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妖人 ~ ゲノム編集された私達が戦う相手  作者: 妄子《もうす》
7.新敵

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その6

 2体の妖人を倒した美緖達は全中隊で3区の大隊本部へと向かっていた。


 既に現着していた109中隊から情報が次々と入っていた。


 3区本部には少なくとも10体以上の妖人がいる事、そして、TK21の存在が確認されていた。


 また、3区の大隊本部要員と待機していたC中隊の隊員達は脱出できた30名を残して壊滅した事も報告された。


 非番やパトロールに出ていた他の3中隊は区内の避難誘導に当たっているが、その中隊にも少なからずの損害が出ていた。


 109中隊が戦闘状態に入っていたが、数が多すぎて手が回らない状態で尚も被害が拡大している状況だった。


 3区の本部近くに到着すると、美緖達はすぐに装甲車を降りて走り出した。


 すると、春菜が1人でCランクと思われる妖人と戦っている姿が目に入った。


 春菜は妖人の攻撃を何度か刀で撥ね除けると、一気に懐に飛び込んで心臓を刀で貫いていた。


「春菜お姉様、後ろ!」

 美緖は春菜にいつの間にかに忍び寄ってきた妖人に気が付いて大声を上げた。


 春菜は美緖の叫び声に気が付いて、後ろを振り向いたが、妖人の攻撃の方が早かった。


 それでも、春菜は何とか刀で妖人の爪を防いだが、態勢が悪かったのか、吹き飛ばされてそのまま建物に激突した。


 妖人は美緖達4人がもう忘れないであろうTK21だった。


 TK21は倒れて起き上がれない春菜にトドメを刺そうとしていたが、117中隊の指揮車からの12.7mmの正確な射撃の為、一旦後退した。


 それに目掛けて、美佳・美希・美紅が殺到するように斬り掛かっていった。


 だが、TK21はいつものように後退しながら3人の攻撃を余裕で捌いていた。


 美緖は春菜の元に駆け寄ると、跪いて様子を探った。


「大丈夫ですか?お姉様」

 美緖は心配そうに春菜に聞いた。


「ちょっと、大丈夫ではないかもね」

 春菜は苦痛の表情を浮かべながらそう言った。


「立てますか?」

 美緖はそう言って春菜の右肩から背負おうとしたが、春菜が悲鳴を上げた。


「ごめんなさい」

 美緖は右肩から慌てて離れた。


「気にしないで。

 右肩がちょっと脱臼しただけだから」

 春菜は痛みに耐えながら蹲っていた。


「お姉様、109Aの他の隊員は?」

 美緖は春菜の背中に手を置いて気遣いながらも現状把握の為の質問をした。


「分散して戦っているの。

 私は今1人で戦っていたのよ」

 春菜は美緖の方に顔を上げながらそう答えた。


「117Aより109Hへ。

 春菜隊員が負傷された。

 春菜隊員は117中隊が収容するので安心されたし」

 美緖はインカムで109中隊にそう報告した。


「109H、了解。

 よろしく頼む」


 返信を聞くと、春菜は美緖の手を借りて立ち上がった。


 後ろから117B小隊に護衛された指揮車がゆっくりと近付いてきた。


 美緖は春菜に付き添おうとしたが、

「美緖、あなたは自分の隊員達の援護に向かって。

 私は大丈夫よ」

と言って、春菜は付き添いを断った。


 美緖は心配ではあったが、周りの状況を確認し、TK21以外の妖人がいない事を確認した。


「分かりました」

 美緖はそう言うと、苦戦している3人の応援へ向かった。


 美緖はすぐに他の3人と合流してTK21と戦い始めたが、美緖が参戦したからと言って優勢になったという訳ではなかった。


 4人の攻撃はことごとくかわされ、いなされていた。


 TK21の爪と刀がぶつかり合う金属音がたまにするくらいで、ほとんどの攻撃は空を切っていた。


 TK21はまるでダンスを踊るように軽やかに美緖達の攻撃をかわしていた。


 攻撃が当たらないのでイライラする気持ちはあったが、美緖達は攻撃の手を緩める事なく突撃を繰り返していた。


 しかし、攻撃が当たらないので美緖達のコンビネーションは徐々に崩れだしていき、TK21が反撃に出ようとしていた。


 そこに側面からCとD小隊からの援護射撃が同時にあり、TK21は一旦後退して美緖達と距離を取った。


 距離が離れた事により、戦闘は一旦中止となった。


 朝から戦闘が続いているので、流石に美緖達も疲労が隠せないようで、肩で息をしていた。


 ただTK21の方も美緖達のコンビネーションだけではなく、支援小隊との連携が高まっているので容易に打ち破る事は出来ないでいるように見えた。


 しかし、美緖達はこれで行けるという感じにはならなかった。


 しばらく、睨み合いが続いた。


 再び戦いが開始されようとした時に、TK21の後ろにスッと別の妖人が現れた。


 美緖達はその雰囲気に一瞬恐れをなし、打って出るのを止めて、すぐに後ろに飛び退いて距離を取った。


「新たに出現した妖人を確認。

 コードTK34、ランクAの妖人です」

 千香が通信でそう知らせてきた。


 美緖達4人はやはりと思いながら一気に緊張感が増した。


 ランクAの妖人が同時に2体。

 4人でとても相手できるものではなかった。

 ここでほぼ戦いの帰趨は決まってしまった。


 美緖は諦めながらも何とか勝てる方策を考えようとした。

