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その4

 美緖には不満があったが、現着すると、作戦通り行動した。


 美緖達は指揮車を降りると、すぐにそれぞれ割り当てられた妖人への元に急行した。

 それに続き、各支援小隊も向かって行った。


 和香達が乗っている指揮車は念のため、美紅の近くで待機し、いつでも支援できる態勢を整えていた。


 指揮車を降りた地点から一番妖人に近いのは美緖だった。


 美緖は道路を疾走して一気に妖人に向かって行った。


「ちょっと、美緖隊員、待って!」

 B小隊隊長の里奈がびっくりして制止した。


 しかし、美緖はそのままの勢いで突っ込んでいった。


「いっつも、勝手な事を言って!」

 美緖はそう叫びながら刀を横切りにして妖人を攻撃した。


 妖人は両手の爪でそれを受けて止めた。


 鈍い金属音がした。


「私がいつもどんなに心配しているか、分かっているの!」

 美緖は更に叫ぶと、渾身の力で受け止められた刀を振り抜いた。


 妖人は今度は耐え切れずにそのまま吹っ飛ばされるように後ろに倒れ込んだ。


 美緖の鬱憤が爆発したという感じだった。

 普段は仲がいい姉妹だが、戦闘時にはまとめるのをとても苦労しているという事を如実に表す出来事だった。


「美緖隊員、落ち着いて。

 援護は必要?」

 里奈は小隊を急いで配置につかせようとしていた。


 今の光景を見て、里奈は美緖がすぐに妖人を倒してしまうのではないかと思ってしまった。


「大丈夫です、落ち着いています。

 勿論、援護は必要です」

 美緖はいつもの口調に戻ってそう答えた。


 ただ、転がっている敵をそのままにして置く手はないので、次々と攻撃を繰り出していった。


 圧倒的に美緖が有利かと思われたが、美緖自身はすぐに妖人が倒せるとは思っていなかった。


 ランクCとは言え、妖人は強く、1対1で対処は確かに可能だが、戦力的にほぼ拮抗しているので、容易に倒せる相手ではなかった。


 事実、刀は妖人の体を幾度も切り裂いていたが、急所には全く届いていなかった。

 したがって、妖人にはほとんどダメージを与えられなかった。


「中尉殿、美紅の方へ向かいます。

 援護を願います」

 美緖はそう言うと、起き上がってきた妖人を置き去りにして、美紅の方へと走り出した。


 妖人は一瞬その場に立ち竦んだような仕草を見せたが、すぐに美緖の後を追った。


 美緖達特戦隊員は妖人にとっては強敵であるのと同時に、何よりも最も手に入れたい獲物でもあった。

 したがって、囮としては特戦隊員以上の者はいなかった。


 美緖が追い付かれそうになると、B小隊から援護射撃があった。


 妖人にとって5.56mm弾は致命傷には成り得える可能性はほとんどなかったが、それでも身を守るために動きが鈍った。


 そこを突かさず、美緖は立ち戻って攻撃を加えた。

 そして、妖人が完全に守勢に回ると、再び駆け出した。


「美佳、美希、美紅。

 あなた達は大丈夫?

