その5
食事は和気あいあいという感じで進んだという訳ではなかった。
ただ和香の人柄なのか、食事は終始和やかに進んだ。
そのせいか、美緖達は街に出て起こった事をポツリポツリと話し出し、食事が終わる頃には全ての事情を話し終えていた。
話を聞きながら麻衣は終始同情し、千香はプンスカ怒っていた。
悦子は最後まで冷静で、美緖達が話しやすい雰囲気を作っていた。
真奈はずうっと無表情だったが、話はきちんと聞いていた。
「まあ、そうね。
まずは、4人には街に着ていける私服が必要ね」
和香は食後の日本茶を飲みながらそう言った。
「中隊長殿、どうしてそう言った結論になるのでしょうか?」
和香の言葉にいの一番にツッコミを入れたのはずうっと無表情だった真奈だった。
この意見には無論他の一同も同意見だった。
「まあ、今回は楽しめなかったのは残念だけど、まずはオシャレを楽しむ事から始めましょうって事よ」
和香は真奈のツッコミにそう答えた。
他の一同は全員ぽかんとした顔をしていた。
「街に遊びに行くのに、軍服ではいけないという事ですか?」
千香はぽかんとした顔のまま聞いてきた。
「そういう事よ。
遊びに行くには遊びに行く格好をしなくてはね」
和香はちょっと熱く語った。
「でも、中隊長殿。
美緖隊員達はその格好をするために買い物をしに出掛けた所で、躓いたのですよ」
悦子は冷静に和香の言っている矛盾点を付いた。
麻衣・千香・真奈は悦子の言った事に一斉にうんうんと頷いた。
「ああ、そうね」
和香はうっかりしていたとばかりの口調でそう言った。
しかし、すぐに、
「でも、だからこそ、そこから始めないといけないわね」
と熱く語った。
「で、中隊長殿。
そこからをどう始めるのでしょうか?」
真奈は再び和香にツッコミを入れた。
美緖達4人の方は事の成り行きを固唾を飲んで見守っていた。
「そうね」
和香は腕組みをして考え込むようにしてから周りを見渡した。
「久乃木少尉、宮下伍長、千葉兵長、田中兵長。
貴官らに命じます。
美緖・美佳・美希・美紅隊員の服選びをしてきなさい」
和香は上官命令らしい口調でそう言った。
「今からですか?」
思わぬ事になったので、麻衣がびっくりして聞いた。
「善は急げというじゃない」
和香は悪戯っぽく笑った。
その言葉を受けて、麻衣・千香・悦子は戸惑った顔をした。
「中隊長殿、命令を下すのはいいのですが、書類の整理がまだ残っています。
残っている書類は全て中隊長殿がお引き受けくださると考えていいのでしょうか?」
真菜は無慈悲な表情で無慈悲な事を聞いた。
和香はしまった忘れていたという顔をした。
「いかがなさいましたか?
命令の変更は中隊の士気に関わりますが」
真菜は黙っている和香に追い打ちを掛けた。
「うぁ、伍長、厳しい……」
思わず麻衣の口からそう言った言葉が漏れ出てしまうぐらいの厳しさがあった。
「後の事は私に任せてくれれば問題ないわよ」
和香は口元が引きつりながら心にもない事を言った。
「了解しました、中隊長殿」
真菜はそう言うと、立ち上がって敬礼した。
それを見て、麻衣・千香・悦子もさっと立ち上がって敬礼した。
もう後戻りはできなかった。
和香は座ったまま仕方がなく答礼した。
「じゃあ、早速行きましょうか」
麻衣がそう言うと、座っている美緖の手を引いて立たせた。
それと同時に、千香が美佳を、悦子が美希を、真菜が美紅を立たせていた。
「やっぱり最初は目立つからバラバラにツーマンセルで行く事にしましょ」
「組み合わせはどうします?」
「このままでいいのではないでしょうか」
などと話しながら8人は残った和香に目もくれずに遠ざかっていった。
残された和香は寂しく思って、天井を見上げた。
だがすぐに、ま、いいかっと思っていた。