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その1

 美緖達が初戦果を上げた月はその後、日常的に起きる小競り合いばかりで特に大きな戦闘は起きなかった。


 しかし、月が変わると同時に、再び11区に複数の妖人が現れた。


 美緖達東京117中隊は、101,104中隊と共に、迎撃の任に当たった。


 美緖達の迎撃に、妖人達はすぐに逃げ去り、更に追撃したが、完全に逃げられてしまった。


 ここ3ヶ月、11区に妖人が出現が頻発する事からその付近に妖人の拠点があるのではないかと南東京旅団本部は考えていた。


 それに加えて、11区役所と都庁からの要請で早急にこの事態の対応を迫られていた。


 それに対応すべく、旅団司令部は妖人が出現してから迎撃するのではなく、特戦隊を中核とした臨時連隊を編制し、11区の妖人の拠点の捜索とその撃滅を旨とした作戦が立案されていた。


 そのブリーフィングのために、特戦隊所属の中隊と11区担当大隊の主だったメンバーが旅団本部に呼び出されていた。


 4つの中隊からは中隊長、副長、中隊付き士官、そして、特戦隊員のリーダーが呼び出されており、大隊からは大隊長、大隊付き参謀と各中隊長がそれぞれ呼び出されていた。


 旅団司令部からは首脳部全員と現場指揮を執る風間中佐とそれを補佐する峰岸少佐が参加した。


 ただし、旅団長の山南准将は都議会から急に呼び出されてしまい、やむを得ず欠席となった。


 このブリーフィングには美緖が出席したのだが、美緖の席は東京117中隊の同僚と同じ席ではなく、特戦隊員が一塊でまとめられていたので、そこに座っていた。


 美緖達特戦隊員は軍での階級はなかった。

 形としては、徴兵1年目の二等兵より下の三等兵扱いだった。


 しかし、戦闘部隊の中核である彼女達を無視する事はできないので、ブリーフィングには隊から一人以上は必ず呼ばれていた。


 美緖は特戦隊員の一番端の席に座っており、その隣から順に5期卒業の109中隊の春菜、2期卒業の104中隊の初音、1期卒業の101中隊の桜が座っていた。


「桜お姉様、今回の作戦をどう思いますか?」

 作戦の説明が行われている中、初音は小声で隣の桜に聞いた。


「作戦の内容を見る限りは順当だと思う」

 桜は大型スクリーンで説明されている方から全く視線を動かさずにやはり小声で答えた。

 ただ、奥歯に物が挟まったような言い方をしていた。


「ああ、やっぱり、区と都からせっつかれて作戦を立案した事が気になっているのですか?」

 初音と桜が話をしているのを聞いて、春菜が話に参加した。


「まあね。

 作戦そのものに口は出してきてはいないからいいけどね」

 桜はまた奥歯に物が挟まるような言い方だった。


「そうですね」

 初音は桜の言う事に頷きながらそう言った。


 3人の懸念は共通な物のようだった。

 また、この会議室にいる全員も同じような懸念を持っていたかもしれない。


 説明は順調に進み、細かな点での質問はあったが、大筋ではなかった。


 編制も前回の11区迎撃と同じような物で、後詰めが109中隊から117中隊に代わっただけだった。


「旅団首脳部も美緖達を一人前と認めたようね」

 初音が美緖の方を見ながらそう言った。

 なんか嬉しそうだった。


「今回の作戦は、もしかしたら美緖達が重要になるやも知れないわね」

 桜が美緖の方を見ながらそう言った。

 予言めいていたが、これは忠告だろう。


「他の区に妖人が出てくるかも知れないということですか?」

 春菜はそう聞いた。


「可能性は低くないでしょ?」

 桜は春菜にそう返した。


 他の3人はこの言葉にその通りだと思い、真剣な表情で同時に頷いていた。


「とは言え、AAの妖人に4人で対応できたのだから、問題はないでしょ」

 初音はニッコリしながら美緖を見た。


「TK21はまだAA認定されていませんが」

 美緖は信用してくれるのはうれしかったが、そう口にした。


「でも、A+と言う付帯事項が付いたランクにはなったのよ。

 それに、私達特戦隊員が聞き間違える事は絶対にないと言えるでしょ?」

 初音は自信満々の顔をしていた。


「そうですね。

 恐らくランク付け基準が変更になるかの精査を行っているから認定が遅れているだけでしょうね」