 上手くいっている?」

 美緖は走りながらインカムで3人に呼び掛けた。


「こちらぁ、美佳。

 全然、大丈夫ですよぉ」

 美佳は妖人に一撃を加えながらいつもの口調でそう答えた。


 戦闘には問題なかったが、緊張感のない口調に問題があった。

 まあ、いつもの事なので美緖は気にしない事にした。


「こちら、美希です。

 慎重に戦っているので問題はないのです」

 美希は妖人に連続攻撃を加えながらいつもの冷静な口調でそう答えた。


 それを聞いて美希の方は安心だと美緖は思った。


 たが、一番気がかりな美紅からの返事がなかった。


「美紅、返事しなさい!」

 美緖は立ち止まって大声で呼び掛けた。


 立ち止まったのは妖人が迫ってきていたので、それに対処するためだった。


 立ち止まった美緖に対して攻撃を仕掛けようとした妖人だったが、すぐにB小隊からの援護射撃でそれを阻まれていた。


 見事なコンビネーションだと言いたいが、この時、美緖の行動が素早すぎてB小隊は付いて行くのがやっとだった。

 少しでも気を抜くと、完全に置いてけぼりを喰らいそうな状況だった。


 今回は特戦隊員の能力に度肝を抜かれていた。

 訓練の時と全然違うと。


「美紅!」

 美緖は一段と大きな声で叫んでいた。


 それと同時に援護射撃を凌いだ妖人が美緖に襲いかかってきた。


 美緖はそれを横に避けてかわして、体を入れ替えると、妖人の後ろから脳天目掛けて刀を振り下ろした。


 妖人は地面にめり込むような感じで崩れ落ちた。


「全く、美緖ちゃんは心配性なんだのだ」

 美紅は妖人と間合いを取った所でようやく返事した。


 勿論、心配性という言葉に美緖はカチンときた。


 美緖が心配性と言われる所以はほとんどが他の姉妹の事を心配しての事だった。


「美紅、覚えておきなさいよ!」

 美緖はそう叫んで、崩れ落ちた妖人の横を通り過ぎて、再び駆け出した。


 敵の後ろを取った時は普通圧倒的な有利な立場になる。

 しかし、妖人の場合、背中から刀を突き立てても急所に通る事はほとんどなかった。


 その為、美緖はそれ以上の攻撃をしなかった。


 誘い出すための美緖の攻撃が10分余り続いた頃、十字路に入り、右折の先に美紅が1人で妖人と戦っているのが見えた。


「げ、もう、美緖ちゃん、来ちゃったのだ」

 美紅は妖人と対峙していて美緖に対して後ろを向いていたが、すぐに気が付いた。


 どうやら3人の内、来るのは美緖だと言う事が分かっていた口ぶりだった。

 ただ意外に早かったと感じているようだった。


「ええ、来たわよ。

 心配性のわ・た・しが来たわよ」

 美緖はそう言いながら、妖人が繰り出してくる爪の攻撃を刀で払い退けていた。


「美緖ちゃん、もしかして怒っているの?」

 美紅は心配そうに美緖に聞いてきた。


 美紅も美緖同様に、妖人が繰り出してくる爪の攻撃を刀で払い退けていた。


 両側で連続した鈍い金属音が鳴り響いていた。


「ぜん~ぜん~、怒っていませんよ」

 美緖はそう言いながら今度は妖人の攻撃をかわしながら後退していた。


「嘘なのだあ~、絶対に怒っているのだ」

 美紅もそう言いながら妖人の攻撃をかわしながら後退していた。


 2人が後退する事により、徐々に2人の背中が近付いていった。


 そして、2人の背中が合わさった時、事態が動いた。


「美緖ちゃん、お願いなのだ」

 美紅が背中越しに美緖にそう言った。


「分かったわよ」

 美緖はそう答えると、対峙している妖人αの爪を力一杯跳ね返した。


 すると、妖人αに大きな隙が生まれ、美緖は尽かさず妖人の急所である心臓目掛けて刀を突き立てた。


 妖人αは何とか自分の爪を引き戻し、美緖の突きの軌道を逸らすして急所を貫かれるのを免れた。

 しかし、勢いを殺す事が出来なかったので、強力な突きを喰らって後ろに跳ね飛ばされた。


 美紅の方は、妖人δの爪の攻撃を刀で凌いでいた。


「中尉殿、倒れたαを頼みます」

 美緖はそう言うと、倒れた妖人αには目もくれずに踵を返した。


「撃て!全力で抑えろ!」

 里奈は小隊の全隊員にそう命令すると、倒れた妖人αに対しての容赦が無い銃撃が始まった。


 美緖は美紅の肩に足を掛けて飛び上がると、妖人δの脳天目掛けて刀を振り下ろした。


 妖人δはそれに気付いて慌てて美緖の攻撃を両手の爪で受け止めた。


 攻撃は失敗に終わったかに見えた。

 

 しかし、その隙を突くように、今度は美紅が心臓目掛けて刀を突き立てていた。


 妖人δは2人の息の合った連続攻撃に対応ができず、ついに美紅の刀が心臓を貫いた。


 そして、おぞましい悲鳴と共に妖人δの膝が落ち、絶命した。


 妖人δを仕留めた美緖と美紅はすぐに振り返り、妖人αに対応した。


 妖人αはB小隊の必死の銃撃に対しても立ち上がる事に成功していた。


「美緖ちゃん、行っくのだ!」

 美紅はそう叫びながら迷わずに妖人αに突撃していった。


「突撃は私が返事をしてからでしょ」

 美緖は呆れながらそう言った。


 美紅は心臓目掛けて攻撃を連続で仕掛けた。

 しかし、妖人αはそれを自分の爪でことごとく受け止めていた。


 美緖はその後ろでじっと機会を伺っていた。


 そして、機会が訪れると見ると否や、一気に近付き、再び美緖は美紅の肩を踏み台にして飛び上がった。


 美紅の攻撃への対処で手一杯だった妖人αは美緖の攻撃に対処できなかった。


 美緖の刀は妖人αの目から脳を貫いていた。


 妖人αは呻き声を上げて倒れた。


 この一連の戦闘は、拮抗していた戦力バランスが崩れるとすぐに決着が付くといういい例だった。


「美佳と美希が苦労していると思うわ。

 すぐに向かいましょう」

 美緖は刀を妖人から抜きながらそう言った。


「了解なのだ」

 美紅は美緖の言葉に頷いた。


 すると、2人はすぐにその場を離れ、別々の方向へと走り出していた。


 美緖は美佳の援護に、美紅は美希の援護にそれぞれ向かったのだった。


 2体の妖人に対する決着も美緖と美紅が到着するとすぐに着いた。


 この日、美緖隊は初めて妖人を倒すという戦果を上げたのだった。

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