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その1

 11年も前の事である。


 洋子先生はその頃、軍所属の研修医だった。


 妖人の出現から半世紀余り経っていた。


 妖人は世界で一番大きな大陸の一角で突如として出現し、十数年でその大陸と隣の大陸を一気に飲み込んでいった。


 人類は対抗しようとしなかった訳ではなかった。

 現状で持ちうる最強兵器で立ち向かった.


ABC兵器は妖人に多少の効果はあったものの、人類に対する弊害の方が遙かに大きかった。

 その結果、妖人をのさばらせる事に寄与しただけだった。


 妖人には妖人をぶつけるという構想の下、大洋の向かい側にある大陸で研究が行われた。

 研究は成功し、一番大きな大陸の妖人を駆逐したかに見えた。


 が、まもなくその新型妖人は暴走を始め、氷で閉ざされた大陸以外の大陸を十数年で制圧してしまった。


 ただし、人類の生存圏は全て妖人に奪われた訳ではなく、大陸と橋やトンネルで繋がっていない島々は何とか現在まで生き延びる事ができていた。


 日本もその島々と同様に何とか人類の生存圏を維持している国々の一つだった。


 妖人問題や資源・エネルギー問題、人口問題などに対応しながら約2億の人口を維持できていた。


 ただし、妖人に対する人的被害は年々増加の一途を辿り、抜本的な対策に迫られていた。


 そこで、日本政府はその対策の一つとして、ゲノム編集による新たなる人類を誕生させる研究をスタートさせた。


 これは妖人の出現や対策の失敗などを生んだ禁断のテクノロジーだったが、妖人に対抗できる人類がいない以上、苦肉の策として研究が進められた。


 7つのプロジェクトが並行して行われ、プロジェクトの集合離散を繰り返えされた。


 紆余曲折の後、何とか成功の糸口を見つけ、育てられた子供達が14歳になっていた。


 いずれも女性であり、彼女達の健康維持のため行われている医療行為に対して、研修医としいて洋子先生が参加する事となった。


「知っていると思うけど、彼女達の特長としては、身体能力が桁違いに優れている事、つまり、戦闘能力が高い事が挙げられます」

 洋子研修医の指導を担当する藤田佳代ふじたかよ先生が説明していた。


 洋子はさっと手を上げた。

 表情は真剣そのものだった。


「はい、谷山さん、どうぞ」

 藤田先生はにこやかにそう言った。


「彼女達の性的嗜好……」

 洋子は質問をしようとしたが、同じ研修医である佐藤ゆりかに思いっ切り頭を殴られて最後まで言えなかった。


「彼女達は恋とかをするのでしょうか?

 人間と同じように」

 ゆりかは洋子の質問をオブラートに包むように言い換えた。


「あら、彼女達は人間よ。

 誕生の仕方がちょっと違ったり、ちょっと力持ちなだけだったりするけど、それは個体差みたいな物よ」

 藤田先生は結構あっけらかんと言ってのけた。


 その言葉にゆりかは唖然としていた。

 一方の洋子はうんうんと熱心に頷いていた。

 反応は全くの反対だった。


「ただその個体差故に偏見が蔓延している状況があるのだけど……」

 藤田先生は今度は寂しそうにそう言った。


 そして、

「彼女達は他の赤ん坊と同じように育てられてきています。

 したがって、完全に人間と言えます」

ときっぱりと言い切った。


 それを聞いた洋子は更に熱心に頷いており、ゆりかの方は更に戸惑いを強くしていた。


 洋子達は軍医学校を卒業していて、医師の国家試験をパスし、軍医としての任官していた。

 現在、研修の最終期間になっていた。


「私に偏見などございません。

 美少女は正義……」

 洋子はキリリとした表情で何やら意味不明なことを言おうとしたが、今度はゆりかに口を塞がれた。


「谷山さんは性格に問題がありそうだけど、偏見がないようなので全く問題ないわね」

 藤田先生はにこやかにそう断言した。


 問題ないのかよ!とゆりかは突っ込みたい一心だった。


「佐藤さんの方は、どうなの?

 やっぱり偏見とかあるのかな?」

 藤田先生はゆりかに率直に聞いてきた。


「ないと言えば、嘘になります」

 ゆりかも率直にそう答えた。


「え、そうなの!

 私は同志だと思っていたのに」

 洋子はびっくりした顔でゆりかを見た。


「話がややこしくなるからあんたは黙ってなさい」

 ゆりかは洋子を叱った。


 洋子はシュンとなってしまった。


「でも、どうしてここへの配属を希望したの?

 まあ、まだ変更はできるけど」

 藤田先生は再び質問してきた。


「あ、私は……」

 洋子は藤田先生の問いに答えようとしたが、

「お前に聞いているんじゃねぇ」

とゆりかは洋子を睨み付けた。


 睨み付けられたので、洋子は再びシュンとなってしまった。


「私は、どうせならより人類に貢献できる場所で働きたいと思ったからです」

 ゆりかはそう答えた。


「そう、立派な心掛けね」

 藤田先生はにこやかにそう言った。

 だが、それ以上は何も言わなかった。


 ゆりかは少々拍子抜けだった。

 この職業の意義とか、目的とかを延々と聞かされるのかと思っていたからだ。


「さてと、雑談はこれくらいにしておき、早速実習に入る事にします。

 もう少しで訓練が終わり、1期生が診察室に来る頃です」

 藤田先生は柱の時計を確認しながらそう言った。

 

 そして、

「診察室へいきますので、2人は付いて来て下さい」

と言って、休憩室を先に出ていった。


 その後を洋子とゆりかは追っていった。

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