その1
3区での戦闘の翌日、旅団本部の会議室には美緖達特戦隊員のリーダーと各中隊長などが再び集められて、奪還作戦の会議が行われようとしていた。
部隊編成は特戦4個中隊と3区担当の大隊の残存部隊から成っていた。
「春菜お姉様、もう大丈夫なのですか?」
美緖は席に着く際に隣に座っている春菜にそう話し掛けた。
春菜は腕を吊っているとかそう様子はなく、普段通りだった。
「完全ではないけど、何とか大丈夫よ」
春菜は笑顔でそう答えた。
特戦隊員達は怪我の回復も早かった。
「それに、ランクAAの一撃を貰ってこの程度で済んだんだから儲けものよ」
春菜は右肩を回しながらそう答えた。
ただ、違和感があるのか、ちょっと気にしていた。
美緖はその光景を見て、力なく笑う他なかった。
「まあ、最もあの時、美緖達が来てくれなかったら私はここにいなかったかもね。
そういう意味では、改めてお礼を言うわね。
ありがとう」
春菜は笑顔で美緖に礼を言った。
「いえ、そんな、たまたまです」
美緖も笑顔でそう言った。
「それにしても、TK21に続いてTK34も押さえ込むとは流石だよね」
春菜の向こう隣の初音がそう言ってきた。
「押さえ込んだと言うより、向こうが引いてくれたと言うべきですね」
美緖は昨日の戦いを思い出しながらそう本音で言った。
体力が尽きる前に引いてくれて良かったと本気で思っていた。
「どうして引いたのか、分かる?」
春菜はそう聞いてきた。
「いえ、見当も付きません。
妖人は時々おかしな行動をするように感じられます」
美緖はそう答えた。
「多分、思った以上に有利に立てなかったからじゃない?
そういう時って、妖人はあっさりと引くよね」
初音は美緖の代わりにそう答えた。
美緖と春菜は初音のこの言葉に妙に納得した。
思い当たる節があるからだった。
そんな中、初音の向こう側では桜が難しい顔をして何やら考えていたのが美緖の所から垣間見えた。
「では、会議を始める」
峰岸少佐がそう言うと、作戦会議が始まった。
作戦会議とは言え、選択肢は多くなかった。
3区の大隊本部にいる妖人の戦力を削り、その過程で、妖人が打って出てくるのなら本部の外で、立て籠もるのなら中で殲滅する他なかった。
ただ、その中で問題となるのがTK34だった。
そこで、TK34は特戦隊1個小隊を当てて、動きを牽制し、その間に他の隊で他の妖人を殲滅する作戦が立案された。
この小隊に101A小隊が任命された。
「連隊長殿、意見を述べてよろしいでしょうか?」
任命された桜が即座に手を上げてそう言った。
「何かね、桜隊員」
風間中佐は桜の方を見てそう言った。
「ありがとうございます」
桜は礼を言うと、スッと立ち上がった。
「TK34の抑えは、我々ではなく、117A小隊に任せるのがよろしいかと思われます」
勿論、美緖は桜の言葉にびっくりした。
会議室にいた他の人間も驚きの声を上げて、俄に会議室がざわめいていた。
ただ、初音と春菜は成る程という顔をしていた。
「4隊の内の一番の実力がある部隊が当たるのが適当だと思うが、桜隊員は何故そういう提案をしたのだ?」
風間中佐はざわつく雰囲気の中、冷静な口調で質問してきた。
「我々の隊が一番の実力があるかは分かりませんが、TK34に関しては117A小隊が昨日見事に抑え込みました。
そう言った意味では相性のいい部隊が事に当たるべきかと思います」
桜は堂々とした風格でそう意見した。
「うむ……」
風間中佐は考え込むように腕組みをした。
「しかし、桜隊員。抑え込んだのは一度だけで、実績とは言えないのではないか?」
峰岸少佐がそう言ってきた。
「実績と言えば、ランクA+のTK21も抑え込んだ実績があります。
そう言った意味では問題ない実績だと思いますが」
桜のこの言葉に峰岸少佐は黙って苦笑いする他ないと言った感じだった。
風間中佐と峰岸少佐は顔を見合わせると、問題ないという認識で一致したようだった。
「この件に関して、意見がある者は?」
風間中佐は視線を中隊長と連帯参謀の方に向けた。
中佐の問い掛けに意見がある者はいなかった。
「では、対TK34部隊は117A小隊に任せるとする」
風間中佐はそう決断した。
その言葉を聞いた時、美緖は私の意見は聞かないの?といった顔をしていた。