼には戦局を左右するような命令が下された。


 すなわち、117A小隊の大隊本部への突入である。


 命令が下ると、117中隊は全部隊で大隊本部へと向かった。


 命令が下されるだけあって、本部までの道のりで妖人に遭遇する事はなった。


 本部の建物の前に着くと、部隊を展開させて所定の位置に就かせた。


 それと同時に、117A小隊を敷地内へと突入させた。


 美紅を先頭にして、美緖達4人は門を通り過ぎると、一気に建物内へと侵入した。


「あれ?美緖ちゃん、あたし達騙されているかもしれないのだ?」

 美紅は建物内へ入ると、目の前の妖人を攻撃しようとはせずに入り口付近で急ブレーキを掛けたように立ち止まった。


 後続の3人はぶつかりそうになりながらも横に避けて、目の前の状況を確認して同じく入り口付近で立ち止まっていた。


「えっと……」

 美緖は引きつった表情で美紅にそう言ったが答えになっていなかった。


 117A小隊は対TK34用に投入されたとばかり思っていたが、妖人の数は1体を遙かに上回っていた。


 二桁はいた。


 TK34が1体だけでいるという事を想定していた訳ではなかった。


 複数の妖人がいること自体には驚きはしないが、それにしても数が多すぎた。


 連隊司令部はちゃんと確認したのだろうか?


「騙されたと言うより、数が増えただけなのです」

 美希はいつもの冷静な口調で目の前の状況をそう解説した。


「どうしましょうかぁ?」

 美佳は緊張感のないおっとりとした口調でそう言った。

 表情からは分からないが、とても困っていた。


 妖人達は妖人達で正面から突っ込んでくるとは思っていなかったらしく、予想外な出来事で動きが止まっており、美緖達を注視しているだけだった。


「取りあえず、逃げるのだ!」

 美紅はそう言うと、一目散に逃げ出した。


 その後を他の3人が追った。


 いつも突っ込んでいく美紅が一番先に逃げ出したので、事態はあまりよくない方に向かっていることは明らかだった。


「117Aより連隊Hへ。

 本部建物内に妖人を10体以上、確認。

 対応不可能な為、撤退する」

 美緖は逃げながら連隊本部にそう報告した。


「連隊H、了解」

 一旦、連隊本部の通信士からそう答えがあったが、

「連隊Hより、待機中の101,104中隊へ。

 直ちに大隊本部へ向かい、117中隊を援護せよ」

と風間中佐が自ら通信してきた。


 中佐にとっても想定外の出来事だったようだ。


 美緖達は建物から抜け出すと、追っ手を確認した。


 逃げる者を本能的に追い掛ける習性はやはりあるもので、3体の妖人が後を追い掛けて建物から出てきた。


 妖人が姿を現すと同時に、117中隊所属の支援小隊がそれぞれ妖人に向けて発砲を開始した。


 3体の妖人はそれによって足止めされた。


 美緖達は逃げるのを止めて、3体の妖人に備えるべく、向き直って刀を構えた。


 妖人達に銃弾が何十発も当たり、それぞれ忌々しそうな呻き声を上げた。


 しかし、美緖達の方へ向かってくるのではなく、波が引くようにすーっと建物内へと戻っていった。


 美緖達は肩透かしを食らった訳だが、追撃はせずに、ゆっくりと指揮車の方へと歩き出した。


「117Hより連隊Hへ。

 今のところ、妖人は本部建物から出てくる気配なし。

 建物の入り口付近には、照合の結果、コードTK334、ランクBの妖人と10体のランクCの妖人を確認。

 117中隊は本部よりやや距離を取って、これを監視する」

 千香の声で連隊本部へ報告する通信が入ってきた。


「連隊H、了解。

 動きがあり次第、報告せよ」

 連隊本部からそう答えがあった。


 連隊司令部としても思わぬ事だったので、情報収集と現状の把握を優先させた格好だった。


「一体どういう事なのだ?

 数を数え間違えたのかな?」

 美紅はいつになく真剣な表情をしていた。


「そんな事、ある訳ないのです。

 妖人の方に予想以上の援軍が来たのです」

 美希は呆れたような表情で美紅にそう言った。


 考えるまでもなく、美希が言った事が正しいと美緖と美佳は思った。


 そんなやり取りをしながら、美緖達は追撃されている訳ではないので、安全に指揮車に乗車した。

 

 そして、その後、117中隊は3区大隊本部の建物から少し離れた位置に移動した。


「でもぉ、このまま援軍の数が増え続けるとぉ、3区本部が妖人の拠点になりかねませんねぇ」

 待機している指揮車の中で美佳がいつものほあほあした口調でそう言った。


 口調があれだったが、とんでもない事を発言したので、指揮車の中に緊張が走った。


「中隊長殿……」

 麻衣がその場を代表するかのように、不安の声を上げた。


「分かっているわよ。

 でも、今は援軍に対応できる兵力配置ではないからこのままね。

 外に出ている妖人を殲滅次第、対応する事になるでしょう」

 和香はそう言った。


 遂行中の作戦は本部から妖人を引き出して、各個に撃破していくものだった。


 しかし、引き出している妖人以上に援軍が次々本部に到着している事が判明したので、作戦の変更を余儀なくされてしまった。


 現在は、3個中隊で本部を取り囲んで封じ込める作戦になっていた。


「後手後手を踏んでいるけど、挽回する為にもここは我慢する他ないようね」

 和香はそう付け加えた。

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