 しかし、全く思い付かなかった。


 TK34はTK21の真横に立つと、美緖達には目もくれずにTK21を睨んだような気がした。


 白目で表情が読みづらいので正直本当にそうなのか分からなかった。

 しかし、少なくとも2体仲良く戦いましょうという雰囲気ではなかった。


 TK21はそれまで戦闘態勢でいたが、急にだらんとした。


「フン、オゼンダテハ、シテヤッタゾ」

 TK21は片言でそう言うと踵を返し、近くのマンホールから地下へと消えていった。


「え?」

 美緖達4人は訳が分からず同時に絶句していた。


 そして、どういう事?と言った感じで顔を見合わせる他なかった。


 そんな中、隙が出来た美緖達にTK34は容赦なく襲い掛かってきた。


 標的にされたのは美緖だった。


 美緖は慌てて刀を構え直したが、TK34の間断ない攻撃で一気に追い込まれていった。


 美緖は右手の攻撃を何とか刀で受け止めて、堪えた。

 しかし、すぐに左手を振り下ろされてしまった。


 その攻撃に対処できない美緖が何とか左手をかわそうとしたが、既に遅かった。


 ただやられたと思った時に、美佳が横からTK34の左手を刀で受け止めていた。


 TK34はそれに構わず更に両手で圧力を加えて、2人諸共葬り去ろうとした。


 そこに、美緖と美佳の背後から美紅が2人の間に割って入るように心臓目掛けて刀を突き立てて突進した。


 美紅の攻撃をかわす為に、TK34は美緖と美佳から大きく離れた。


 そして、美紅の剣先を逸らす為に両手で刀を防ぐと共に、半身になって美紅をかわした。


 美紅はそのままの勢いで駆け抜けたが、半身なったTK34目掛けて、美緖達の横から美希が突進してきた。


 TK34はこれも半身になってかわした。


 美希がTK34の前を通り過ぎると同時に、正面の美緖から心臓目掛けて刀が突き立てられた。


 TK34はこれを両手の爪で受け止めた。


 美緖はそれ以上深追いせずに、一旦横に飛び退いてから、先程美希が突進した位置へとスライドした。


 これで美緖達4人がTK34を取り囲む形になった。


 そして、4人は一気にTK34を攻め立てた。


 爪と刀がぶつかり合う鈍い金属音が何度も響き渡る中、美緖達は次第に攻撃の手数が増え、熱くなっていった。


 美緖は攻撃に熱くなりすぎて思わぬ反撃を貰う事を警戒して、一旦離れるように指示を出した。


 同じAランクとは言え、TK21とTK34では戦い方が違うのだろうか、どうも勝手が違うと美緖は感じていた。


 とは言え、こちらの攻撃を全て受け止められてしまったので、強い事は確かだった。


 調子に乗って攻撃して、思わぬ反撃を喰らうのは避けるべきだと美緖は考えていた。


 美緖は他の3人の顔色をうかがったが、3人も勝手が違うと言った表情をしていた。


 いつもなら迷わず突っ込んでいる美紅も明らかに自重気味だった。


 TK34の方は美緖達の攻撃が止んだので、反撃に転じようとした。

 だが、そこにタイミング良く、援護射撃が入った。


 今度はC・D小隊に加えて、B小隊からも援護射撃があり、3方向から一斉に射撃が開始されていた。


 思わぬ攻撃にTK34は動きを封じられ、再び美緖達の猛攻に晒された。


 美緖達の優勢に見えたが、やはり攻撃は全て受け止められたいたので、実質互角と言った所だった。


 ただ、TK21の時と比べると、考えながら攻撃する事ができ、その意味では少し余裕があった。


 余裕がある分、互角のこの状況から有利に戦いを進める為には相手のバランスを崩したかった。


 だが、そういった攻撃に対してもTK34は適切に対応してきたので、いつまでも膠着状態が続いた。


 膠着状態の中、美緖は少し焦り始めていた。

 このままでは体力が続きそうにないからだ。


 そこに悪い事に、妖人の方に援軍が来た。

 ランクCだが、一気に3体の妖人がTK34を援護するべく向かってきた。


 不味いと思いながらも美緖はTK34への包囲を解き、一旦距離を取った。


 戦力の均衡が崩れた事により、明らかに美緖達の方が不利だった。


 これを機会にTK34が攻勢を掛けてくると思われたが、意外にも3区の本部の方に撤退を始めた。


 TK34の方も体力を消耗したのか、初見なので慎重な行動に出たのか、分からなかったが、TK34なりの都合があるのだろう。


 妖人はその攻撃力から考えなしに強引に攻めてくるイメージがあった。

 だが、実際は知能は人類並み以上にあるので、かなり厄介な相手だった。

 それを示す典型例だったかも知れない。


「流石に追撃という訳には行かないわね」

 和香は美緖達の疲弊ぶりをモニターで見ながら通信してきた。


「ええ、済みませんけど、ここら辺で限界です」

 美緖は妖人が全て視界から消えると、力尽きたようにへたり込んだ。


 周りを見ると、他の3人も同様だった。


「連隊Hより各特戦中隊へ。

 割り当て情報を送る。

 その割り当てられた地区の安全を確保し、逃げ遅れた住民の避難・保護を援護せよ。

 2103大隊の残存部隊と周辺区からの応援部隊は割り当てられた地区住民の避難を完了させよ。

 3区大隊本部の奪還は後日とする」

 連隊本部からの指令が伝えられた。


 つまり、今回の戦いは妖人の勝利で人類の敗北と言う事になった。

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