 春菜が初音に同意した。


 桜は何も言わなかったが、特に意見を異にするという訳ではないようだった。


「特戦隊員達に何か意見はないかね?」

 ブリーフィングを進行していた峰岸少佐がいきなりこちらに話を振ってきた。

 他の参加者からの意見が出尽くしたからだった。


「はっ」

 桜はそう言うと、直立不動で立ち上がった。そして、

「特戦隊員から特に意見はありません。

 作戦の立案自体は理にかなっていると思いますし、懸念材料も皆様と同じであります」

とよく通る声で言うと、席に着いた。


「よろしい」

 峰岸少佐はそう言うと、

「他に意見がございますか?」

と言って、視線を会場全体に向けた。


 会場には特にそれ以上意見する人間がいなかった。


「では、これにて……」

 峰岸少佐がそう言って、作戦会議を終わろうとした時、

「少佐殿、旅団長から緊急電です。

 映像をつなぎます」

と一人の士官がそう叫んだ。


 大型スクリーンに旅団長が映し出されると、会議室にいた全員が起立して敬礼した。


 スクリーンの旅団長は答礼した。


「みんな、着席してくれ給え」

 旅団長はそう言うと、大きな溜息をついた。


 会議室の一同は疲れた顔をした旅団長を見ながら座り、誰もが嫌な予感しかしなかった。


「先程、都議会で緊急動議が可決された。

 それによると、南東京旅団は全特戦隊員を動員して、11区の妖人を殲滅せよと言う事なった」

 旅団長は静かにそう言った。


 その言葉を聞いて、会議室の一同が愕然とした。

 これまで、行政機関の要望はあったが、議会が作戦に口を出してくるとは思わなかったからだ。


「旅団長殿、それでは……」

 旅団の副長である山崎大佐が口を開いたが、山南准将はそれを手で制した。


「今回の議会の要望は東京師団から受け入れるようにとの命令が下された。

 それと同時に、師団が北東京旅団と西東京旅団に本作戦への協力を命令して下さった」

 山南准将はそう説明をした。


「では、今回の作戦は師団が主導するという形になるのですか?」

 山崎大佐はそう聞いた。


 この質問は会議室にいる一同も思っていた疑問点だった。

 それと同時に、東京師団や関東軍管区などの旅団の上位組織が形骸化している事に対しての不安があった。


「現場の指揮はあくまでも我々が取る事となった。

 ただし、今回の作戦では、特戦隊の予備兵力を用意するために、師団が北と西に援軍を要請してくれる事になった為の措置だ」

 山南准将は苦渋に満ちた表情をしていた。


「それは承知しましたが、議会が作戦の細部まで口を出してくるとは……」

 山崎大佐は何とも言い難い表情だった。


「私も議会に呼ばれた時にはここまでの事になるとは思いもよらなかった。

 新米少尉事件から旅団に対する不信感が募ったのだろう……」


 新米少尉事件とは、美緖達の初陣時のあの話だった。


 事の詳細は、世間に広く知られてしまっていた。


 暴走の挙げ句、敵前逃亡した新米隊長代理は、生前に遡って1階級降格の上、不名誉除隊となっていた。


 更に、師団主計課で研修していた新米少尉を推薦した叔父である師団長が更迭、同じく推薦者である前旅団長も更迭されていた。


 その為、関東軍管区が先の調査に出てこざるを得なくなったという騒動に発展していた。


「それに加えて、11区で連続的に起きた妖人の襲撃事件。

 人心の不安を抑えるためにも、議会の方も放置する訳に行かなかったのだろう」

 山南准将は無念そうだった。


「分かりました。

 決まったからには全力を尽くします」

 山崎大佐は姿勢を正してそう言った。

 もうそう言わざるを得なかった。


「皆には迷惑を掛けるが、よろしく頼むぞ」


「了解しました」

 山崎大佐はそう言って、敬礼をした。


 それを見た他の一同もそれに習った。


 その光景を見た山南准将は力強く頷くと、答礼した。

 そして、通信が終了した。


 美緖は敬礼を解きながら嫌な予感を覚えずにはいられなかった。


 それは、美緖の周りにいた他の特戦隊員の3人だけではなく、その他の旅団隊員も同じだった。


 皆、苦虫を噛み潰したような苦い表情をしていた。

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