その2
作戦は翌日の早朝に風間中佐の指揮の下、開始された。
妖人達の侵入経路は地下であり、その通り道を発見する事が第一だった。
ただ、地下と言っても人間が作った地下空間を巧みに利用している例がほとんどだった。
ならば、追撃も簡単だと思われるが、狭い地下空間では1対1の戦闘を強いられる。
妖人は図体が大きく身体能力が高いだけではなく、体も意外と柔軟性に富んでいて、狭い空間でも素早く動く事ができた。
つまり、地下空間での戦闘はこちらが圧倒的に不利だった。
とは言え、対妖人戦闘を進める上でやはり地下探索は欠かせないものであった。
風間中佐は最初、地下に美緖達東京117A小隊のみを地下に投入した。
特戦隊員以外の歩兵を地下空間に入れる事はただ死んでこいと命令しているのと同じであったので、救援の為の部隊も特戦隊員に任せる他なかった。
連隊司令部は投入する部隊を1隊ずつにして慎重に事を運ぼうとしていた。
「空気が淀んでいるのです」
一番後ろにいる美希が不満を言った。
確かに空気の流れを感じる事はなかったので、空気が淀んでいる感じがした。
だが、何か変な臭いがしているとか、有毒ガスが発生していると言った事は無いようだった。
地下空間に設置されている酸素濃度測定や有毒ガス検知などのセンサーには全く異常がなかった。
この地下空間には各種ライフラインが設置されており、メンテナンスの為に人が通れるようになっていた。
狭いながらも謂わば、地下道が通っていた。
薄暗く狭い空間を縦一列で進んでいたので、気分的には嫌な感じだった。
それが美希の淀んでいる発言に繋がったのだろう。
美緖達は妖人出現地点に近い駅の西側のマンホールから入り、西へと進んでいた。
美緖達はヘルメットを被り、その上にヘッドライトを付け、万が一の為に酸素ボンベも背負っていた。
「こんな事して意味あるのか、疑問なのだ」
先頭の美紅が言ってはいけない事をあっさりと言った。
ただ2時間経っても、地下にいるが妖人の気配はおろか、痕跡さえもなかった。
そして、川の近くに来たのでそこで地下道は西には通じていなかった。
地下道は網の目のように張り巡らされていたが、痕跡がない限り、西へ進めとの命令だったので、美緖達はその通りに従った。
その結果、どうやら美紅の言ったとおりになってしまった。
「やっぱり、無駄だったのだ」
美紅は予想通りの結果になったので不満そうだった。
確かに無駄足だったのだが、妖人と遭遇するよりはましだったかもしれない。
「117Aより117Hへ。
地下の西の行き止まりまで来ました。
妖人の痕跡は一切認められませんでしたので、ここから地上に戻ります」
美緖はインカムでそう報告した。
「117Hより117Aへ。
報告は了解。
そのまま地上に出て待機せよ。
向かいに行く」
千香からそう言返信が返ってきた。
美緖は他の3人と共に、徒労感を抱えながら地上に繋がるハシゴを登っていった。




