その4
和香の予見したとおり、1時間半後に、春菜隊は行き止まりまで進んだが何も発見できずに地上に出る事となった。
そして、初音隊小隊が投入され、東へ向かって地下空間を進み始めた。
「対妖人戦を遂行する上ではいずれやらなくてはならない地下探索だけど、簡単には進まないものね」
和香は溜息交じりにそう言った。
他の者達は和香の言った事に頷いていた。
同じ気持ちなのだろう。
「とは言え、妖人はまさかといった感じで出現してくるもの。
みんな、ここは一旦気を引き締め直しましょう」
和香は今度は予言めいた事を言った。
その言葉に一同は嫌な感じを覚えたが、それが現実のものになったのはそれから約30分後の事だった。
「連隊Hより各中隊Hへ。
104A小隊が妖人の痕跡を発見。
発見箇所のデータを送る。
痕跡は進行方向東へ向かっている模様。
104Aは現在、これを追跡中。
なお、現在の所、援軍の必要性なし」
連隊司令部から緊張感が高まる状況が入電されてきた。
通信はこれで終わったが、これにより否応なしに緊張感が高まった。
「初音お姉様達が何か見つけたみたいですわねぇ」
美佳はいつものほあほあした口調で話していたが、表情は緊張感があった。
しかし、予想に反して5分と経たずに次の通信が入った。
「104Aより連隊Hへ。
再び妖人の痕跡を発見。
一方は東へ、もう一方は北へと向かっている模様。
また、周辺に妖人は見当たらず。
今後の指示を請う」
「連隊Hより104Aへ。
104Aはそのまま東を探索せよ。
北には101Aを向かわせる」
「104A、了解。
引き続き、東に向かう」
この通信もこれで終わった。
通信が終わった後、美緖達は何か違和感を感じてお互いの顔を見合わせていた。
ただ、違和感の正体が分からなかったので、4人とも言葉は発しなかった。
「次、何かあったら私達の番ね」
美緖達の前の席にいる和香がそう呟いた。
和香の言葉で更に緊張感が高まっていた。
しかし、美緖達以外の隊員は特に違和感を共有している訳ではなさそうだった。
美緖と美希はお互いに目が合ったが、何も言葉を交わせなかった。
違和感の正体を言葉にする事が難しく、なんと言っていいか分からなかったからだ。
もしかしたら、ただの勘違いかもしれないとも思っていた。
そんな事で迷っている内に、再び通信が入った。
「101Aより連隊Hへ。
妖人の痕跡が分かれている地点を発見。
一つは北側に、もう一つは西側に向かっている。
なお、周辺に妖人は見当たらず。
今後の指示を請う」
先程、捜索に加わった桜からの通信だった。
時計を確認すると、先程の通信から30分も経っていなかった。
こうも矢継ぎ早に痕跡が見つかるとは。
「連隊Hより101Aへ。
101Aはそのまま北を探索せよ。
西には117Aを向かわせる」
「101A、了解
そのまま北へ向かう」
「さてと、お呼びか掛かるわね」
和香は通信が終わると同時にそう言った。
「連隊Hより117中隊へ。
これから送るポイントへ急行せよ。
その地点の地下の探索を117Aに行ってもらう」
ただし、命令は伝達ではなく、連隊長の風間中佐が直接通信してきた。
それだけにかなり気になる状況だ。
また、その通信と共に、117中隊の各隊員の端末にその地点のデータが送られてきた。
隊員達は一斉にデータを確認した。
和香は行き先を確認すると、隣の千香に頷いた。
「117中隊より連隊Hへ。
ポイント地点を確認した。
これより急行する」
千香はそう返信した。
「済まんな……」
風間中佐から何故か謝るような通信が入ってきた。
「117中隊全隊員へ。
これより指定されたポイントへ急行する。
遅れないでね」
和香は嫌な感じを持ちながら全中隊にそう命令し、中隊は移動を開始した。
自分達に命令が出たので、美緖達は一斉に自分達の装備を確認し始めた。
戻った時に、装備を確認していたので、大丈夫なのだが、習慣としてそれが身についた。
装備を確認しながら先程までの違和感がなくなるどころか、強まっていくのを感じていた。
この違和感は風間中佐からの直接命令されたから来るもではなかった。
だが、これはこれで不安感を煽るような感じがしていた。