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その1

 和香の気配り上手な性格と締める所は締めるメリハリさは東京117中隊の結束を急速に高めていった。


 13区の戦闘以来、1ヶ月ほど経ったが、幸いな事に大きな戦闘はなかった。

 そのおかげもあり、訓練とパトロールで中隊の連携も大分取れてきていた。


 また、13区での戦闘において、和香は美緖達からの報告もあって、2つの事を注意するように上層部へ上申していた。


 一つは、TK21の狙いは指揮車であり、現場指揮官を殺害する事により軍の弱体化を図る狙いがある事。


 もう一つは、TK21は片言を話す事ができるので、ランクAではなく、ランクAAではないかという事。


 一つ目に対してはすぐに軍が対応して、TK21に対しては1個中隊で抑えると共に、もう1個中隊で指揮車の守りを固める事にした。


 もう一つの方は、1ヶ月経った現在でも検討中だった。

 ただし、TK21のランクに関しては注意喚起という事で通達が出されていた。

 すぐには結論が出る物ではないのかもしれないが、ちょっとヤキモキする展開だった。


 そんな状況の中だが、今日は東京114中隊の同じ休暇日だった。

 美緖達は姉妹である美亜達と久々に街で会う事になった。


 あれから街に出る事は何度かあったが、それに慣れた訳ではなかった。

 それでも、中隊所属の女性陣が色々協力してくれたお陰で、オシャレな服も何着か揃える事ができていた。


 ただカフェやレストランはまだ苦手だった。

 注目されながら、出された物を口にしても味がわからなかった。


 今回は美亜達の行きつけのカフェを指定されていた。

 事前に気兼ねなく寛げるとは言われていたが、美緖達は緊張しながらその店へと入っていった。


「いらっしゃいませ」

 初老の男性マスターが美緖達を出迎えてくれた。


 美緖達はドア付近で固まってしまった。


「奥の席に、どうぞ」

 マスターはごく自然に美緖達を店の奥へと誘った。


 美緖達は言われるままに奥の席に着いた。


 テーブルには予約席の立て札があった。


 ただし、店は繁盛しているとは言えなかった。

 他に客はなく、ガラーンとしていた。


「ご注文がお決まりになりましたらお声を掛けて下さい」


 マスターにそう言われたが、美緖達4人はちょっとパニックになった。

 初めての店だし、4人だけでカフェに入ったのも初めてだったからだ。


 4人とも、横一列に並んでどうしようという顔をしていた。


 そこに、店のドアが開く音がした。


「マスター、こんにちは!」

 明るくよく通る声だった。

 声の主は美緖達がよく知る美亜だった。


 そして、美亜の後ろから挨拶しながら次々と美衣・美羽・美恵が入ってきた。


 この光景を見て、美緖達は助かったと一様に思った。


「いらっしゃいませ。

 お連れ様達が奥でお待ちです」

 マスターはそう言うと、美亜達を奥に導いた。


 マスターにそう言われると、美亜達は店の奥へと向かった。

 そして、美緖達を見つけると、美亜は嬉しそうに手を振りながら近付いてきた。


「みんな、久しぶり!」

 美亜は嬉しそうにそう言うと、美緖達4人の前に座った。


 それに続いて他の3人も椅子に座った。


 美緖は美亜を見て溜息をついた。


 元気そうで何よりだと思う反面、美緖は美亜が苦手だった。

 同じ隊のリーダーだが、自分と違って明るく何でもそつなくこなす美亜に対してコンプレックスを感じていた。


 美亜はいつも柔やかに事を進める事が出来る人物であった。

 片や、美緖は周りに、いつも心配性だの苦労性だのと言われているからだった。


「何かもう頼んだの?」

 美亜は美緖達に柔やかに聞いてきた。


「いえ、何も頼んでいないわよ」

 美緖の言い方はちょっと素っ気なかったかもしれない。


「何を頼んでいいのか分からないのだ」

 美紅は美緖達を代表するかのように困っていた事を告白した。


 それを聞いて、美緖・美佳・美希はちょっと恥ずかしかった。


「もう、相変わらず、グズね」

 美恵は心底呆れたように言った。


「美恵ちゃんは相変わらず意地悪なのだ」

 美紅はいつもの笑顔でそう返した。


 美恵は美紅の言葉を聞いて、鳩が豆鉄砲を食ったよう顔をしていた。


 その様子を見て、美亜・美衣・美羽が吹き出していた。


「流石の美恵も美紅には勝てないのですね」

 美羽が美恵をからかうように言った。


 それを聞いて、美恵はプクッと膨れた。


「まあまあ、皆さん。

 ここはワッフルが美味しいのですよ」

 美衣は取りなすようにそう言うと、メニューを手に取った。

 そして、テーブルにメニューを開いて見せた。


 美緖達は美衣が指差してくれた所を見た。

 だが、種類が一杯あってよく分からなかった。


「ワッフルって何なのだ?」

 美紅はメニューを見るのに乗り出していた。


「何って、言われましてもねぇ……」

 美衣は答えに困ってしまった。

 そして、隣の美亜と美羽に助けを求めようとしたが、2人とも同じような反応だった。


「分からないのなら、食べてみる事ね。

 そうすれば、分かるわよ」

 美恵がちょっと偉そうにそう言った。


「流石、美恵ちゃんなのだ。

 確かに食べてみれば分かるのだ!」

 美紅は感激してそう言った。


「当然よ」

 美恵は美紅に感激されたので更に偉そうになっていた。


 ただ他の6人から見ると、美恵は美紅に軽くあしらわれているように見えなくもなかった。


 まあ、美紅にはそんな気が全くない事は分かっていたし、この事を告げても詮のない事なのであえて言葉にしなかった。


 また、むくれられても困るし……と言った感じを他の6人が誰もが思っていた。


 でも、そんなことより目の前のワッフル選びの方が大事だった。


 メニューに載っていたワッフルは色んな種類の物が載っており、どれも甘くて美味しそうだった。

 いやでも、テンションが上がってきた。


 美緖達は散々迷ったあげく、何とか注文にこぎ着けた。


 注文までの熱狂が収まると、美亜は美緖に微笑みかけた。


 美緖はこの微笑みが苦手だった。


「元気そうで何よりね」

 美亜は美緖にそう言った。


「ええ、お陰様で。

 あなた達は大層なご活躍だそうで何よりですね」

 美緖はちょっと嫌な言い方だった。


 美亜隊はこの1ヶ月あまりで7体の妖人を倒していた。

 一方で美緖隊は1体も倒せていなかった。

 この違いが美緖をちょっとどころか、かなり卑屈にさせていた。


 ただ美亜の方は全く気にしていなかった。


「あなた達の方こそ、AAの妖人を2度も押さえ込むなんて凄いじゃない」

 美亜は心底そう思っていた。


「AAという認定は受けていないわよ」

 美緖はそう素っ気なく言った。


「でも、あなた達がそう言っているんだもの。

 きっとそうなるわよ」

 美亜は確信を持ってそう言った。


 そんな美亜を見て美緖はやはり苦手意識を持たざるを得なかった。

 しかも美亜本人は心からそう思っているので尚更だった。


 美緖と美亜以外はもっと違う話をしていた。

 例えば、美緖達が着ているオシャレな服とか、もっと女の子同士らしい話をしていた。


 そんな中、マスターが出来たてのワッフルを運んできた。

 次々に運ばれるワッフルに、次々と歓声が上がった。

 見るからに美味しそうだった。


 全員の分が揃った時、8人の姉妹は一斉に食べ始めた。


「おいしいのだ!」

 開口一番にそう口にしたのは美紅だった。

 いつもの笑顔以上の笑顔でそう言っていた。


「本当においしいですねぇ」

 美紅の言葉に続いたのが美佳だった。


「そうでしょう、そうでしょう」

 美恵は何故か自慢気に頷いていた。


 ただ、美緖と美希は聞かれるまで声に出さずにそのおいしさを噛みしめているようだった。


 しばらく、ワッフルによる幸せな時間が続いた。


 だが、美緖・美佳・美希・美紅の端末が一斉に鳴り響いた事でその時間が突如中断された。


「緊急呼び出しね」

 美緖は端末を確認する前に暗澹とした表情で事態を悟った。


 美緖はワッフルを食べるのを止めて端末を確認した。

 そして、確認し終わると、さっと立ち上がった。


 それを見た美佳と美希も立ち上がったが、美紅は相変わらずワッフルを頬張っていた。


「申し訳ないけど、私達はこれで失礼するわ」

 美緖はそう言った。


「分かったわ。

 気を付けてね」

 美亜は事態を察ししたのでそう言った。


 美希はいつまでも立ち上がろうとしない美紅を横から立たせようとした。


「行かないといけないのです、美紅」


「え、ひょっと……」

 美紅は食べる途中に立たされたのでナイフとフォークを持ったままだった。


「もう、全く美紅は相変わらずね」

 美紅の前にいた美恵が持っていたナイフとフォークを取り上げた。


「みゃだ、ちゃべ終わってないのだ……」

 美紅はそうは言ったが、美希に引きずられていった。


 美緖と美佳はその後に続いた。

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